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「……みんな、無事か?」
「無事よぉ。でも一人無事じゃないのも居るけど……」
トビカラスを刺激してしまい、現状を作り出してしまったキッシュが気まずそうに、だが聞かなければならない言葉を発する。それに答えたのは、キッシュの居る最上段から二つ下のハーゲテーナイだった。階段へと跳び込むようにして次の階層へと進んだため、一番前を走っていたアニーキの上へと乗るようにして倒れ込んだ為だ。
一番後ろを走っていたキッシュが一番上だったが、そもそも一番小柄で体重も軽いキッシュ程度ならば下敷きになった連中ならばどうってことは無い。その下に居る四夜もまた、忍鬼であるため、鬼としては小柄も小柄。更には力で押すタイプではなく、速度で攪乱するタイプである以上、余計な筋肉をつけたりもしていない。
ただ見た目筋肉達磨の言葉通り、大柄で全身に筋肉の鎧を付けた下手な男よりも大柄な、到底サキュバスだと信じられないハーゲテーナイの下敷きにされたアニーキは、キッシュ達の小柄なれどそれが二人分も加われば流石に耐えられなかったようだ。
トビカラスに追いかけられ、腹這いに跳び込むようにして最下層へと逃げ込んだのがいけなかったのか、泡を吹いて気絶していた。
「それよりもトビカラスは追ってこないでしょうね!?」
「大丈夫だって。階層を跨ぐ扉は魔獣を通さないから。」
それ扱いされたアニーキだが、そもそもアニーキは傭兵団の団長を務めており、荒事に慣れている筈で、曲がりなりにもサキュバスであり、精気が食料である為人体に精通しているハーゲテーナイが、軽く診断すれば、ただ気絶しているだけだと分かった。……よりも、そもそもこうなった原因である大量のトビカラスを心配するも、ダンジョンでは階層に出てくる魔獣はその階層でしか行動出来ない。
なぜならば階層を移動する為の扉を潜れないからだ。魔力の質が微妙に違うためだと言われているが詳しい事は判ってはいない。
先ほど失敗したばかりのキッシュのセリフに少しだけ心配になりながらも、ハーゲテーナイは一度チラリと上の階層に続く場所を見た。四夜が何も警戒しておらず、ここに跳び込むよう指示したのはアニーキだと思い出した。安心したようにホッと息を吐いた。
「それにしても、さっきまでとは全然違う景色ね。」
「まぁ、最終階層だし。」
気絶しているだけのアニーキを介抱しながら周りを見渡したハーゲテーナイが、さっきまでの開放的なフィールドとは違い、周りをごつごつした岩をくり抜いたかのようなダンジョンの様子に不安そうに呟く。キッシュの気楽そうな回答にすぐさま脱力するのだが。
ダンジョンの最終階層は、ダンジョンの形式、フィールド型、迷宮型に関わらず、必ず迷宮型になっている。それは最終階層で待ち受けるボス魔獣の巣であるという設定だからだ。フィールド型の場合のみ、ボス魔獣部屋の天井部分がくり抜かれたように無い状態だが。
「……いっつぅ!?」
「あら?起きたかしら。」
元々大した事のない怪我であり、ハーゲテーナイの適切な処置が効いたのか、気絶していたアニーキが起き上がる。
「トビガラスは!?」
「大丈夫だ。無事最終階層に降りられた。」
「そうか……、ってキッシュ、テメェ!!」
起き上がるなり、トビカラスの事を心配するアニーキだったが、キッシュが最終階層に降りられた事を告げると。アニーキの関心はキッシュの無茶な行動に移る。少しの間説教をし、最終的には少しは俺の話を聞けという言葉で締められた。
「……そろそろ移動した方が良いんじゃないか?」
「……そうだな。幸いボス部屋まで一直線の様だし。」
そんなやり取りを終わった頃合いを見計らい、四夜が声を掛ける。ダンジョンへと潜っているのは正規の方法ではない以上、少しでも早く終わらせたことにこしたことは無いからだ。トビカラスに追いかけられたリとハプニングが続いて、それなりに時間も押している。
そのことに改めてアニーキが頷き、だが今居る場所から続く道は真っすぐ一本道であり、その先には大きく重厚な扉が見えている。ボス部屋へと続く扉であり、アニーキにとっては見慣れた扉でもあった。
「行くか。」
「そうだな。」
いつまでもこうしては居られないと、アニーキの言葉にキッシュが立ち上がりながら答えた。
「ちょっ!?ちょっと、待って。」
「あん?どうしたんだよ。」
「あ、足が、足が痺れた。」
到底かっこいいとは言えなかったが。
「うお!?広っ!!」
扉を開け、中を覗き込んだアニーキの第一声である。洞窟を抜けた先、今までの様なフィールド型の様な広場があり、上から光が降り注いでいる。ただ暗く、光もどうも月明かりの様だった。
「んで、何処にボスがいんだよ?」
ただ目的である竜種系のボス魔獣がどこにも見当たらなかった。真っ暗闇と言う訳でも無く、降り注ぐ月明かりもそれなりにあり、見逃した筈もないが、もう一度周りをぐるっと見渡す一同。
そんな中、上からバッサバッサという羽ばたく音が聞こえた。
「上か!!……って、はぁっ!?」
キッシュを除く面々が視線を上に向けて絶句した。
理由は、その視線の先。ボス魔獣だと思われる魔獣の姿にあった。
竜種と言われて、やはり想像するのは大きな体躯に、大空を自在に飛び回る為の大きな羽だろう。現れた魔獣はそれに当てはまるが、それに追加して白い毛におおわれ、頭頂部に真っ赤な鶏冠があり、黄色いクチバシが付いている。
こっ、こっ、こ。こっけ、こっこぉおおおおおおおおお!!!
「鶏じゃねぇか!!」
鳴き声も含めて、とてつもなく大きいオスの鶏。叫んだ鳴き声もビリビリと空気を揺らし、衝撃を伴うも、やはりその見慣れた姿に士気を維持できない。
ズンと振動と周りの土埃を舞い上げながら大鶏は地上に降り立った。
「気を付けろ。見た目はあんなんだけど、竜種には違いないからっ!!」
周りの脱力している様子に、見た目通りではないとキッシュが注意する。
大鶏の正式な名前は『コッケイオウ』と言い、竜種に分類される魔獣である。竜種である以上、その身に似合わないパワーと飛行能力を有し、何より炎のブレスを吐く。毛皮が厚く、またため込んだ脂肪がたいていの打撃攻撃を無効にしてしまう。ビックフットトレントと比べれば大きさは小さいが、ランクで言えば格上の魔獣でもあった。
「うおっ!?」
コッケイオウは一度羽ばたき、少しだけ浮かぶと、体を水面にし滑空するかのように突っ込んできた。正面に居たアニーキが驚きの声を上げつつも回避する。回避されたがそのままコッケイオウはキッシュの方へと突っ込んできた。
「よっ…と。」
だがキッシュの身体能力は更に上を行くために、なんの問題も無く、横に飛ぶようにしてあっさりと回避する。すぐさま反撃しようとして、コッケイオウが反転しクチバシを開いているのを見た。
ゴアと空気が焼ける音と共に炎のブレスが吐き出された。




