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桃太郎  作者: hi07


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第十五話 寄り道への賛同、不穏なせんべい

「いやいや、こっちだよ! 足元に気をつけな!」


ひょろりとした背中を丸め、ぴょんぴょんと跳ねるように山道を進む羽柴せんべいの後を、松平とうずらは必死に追いかけていました。


九谷山の裾野は、うっそうとした樹木と険しい岩場が続く難所です。本来ならばどこが道かも分からないような山林ですが、せんべいは迷う素振りすら見せず、すいすいと獣道のような狭い道を進んでいきます。


「せんべい、お前……こんな山奥の抜け道までよく知ってるな」


松平が息を乱しながら感心したように声をかけると、せんべいは振り返り、手拭いの端を引っ張りながらニヒヒと軽い笑みを浮かべました。


「いやいや、俺は昔から島中を歩き回るのが仕事だからね! 山菜採りやら木の実拾いやら、島中自分の庭みたいなもんさ!」


おどけた調子で冗談めかすせんべいでしたが、ただの山菜採りにしては、あまりにも道選びに無駄がなく、危険な場所を巧みに避けていました。その姿を見た松平は不思議に思いました。


しかも、足音が驚くほど静かです。


(……仕事?……どう言うことだ?)


すると前方を歩いていたせんべいがふと立ち止まり、振り返りました。


「いやいや、松平さん。有田村へ向かう前に、ちょっと寄りたいところがあるんだが……いいかい?」


「寄りたいところ?」


「いやいや、瀬戸村だよ」


瀬戸村といえば、一番最初に鬼たちに襲撃された、湾の中央にある村です。


「いやいや、有田村へ急ぎたい気持ちはやまやまなんだけどね。瀬戸村に立ち寄って、確かめておきたいことがあるんだ」


そう言いながら、せんべいは人さし指を立てました。


「いやいや、瀬戸村へ向かった、おもちちゃんのことだよ。瀬戸村が襲われたという知らせを受けて、一人で向かったんだろ? 無事に辿り着けたのか……何か手掛かりがあるかもしれない。様子を見ておきたいんだ」


松平は波佐見村に残ったあんこの、姉を心配するあの痛々しい顔が目に浮かびます。


「いやいや、それに、瀬戸村に医者や薬に詳しい人が残っているかもしれない。波佐見村には怪我人がたくさんいるから……有田村へ行く前に、瀬戸村の状況を確認しておきたいんだよ」


「そうか、そうだな。分かった、瀬戸村へ寄ろう」


松平が強く頷くと、うずらも胸の前で小さな拳を握りしめました。


「俺も! おもちお姉ちゃんのこと、探す!」


「ハハハいやいや、うずらちゃんは頼もしいねぇ! でも瀬戸村まではずいぶんと下らないといけないから、今日はこの辺りで野宿だな」


せんべいはそう言うと、すぐに夕飯の準備を始めます。


「やたらと手際がいいな、いつもこんなことしてるのか?」


「ん?……あ、あぁ、いやいや、そうそうハハハ」


一瞬せんべいのおどけた表情が消えたように見えましたが、それをかき消すように慌てて喋り出します。


「いやいや、うずらちゃん。美味しい山菜いっぱいあるから、たくさん食べてよ」


「うんっ、やったー!ありがとう」


松平は誤魔化されたように感じましたが、あまり気にすることもなく、この日は、布団の代わりに落ち葉を敷き詰め、寝ることにしました。



…………


…………



翌朝、松平が目を覚ますとせんべいの姿がありません。まだ朝日も昇りきらない、何の音も聞こえない、静まり返った薄暗い山の中は、より一層不気味に感じます。


「いやいや、おはよう。もう起きたのかい?」


「わっ!」


急に背後から声をかけられた松平は目を見開き驚きました。


「いやいや、そんな驚かなくてもハハハ」


「あ、あぁ……もう起きてたのか?何してたんだ?」


「いやいや、川の水をくんでたんだよ。瀬戸村まではまだ遠いからね」


「そ、そうか……」

(川?……川なんて近くにあったか……それにしても足音が全くしなかった……ただへらへらしてるだけのやつじゃないな……)


「う、う〜ん」


まだまだ眠たい目をこすりながら、うずらも起き上がりました。


「いやいや、うずらちゃんおはよう。ちょっと早いけど瀬戸村へ出発しよう」


「え?もう行くのぉ?」


「いやいや、また野犬に囲まれても嫌だろ?」


「そ、そうだね。行こう行こう」


うずらは慌てたように立ち上がり松平の手を引きます。


「よし、じゃあ行くか」


松平の掛け声に合わせて、うずらは気合いを入れるように、きび団子を一つ口に放り込みました。


三人は瀬戸村を目指し歩き出します。山道を下るにつれ、徐々に潮の香りが強くなってきます。お日様が真上に昇り切る少し前、焦げくさい嫌な匂いが風に乗って鼻を突き始めました。


「……いやいや……着いたよ」


せんべいは茂みを押し分けると、足を止めました。


その先に見えたのは、焼き払われ、黒い煙が今なおうっすらと立ち上る、惨状と化した瀬戸村の姿でした。


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