最終話「選ばないという選択」
朝の光で目が覚める。
カーテンの隙間から入る光が、やけに強い。
「……」
少しだけ目を細める。
頭は、思っていたよりも静かだった。
昨日までのざわつきが、少し引いている。
完全に消えたわけじゃない。
でも――
整理されている。
ベッドから起き上がる。
スマホを見る。
通知はない。
いつも通り。
でも、今はそれが“普通”に戻った感じがする。
「……」
ゆっくり息を吐く。
思い出す。
ようこのこと。
れいかのこと。
なおみのこと。
全部、ちゃんと残っている。
消えていない。
でも――
今は、追いかけていない。
(……決めたんやな)
誰かを選ぶこともできた。
どれかに寄ることもできた。
でも、それをしなかった。
「……」
立ち上がる。
顔を洗う。
鏡を見る。
少しだけ、疲れた顔。
でも――
前よりも、はっきりしている。
(中途半端は、やめる)
頭の中で、言葉が繋がる。
誰かに寄ったまま、
答えを曖昧にしたまま、
続けることはできた。
でも、それは選ばなかった。
「……」
服を着る。
いつもの作業着。
いつもと同じはずなのに、
少しだけ違って感じる。
車に乗る。
エンジンをかける。
いつもの道。
いつもの景色。
でも――
今日は寄り道をしない。
まっすぐ走る。
(……行かへんのやな)
店の近くの道を通る。
少しだけ、意識する。
でも、ハンドルは切らない。
そのまま通り過ぎる。
胸が少しだけ引っかかる。
でも――
それでいいと思える。
仕事を終えて、夕方。
トラックを降りる。
空が少し赤い。
風が、ゆっくり流れる。
「……」
ポケットからスマホを出す。
少しだけ迷う。
でも――
メッセージを開く。
ようこ。
れいか。
なおみ。
それぞれの名前。
(……)
指が止まる。
でも、ゆっくり動かす。
短い文章。
それぞれに送る。
“ちゃんと決めました。
今は、一人でやってみます。”
それだけ。
余計なことは書かない。
言い訳もしない。
送信。
しばらくして――
既読がつく。
返事は、すぐには来ない。
それでいい。
「……」
スマホを閉じる。
ポケットに戻す。
空を見上げる。
さっきよりも、少しだけ暗くなっている。
でも――
嫌な感じはしない。
(これでええ)
初めて、そう思える。
誰かといる時間も、悪くなかった。
むしろ、必要だった。
でも――
今は違う。
ちゃんと、自分で立つ時間がいる。
そう思えた。
夜。
家に帰る。
静か。
何もない。
でも――
前みたいな空っぽじゃない。
「……」
ソファに座る。
深く息を吐く。
頭の中は、静かだ。
でも、その静けさが怖くない。
むしろ、落ち着く。
(ここからやな)
誰もいない。
でも、逃げてもいない。
それだけで、十分だった。
窓の外を見る。
夜の街。
ネオンが遠くに見える。
あの場所も、きっと光っている。
でも――
今は、そこに行かない。
「……また、いつか」
小さく呟く。
それが誰に向けた言葉かは、自分でも分からない。
でも――
その“いつか”は、逃げじゃない。
ちゃんと進んだ先にあるものだと、分かっていた。
完




