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異世界転移したら俺だけステータスが見れなくて奈落に落とされたのだが?  作者: すすむ
第1章

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第5話 知っていた者たち

あれから、一体何回死んだのだろうか。


錆びた短剣は、確かにあの重震獣に通った。

だが――浅い。


斬った感触があったはずなのに、あれは傷と呼べるほどのものじゃない。


何度か逃げようともした。

だが、逃げる隙すら与えてくれない。


距離を取る前に潰される。

視界の端に入った時点で、もう遅い。


「……どうすればいいんだよ」


息が荒い。


死ぬたびに体は元に戻るのに、疲労だけが抜けない気がする。

いや、違う。


疲れているのは――頭だ。


唯一、希望があるとすれば。


《適応率:上昇》


これだ。


なんなのか、よく分からない。

だが、確実に増えている。


「適応って……何にだよ」


攻撃か?

速度か?

それとも――この“死”にか?


分からない。

分からないが。


確実に変わってきているものがある。


重震獣の腕の動き。

振りかぶる前の重心。

踏み込みの癖。


最初は見えなかったものが、少しずつ分かるようになってきた。


「……いや」


違う。


見えているんじゃない。


“来る前に知っている”。


ドスン――


地面が揺れる前に、体が動いた。


拳が頬の横を通過する。

風圧が遅れて叩きつけてきた。


「……また避けた」


嬉しくない。


避けられても、殺される回数が減るだけだ。

勝てないまま続く方が――きつい。


《適応率:上昇》


表示が、また浮かぶ。


「……終わらせる方法を覚えてくれよ」


呟いた瞬間。


重震獣の動きが、ほんの一瞬だけ鈍った。


俺は無意識に踏み込んでいた。


錆びた短剣を、同じ場所へ振り抜く。


ギィン――


硬い。

だが。


前より、ほんの少しだけ深く入った。


「……え?」


刃が、数ミリ沈んでいる。


重震獣が低く唸る。


《戦闘データ蓄積》


「……そういうことか」


俺は初めて理解した。


適応しているのは、俺だけじゃない。


“戦い方”そのものを覚えている。


死ぬたびに。

この戦闘を――なぞるみたいに。



その頃――王宮では、夜が更けていた。


用意された寝室には、異様な数のベッドが並んでいる。

まるで最初から転移者を迎えると分かっていたかのように。

しかも男女別だ。


軽く四百人は寝られる広さ。

それが二部屋ある。


合計八百人分。


「……なぁ」


暗闇の中、(かける)が小声で呟いた。


「進って、生きてると思うか?」


天井を見ていた陽斗が、すぐには答えない。


しばらくしてから、息を吐く。


「……あいつ、しぶといからな」


「それ願望だろ」


「願望だな」


少しだけ、間が空く。


「でもさ」


陽斗が続ける。


「追い詰められた時ほど無茶する奴だったろ。だから逆に、生きてる気がする」


翔は黙る。


「……クラス回ってたの、結局あいつだったよな」


「ああ」


「俺がいじめられてたのも、最初に気づいたのあいつだった」


布団を握る音がする。


「止めたのも、あいつ」


沈黙。


「……無事だといいな」


「――なあ」


今度は陽斗が声を落とした。


「王様、変じゃなかったか?」


翔が少し身じろぐ。


「処分って言った時、拳握ってたろ」


「……うん」


「怒ってるんじゃなかった。怯えてた」


翔は天井を見る。


「王様もだけどさ……」


記憶を探るように言う。


「広瀬と加川と山田」


「……ああ」


「笑ってたよな」


陽斗の眉が寄る。


「……俺も思った」


「あと女子も何人か。分かってたみたいな顔してた」


「この世界に来ることを?」


「そんな感じ」


静寂。


「進を落とす時だけ、王様すげぇ苦しそうだった」


陽斗が呟く。


「逆らえないみたいな顔だった」


翔が続ける。


「でもさ――」


一拍。


「落とした後、安心してた」


「……ああ」


「俺が『なんで進を落としたんだよ』って言った時もさ」


「怒らなかったな」


「むしろ……終わった、みたいな顔してた」


沈黙。


そして二人は、小さく同時に呟く。


「――まるで、“役目を終えた”みたいに」


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