第4話 死ねない試練
しかし——一体どうすればいい。
あの威力だ。
まともに当たれば、ひとたまりもない。
まず、自分がどんな能力を持っているのかすら分からない。
分かっているのは一つだけ。
「……速くなってる」
さっき、確かに避けられた。
人間じゃありえない動きだった。
だが、それだけだ。
攻撃手段がない。
「当たったら終わりだろ……絶対」
そう思った瞬間——
ゴッ
「っ!?」
視界が迫る。
拳。
デカい。
速い。
避けられない。
「あ、これ死んだわ」
こんな所で俺は死ぬのか。
ああ、まだやり残したこと、いっぱいあったのに。
どうでもいいことだけ、はっきり考えられた。
重震獣の拳が——直撃した。
⸻
凄まじい衝撃が頭を叩いた。
音が消えた。
痛みが来る前に、感覚の方が消えた。
代わりに、体がどこにあるのか分からない。
「あ……?」
視界が、横に回転する。
地面じゃない。
天井でもない。
――浮いている?
遅れて、見えた。
少し離れた場所に、
制服を着た“誰か”が立っている。
「……は?」
数秒かけて理解する。
俺の体だった。
首から上が、ない。
「あれ……」
口が動いている感覚がない。
声も聞こえない。
なのに思考だけが続く。
「あれ……俺の体……なんであんなとこに……?」
そこで、意識が途切れた。
⸻
《試練中断》
《損傷個体を再生します》
「……は?」
息を吸った。
肺が動く。
心臓が動く。
体が動く。
「俺……死んだんじゃ……」
《本試練は“復活の泉”と接続されています》
《試練中、個体は死亡しません》
「……え?」
「……さっきの、見間違いじゃないのか……?」
理解した瞬間——
助かった、とは思えなかった。
ドスン!!
また、足音が迫る。
重震獣が再び拳を振り下ろした。
「やめろ!!」
さっき確実に殺された相手だ。
本能が逃げろと叫ぶ。
怖い
怖い
怖い
「……やめてくれ」
避ける。
転がる。
それでも迫る巨大な影。
「死にたくない……!」
《継続戦闘を確認》
《適応学習を開始します》
「は……?」
怪物が踏み込む。
逃げ場はない。
――胸を貫かれた。
肺の空気が一瞬で抜け、声が出ない。
心臓の鼓動が止まるのが分かった。
⸻
《損傷個体を再生します》
――握り潰された。
骨が順番に折れていく。
潰れる音を、自分の中から聞いた。
⸻
《損傷個体を再生します》
――踏み潰された。
地面に埋まり、視界が黒に沈む。
⸻
《損傷個体を再生します》
――投げられた。
岩壁に叩きつけられ、背骨が折れた。
⸻
《損傷個体を再生します》
――腕を引きちぎられた。
叫ぼうとして、首を折られた。
⸻
《損傷個体を再生します》
――頭を砕かれた。
考えが途中で消える。
⸻
《損傷個体を再生します》
――また、潰された。
⸻
《損傷個体を再生します》
――また、殺された。
⸻
《損傷個体を再生します》
――また。次に来る衝撃を、待ってしまった。
⸻
「……っ、は……ぁ……」
何回目か分からない。
死ぬ瞬間が、予測できるようになっていた。
次は胸。
次は頭。
次は握り潰される。
分かるのに、避けられない。
《学習率:上昇》
「……もう……いいだろ……」
勝ちたいんじゃない。
終わってほしいだけだ。
⸻
怪物が踏み込む。
だが今度は——
分かった。
さっきより、動きが見える。
「……っ!」
横に踏み込む。
拳が頬をかすめる。
「避け……た?」
心臓が爆発しそうなほど鳴る。
だが嬉しくない。
次は、どの死に方だ?
恐怖が消えない。
ただ——
ほんのわずかだけ、“遅れる”ようになった。
⸻
重震獣が唸る。
巨体が振りかぶる。
「……来る」
拳が落ちる位置が、分かる。
半歩前へ。
轟音。
岩が砕ける。
「今だ……!」
錆びた短剣を振る。
ギィン!!
弾かれる。
だが——
脚に、浅い線が刻まれた。
「……え?」
止まった。
初めて、止まった。
《初回干渉を確認》
《戦闘データ取得》
重震獣が咆哮する。
逃げなきゃいけないのに、動けない。
足が震える。
それでも——
「……通るんだ……」
勝てるとは思えない。
ただ。
終わりがあるかもしれないと、思ってしまった。
《適応率:上昇》




