963 逆襲のタルト
出発の準備をした後、ヴォルフ、ヒューリック、ボヤッキー、ジル、ルシオ、ゴマちゃん、ニャルル、シャイナ、パメラ、そしてボヤッキーの婚約者であるドロシーちゃんとヒューリックの婚約者のルミナまでが玉座の間に集まった。
戦闘しに行くとかだったらドロシーちゃんとルミナまでは来なかったと思うが、今回は『ヴォルフの嫁大作戦』ということで、絶対行くと参加を熱望したのだ。
俺達の狙いは恋の成就なわけだが、中心人物であるヴォルフだけは何も知らされていないので、みんな仕事で忙しいのに何でこんなに集まったのか訝しんでいる。
ちなみにジルにも婚約者がいて、幼馴染の美女姉妹を両方とも嫁にするつもりらしいのだが、ミスフィート軍の兵士じゃないから今回は参加しなかった。
ただヴォルフの嫁候補が美女三姉妹と聞いて、恋が成就すれば自分と同じ境遇になるのがすごく嬉しいようで、この中の誰よりもジルが一番熱くなっていたりする。
おそらく『姉妹丼だと?この贅沢野郎が!』って感じで散々茶化されていたからこうなったんだと思うが、嫁の人数がどんどん膨れ上がっている俺とルシオもジルに近い感情を持っているので、こちら側の人間と言えるだろう。
「転移する前に言っておく。冒険者達はブラックナイト装備で大変盛り上がってると思うが、20人以上の仲間を弔ったばかりだから心に傷を負っている。その傷を広げないよう言動には気を付けてくれ」
それを聞き、聖帝軍との死闘で多くの仲間を失った時のことを思い出したようで、全員静かに頷いた。
北海道組は聖帝軍との戦には参加してないが、陸奥のゼネトス軍との戦で同じ経験をしているから、その時のことを思い出しているのだろう。
「じゃあタルトの街に飛ぶぞ。全員手を繋いでくれ」
どこに飛ぼうか少し迷ったが、もう全員集まって話し合ってるとこだろうから冒険者ギルドの前に転移した。
「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!」」
「ここが世界最北の地か・・・」
「街並みが京の都ともルーサイアとも全然違いますね!」
「空気がうめーーーーーーーーーー!」
「私もそう思っていました!」
男連中はそんな感じだが、北海道組は懐かしさで感傷に浸ってる感じだな。
「プリンパじゃないけど、なんかすげえ懐かしいな」
「うん。ちょっと泣きそう」
「目の前にギルドがあるにゃ」
「これがタルトの冒険者ギルドか~。プリンパより年季が入ってるわね」
「あ、そういえば四人とも最北の地出身でしたわね!」
「なんかすごく人が多くないかい?」
ドロシーちゃんの言う通り、なんかやたらと人が多いな。
俺達を見て指差したりしてる人もいるが、昨日はこんなに混雑してなかったぞ?
「あー、わかった!冒険者達が街中で噂を流して、ブラックナイト隊を見に集まったんだきっと」
「なるほど!これからあのプロトファスマを殲滅しにいくわけだから、街の住民達も期待して見に来たんですね」
亡くなった冒険者の身内とか、プロトファスマを恨んでる人もいるだろう。
気持ちはわかるが、邪魔だけはしないでくれよ?
「よし、ギルドの中に入るぞ!」
ガチャッ ギギギッ
少し年季の入った扉を開けてギルドの中に入る。
仲間達も俺に続いて入って来た。
「あっ!こがらすまるのアニキ!」
タタタタッ
俺に一番懐いてる舎弟がこっちに駆けて来た。派手な格好をしたのがゾロゾロ入って来たので、冒険者達が驚いた顔をして変な集団を見ている。
「えーと、この派手な人達は?アニキもメッチャ派手だけど」
「俺の仲間達だ。昨日ブラックナイト隊の話をしたら。見てみたいってついて来てしまったんだ」
「わはははははは!格好良すぎですもんね!すげーわかるっス!」
タタタタタッ
「ヴォルフ!」
「やっとヴォルフさんが来た!」
「来ないのかと思って寂しかったよ!」
美少女三姉妹が真っ直ぐヴォルフに向かって走って来て、両腕に絡みついた。
・・・なんか昨日より密着度が増してないか?
「うお!どうした急に!」
「今ね、作戦会議中なんだ。ヴォルフさんとこがらすさんも前にいこ!」
「こがらすまるな?」
ヴォルフに絡みついている三人を見て、これが噂の美少女三姉妹かと仲間達が口端を上げた。
関係者じゃない仲間達は遠慮して最後列に留まったが、俺とヴォルフは街の救世主なので人混みにビクトリーロードが開き、ギルマスのいる方へ進んでいく。
「最強装備だけ渡してもう来ないのかと思ったぞ!だが来てくれて良かった。俺の作戦に穴があったら容赦なく指摘してくれ」
「わかった」
こうしてギルマスの作戦が皆に伝えられたが、ブラックナイト隊を中心に考えた作戦であり、予備隊と交代する時に骨セット隊とそれ以外の冒険者達で魔物を引き付けるって感じの内容だったので、別に指摘するようなポイントは無かった。
しいて言えば陽動の時気を付けろよーってくらいだが、そんなの彼らが一番よくわかってるので、俺が言うまでもないだろう。
最後まで話したところでギルマスに問題点は無いか聞かれたので、ギルマスの横にデカい樽を出した。
「何だこれは!?樽・・・だよな?」
「えーと、冒険者って全部で何人いるんだ?200人くらいか?」
「ん?ああ、それくらいだが」
ギルマスにガラスのコップを手渡した。
そして受付のお姉さんを呼び寄せる。
「この蛇口を捻るとこんな感じで水が出るのだが、ギルマスのコップにも同じくらい水を入れてくれ。零さないようにな?」
「えーと、はい」
受付嬢がギルマスからコップを受け取って水を入れた。
「これは戦勝祈願みたいなもんだ。二人とも一気に飲み干せ!」
「え?私はただのギルド職員で戦わないんですけど!」
「細かいことはどーでもいいんだよ!景気付けに一杯飲んどけ!」
「意味がわからんが、喉も乾いてたし頂くとしよう」
ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ ぷはーーーっ
聖水を飲み干したギルマスと受付嬢が、美味しさに目を輝かせて笑顔になった。
「美味い水だな!」
「本当に美味しいですよこれ!」
そしてすぐに自分の身体に起きた異変を察知する。
「な、なんだこの溢れ出すパワーは!」
「なんかすごく視界が良くなったんですけど!え!?なにこれ!!」
どうやら受付のお姉さんは視力が悪かったようだ。ラッキーだったな!
「さっき言った通りこれは戦勝祈願だ!冒険者全員に飲んでもらおう。お姉さんはコップに水を注いでやってくれ」
「は、はい!」
こうして冒険者全員に聖水が振舞われた。
昨日俺とヴォルフが治療してやった冒険者達には無意味なのだが、説明するのも面倒なんで関係なく一杯飲ませた。ついでにギルド職員まで全員だ。
とにかくこれで昨日の疲れも吹き飛び、古傷や視力が回復したハズだから、頑張ってくれることだろう。
これで準備は整った。タルト冒険者の逆襲が始まるのだ!




