83 お洒落の町の第一歩
論功行賞の日から1週間、軍は忙しい毎日を過ごしていた。
ジャバルグ軍撃破の噂が広がり、尾張各地からどんどん人が集まってくるのだ。
人族だけじゃなく、獣人、ドワーフ、そしてエルフも来た。
そう、その中にはルルの村の人達がいたのだ。
これを喜んだのはルルだけじゃなく、軍の女性陣全員だったりする。
やっとルーサイアの街に美しい布がもたらされたからだ。
当然のことながらエルフ達は歓迎され、ルーサイアの一等地に店を持つことを許可された。
ただ、さすがに軍の皆が服を作れるほどの布は持っておらず、これから地味に織っていくのを待つしかない状態だ。
真っ先にエルフ達に突撃し、運よく布を手に入れることが出来た人達は、ダンジョン産のセンス溢れる服を参考に自分の服を作り始めている。
うん。服が一斉に完成したら、間違いなく俺は滅びるね。
というか、すでに下着を持参して、付与の依頼をしに来た猛者までいるのだ。
恩賞組の話を詳しく聞いて、一早く下着の素晴らしさに気付いたのだろう。
そして街の人達も、ただ指を咥えて見ているだけじゃなく、布を扱う店がいくつか出始めたのだ。なんせ大名のミスフィートさんがお洒落な街を目指しているのだから、支配下にある街は自ずとこうなる。
―――ある日突然、美しい衣装を着た人達が街に出現した。
もちろん彼女らが街を歩くと注目の的になる。街の住人達の噂話は、すべて美しい服を着た女性達の話だと言っても過言ではないだろう。
そして一度でも彼女達の姿を見てしまったら、あの煌びやかな服を着た自分を想像し、どうしても手に入れたくなるワケだ。もちろんそれに気が付かない商人などいない。良い服を作れば確実に売れるのだから
問題なのは、俺が用意した服はどれも高度な製法で作られているので、真似しようにも不可能だということ。でも見本がその辺をフラフラ歩いているのだから、一気に文明のレベルが上がる可能性も十分ある。
現状どこまで文明が発展しているのかだけど、ルーサイアの服屋を一度見学に行った時に、糸車や機織機を使っているのは確認した。なのでとりあえず俺は布作りには関わらずに、しばらくは街の人らに任せてみようと思う。情報が乏しい状況だとは思うけど、そこは試行錯誤して頑張って欲しい。
でも女性陣の服作りも大変そうだし、頑張ってミシンとか作ろうかな?
まあそういうのは全て、尾張が平和になってからか。
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―――時は戻って2日前―――
「小烏丸くん、いる~?」
「どうぞー」
作業部屋に入って来たのはフィオリーナだ。
「ブラジャー作ってたんだけど、後ろの引っ掛ける部分ってどうしたらいいの?」
「ああー、そっか!確かにブラジャーって布だけじゃ作れないよな」
ホックは必要不可欠だ。あとカップ周りにワイヤーが入っていた気がする。
それが入ってないと、バストを支えきれないとかだっけか。
マジックバッグからブラジャーを取り出して、2人で構造を調べてみる。
「なるほど・・・、ちゃんと調べると上手いこと出来てるもんだ」
「本当にすごいよねー!」
下着に興味がありそうだったので、2人であれこれと協議する。
フィオリーナの作りかけブラジャーと違いを確かめる為に、実際に彼女にブラジャーを着けてもらい、違いを正確に教えてもらう。
寄せて上げてを試すのに直接触れたりもしてるんだけどさ、密室で女の子と2人でやってると一歩間違えたらエロいことしてるみたいだよなコレ・・・。
違うんだよ!純粋に下着の研究をしてるだけなんだ!下着メーカーの人ならわかってくれるよな!?
「ホックは絶対必要だし、ワイヤーもあった方がいいね」
「あとカップ下の土台も重要ね。これを作った人は天才だわ!」
「現物は持ってたけど俺って下着には全然詳しくないからさ、本当に勉強になったよ。そうだ!フィオリーナさ、下着作りを極めてみない?」
「・・・わたしが!?」
「パンティーはともかく、ブラジャーなんて服屋でもまだ作ってないと思うんだ。フィオリーナが作り方を極めれば、第一人者として大稼ぎ出来るかもしれないぞ?」
「下着専門店を経営するってこと?」
「まあ今はジャバルグを駆逐するのが先決なんで無理だけどさ、平和になったら間違いなく商人の時代が来るハズ!」
今は無理だけど、平和になってからも軍に所属し続ける必要って無いからな。戦闘が得意な人ならいいけど、フィオリーナはどちらかというとサポート側だ。文明レベルの低い今の尾張ならば、そっち方面で成功を収めることが出来る好機でもあるんだよね。
「なるほど、下着で商売かあ~~~!みんなも下着欲しがってたし、良い物を作れば売れるのは間違いないよね」
「ブラジャーの良さが街の人達に認知されてからの話だけどね。ルーサイアがお洒落の街として発展するならば、間違いなくこの先需要があるハズ」
「・・・少し頑張ってみようかな?」
「俺も応援するよ。時間があれば色々手伝えると思う。とりあえずホックとワイヤーを何個か作っとくわ」
「お願いするわね!」
マジックバッグからパンティーを取り出す。
「研究するのに必要だろうから、そのブラジャーはフィオリーナにあげよう。それとパンティーも渡しとく。ただ、ゴムって手に入るのかなあ・・・?」
「え?貰ってもいいの!?」
「下着は恩賞の服とは別扱いだから大丈夫。えーと、パンティーはたぶんすぐに真似るのは無理だと思うんで、ゴムの代わりに紐とかホックを使うしか無いかな」
「ゴムって?」
「こうやって広げると伸びるだろう?これがゴム」
「へーーーー!!これも凄いわね・・・・・・」
「まあこれも追々研究していこう」
こうして、尾張の国に下着の研究者1号が誕生したのだった。
間違いなく彼女は後世に名を残すことになるだろう。




