39 大盤振る舞い
「本当に私が貰ってもいいのか!?こ、こんな凄い剣を・・・」
「それは貴女に必要な武器です。あと、それは刀と言って剣とは少し違いますね」
「あ、ああ、そうだったな!」
「みんな聞いてくれ!これから刀の使い方を説明します」
騒がしかった訓練場が静まり返った。
良かった。ちゃんと聞いてくれる人達で。
「刀という武器は、剣のように叩きつけて斬っては本来の力が出せないんだ。叩きつけるのではなく、引きながら斬る。これは刃筋を立てると言うんだけど、滑らせるように斬ることで、その斬れ味は凄まじい威力を発揮する」
マジックバッグからデカい丸太を取り出して、垂直に立てた。
「え!?なんで??鞄からあんな大きな丸太が出て来たぞ??」
「ワタシにも、そのように見えた・・・」
「意味がわからない!」
しまった。確かに今のは不自然だった。まあいいか。
「ゴホン!では、この丸太を斬るので刮目せよ!」
居合抜きの構えを取った。でもやっぱり座ったままの姿勢から斬る凄さはまだ伝わらないだろうから、中腰になり、抜刀術の構えに移行。
―――刀を抜くと同時に相手を斬る。
刀が鞘に収まった不利な状態で、刀を抜いた相手に如何に勝つか?という発想から居合が生まれた。
確かに、剣を収めた状態の相手にいきなり斬られるとは普通思わないわな。
とても恐ろしい秘奥義と言えよう。
だが俺が憧れた抜刀術は、由来に関係なく、ただ美しいと思ったからだ。
チンッ
その神速の一振りは、一瞬で丸太を真っ二つにした。
「・・・まだ斬らないの?」
「いや、いつ抜いたのかわからなかったけど、剣を鞘に戻してたよ?」
「え?じゃあもう斬ったの!?」
「ん?にしては、丸太斬れてなくね?」
「失敗か?」
ドスッ
ワンテンポ遅れて、斜めに斬られた丸太が地面にずり落ちた。
「「・・・・・・・・・・・・」」
場は静まり返り、誰もしゃべらない。
「「うわ~~~~~~!!」」
「凄い!いつ斬ったのか速すぎてほとんど見えなかった!」
「なんて綺麗な斬撃なんだ・・・」
「私にもアレが出来るの!?」
ふー、失敗しなくて良かった・・・。
「真っすぐ叩きつけるのではなく、円の軌道で滑らせるように斬るんだ。衝撃耐性が付いてるとはいえ、やはり刀は細いからな。刀を折らないで戦うためにも円の軌道を極めてくれ」
みんなそれぞれ練習をし始めた。
この中から達人が現れてくれるのを期待しよう。
「ん?ミスフィートさん、どうしたんです?」
「え?ああ、いや、少しボーっとしていただけだ!」
「そ、そうか。訓練が一段落したらみんなを集めといて欲しい。俺も早くココに馴染みたいので、みんなにご馳走を振舞おうと思ってるんだ」
「ご馳走だと?」
「材料は全て揃っているんで、ただ人を集めるだけでいいですから」
「わかった。任せてくれ!ご馳走とは楽しみだな!」
「期待していいですよ?みんなを驚愕させて見せましょう」
「ほう、言ったな?此処のみんなは大食らいだからな?」
「ハハッ!少し怖くなって来ましたよ」
その後、みんながヘトヘトになるまで訓練は続けられた。
・・・・・
「刀の扱いってのは難しいモノだな」
「そうですね。一度剣に慣れてしまうと非常に難しいかもしれません」
「だが、斬れ味、剣速は本当に桁違いだ。そして何より軽い!」
「ハハッ!ずっと戦っていると、剣の重さって地味にキツいですからね」
「うむ。早く刀に慣れたいものだ。あ、そろそろ全員集めてもいいか?」
「お願いします」
「おい、みんな!今日はこがらすまるが、ご馳走を振舞ってくれるそうだ!全員食堂に集まってくれ。ここに居ない人にも声をかけてくれよ!」
「「はーい!」」
さて、一足先に食堂へ行って準備をしようか。
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ジュワー パチパチパチッ
大量のドラゴンステーキと、ホタテ・イカなどの海産物を焼きながら、同時にカニも茹でている。
こんなこともあろうかと、特大の炭火焼セットを作っといたのは正解だった。
軍に入るのは最初から決めていたことだからな。
匂いに釣られて、人もいっぱい集まって来た。
「すごくいい匂い~!」
「ご馳走とは聞いていたけど、本当に無茶苦茶美味そう!」
「や、ヤバくない?これ絶対美味しいよ!」
ふふっ、完璧に期待に答えてみせようじゃないか。
「すまないんだけど、このステーキを、焼けたヤツからどんどん皿に盛っていってくれないか?」
「まっかせてー!」
何人かに手伝ってもらい、全員がすぐ食べられるように配ってもらった。
料理酒とワインしか無いが、酒もみんなに配った。
「俺の名は小烏丸!今日はみんなと仲良くなろうと思い、ご馳走を用意しました!このステーキはドラゴンの肉です。海鮮物も大量に用意したし、おかわりも自由!みんな遠慮せず限界まで食べて下さい!では、この出会いに感謝して、乾杯!」
「「乾杯!!」」
そして宴は始まった。
「く~~~っ!久々の酒はきっく~!」
「うんまっ!ドラゴンちょーうっま!!」
「このでっかいホタテも無茶苦茶美味しいよ!」
「カニ最高!」
「いや、やっぱりこのステーキよ!桁違いだわ!」
人数が多いので、とにかく焼き続けた。
材料の数に不安は無い。ダンジョンで相当ストックしておいたからな。
「あーん」
「え?いや、それはさすがに恥ずかしいんですけど!」
ミスフィートさんが、ステーキの切れ端を俺の口の入れようとしている。
「こがらすまる、焼いてばっかりで全然食べてないだろう!」
「いや、まあ、しかし!」
「ほら、あーん」
ミスフィートさんの顔が赤い。これは酔ってるな?
しかし、うーーん。えーい、ままよ!
口を開けると、ステーキの肉が口の中に入って来た。
「もごもご、んまい」
「だろう!ほら、もう一切れ」
そりゃ嬉しいさ。嬉しいんだけど、でもやっぱ恥ずかしいって!
しかし彼女が満足するまで、あーんで食べさせられ続けたのだった。




