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最終話



 寝転がってからかなり経つが、眠気は今だに訪れる気配がない。

 はあ……眠れん。……散歩でも行くかな……。

 ノソリと起き上がり、ゆっくりと服に着替える。物音をなるべく立てないよう気をつけながら、戸締まりを確認し部屋を出た。

 どうせならばと、今まで通った事の無い道・方角へと目的もなくぶらぶら歩き出す。

 散歩ってのはそんなもんだよなー。あ、財布とケータイ忘れた。……まあいいか。わざわざ取りに帰るのも面倒だ。

 静まり返る深夜の住宅街では足音がよく響いていた。自分の足音を聞きながらのんびり俺は歩いていく。

 どのくらい歩いていたのか、気が付いたら目の前にやや広めの公園が出現していた。

 ベンチに座ると、どっと疲労感が俺を襲う。

 足、だる! 少し休憩するか。……てか、此処どこら辺だ?

 見覚えの無い公園に、結構遠くまで来たのかもしれない、と思う。

 ぼんやりしていると、恐らく散歩をしているのだろう、道にも公園内にも人影がチラホラと見え始めた。

 ふと顔を上げてみると、東の空が白みだしているのが見える。どうやら長いこと座り込んでいたようだ。


「もう朝か」


 今、何時だ? そろそろ帰らないと。

 そう思いはするも体が動こうとしない。


「高田君? ……高田君だよね」


「!! ああ、田辺か。おはよ」


 突然、名前を呼ばれ振り向いた。相手はクラスメートの田辺だった。


「おはよー、高田君。どしたの? こんな所で」


 田辺は公園の入口からこちらに向かってくる。もしかしてご近所さん?と言いながら近づいてきていた彼女は、唐突に歩みを止めた。


「あっ……ごめん……」


「なあ、田辺。ここって何処ら辺なんだ?」


 何を謝ってるんだ?

 少し首を傾げつつ、迷子なんだよねと正直に告げる。


「あ、そうだったんだ」


 田辺はホッとした様子でベンチに腰掛ける。それから彼女は最寄駅までの道順を丁寧に説明してくれた。

 駅名を聞いて驚いた。俺は4駅分も歩いていた。

 ……疲れるわけだよ……。


「あ、これ持ってって。高田君、今、財布持ってないんじゃない?」


 隣に座る田辺が差し出してきたのは、可愛いキャラクターの小銭入れだ。


「助かる。学校で返すわ」


 両手を合わせ軽く拝んでから受け取る。

 マジで助かった。現在地は判ったけど流石に今さら4駅分歩くのはキツイ。

 …………学校、か。学校にはアイツが……切人が居るんだよな。


「それじゃあ。また学校でね」


「……あ、ああ……」


 隣に人が居るにも関わらず自分の世界に入り掛けるが、ふいに声がかかりはっと我にかえった。

 立ち上がった田辺に何とか返事をする。

 手を振り歩き出す彼女に同じく手を振り返すが、俺はそれ以上動く事が出来なかった。

 田辺の背を見送った後、視線を足元に落とす。

 帰りたくねぇな。

 いつまでも此処にいた所でどうにもならないと判っている。だが昨日の事が思い出されてアパートに向かう気になれない。

 足元に視線を向けたままぼんやりしていると、視界に誰かの靴が入り込んできた。

 その誰かの足を辿り視線を上げる。そこに居たのは、先ほど立ち去ったはずの田辺だった。


「……あ、の……コレ……」


「何?」


 ハンカチが目の前に差し出されたが、意味がよく判らず、俺の目線より高い位置にある田辺の顔を見上げる。

 何かを察したのか、田辺は落ち着きなくさ迷わせていた視線を俺に合わせると、少し屈む。

 そっと頬にハンカチが添えられて、初めて自分が涙を流していることに気が付いた。

 いつからだ。俺はいつから泣いていた? そういや、さっき声掛けられた時に謝られたっけ。

 つまりだな、あの時俺は泣いていて? そんで今も涙は流れていて……少なくともあれからずっと泣いてたってか!?

 ……はっ恥ずかしいぃぃ! 女子に泣いてる所を見られるとか。あげくに涙を拭ってもらうなんて、ありえなくね!?

 俺はパニックになるあまり、頬を拭う動きに反応できず暫く固まっていた。

 顔が熱く、確認するまでもなく真っ赤になっているのが判る。

 あまりの恥ずかしさに目が泳いだ。


「わ、悪い」


 思わず出た俺からの謝罪に、一歩下がってハンカチを仕舞っていた田辺は軽く左右に首を振る事で答えた。

 何も聞かないんだな。

 かなり奇異な光景だろうに、好奇心も引く様子も見せず普通に振る舞う田辺。

 何も聞かれない事に内心、安堵する。見返りなく与えられる他人からの優しさに、ささくれていた心が癒されていくのを感じていた。


「それじゃ、ね」


 そう言いながら軽く手をあげ歩きだす。


「っ!! 田辺っ」


 こちらに背を向け去ろうとする田辺に対し、何故か焦りが募り、声を上げながら俺は反射的に立ち上がっていた。

 今まで動く気にならなかったのが嘘のような俊敏さに、自分でも驚いた。

 とっさに引き留めたのはいいが、何を話せばいいのか判らずパクパクと口の開閉を繰り返す。

 自分の挙動不審さにますます焦り、言葉が出ない。

 何か、何か言わないと!

 キョトンとした顔で、何? と体毎こちらに向き直した田辺を前に、ふたたび顔に熱が集まるのを感じた。

 落ち着けと心の中で念じながら一度目を閉じ、恥ずかしさをぐっと押し殺してからゆっくりと目を開く。

 田辺と目が合うと、するりと言葉が出た。


「その……ありがとう」


 彼女の目が驚きに見開かれたのは一瞬だけ。元々、大きめの瞳はすぐに細まり、ふわりと笑みの形を作る。


「どういたしまして」


 優しい微笑みにつられ、思わず俺も笑っていた。



 歩み去る田辺を公園の入口から見送る。時々振り返り手を振る田辺に、俺も同じように振り返す。

 彼女の背が曲がり角に消えるまでそうしてから、俺もアパートへ帰るべく体の向きを変えた。

 その時、強い風が吹き体が震え縮こまる。


「寒っ」


 しかし、口許には抑え切れない笑顔が浮かんでいるのを俺は自覚していた。

 顔を前に向け、俺は大きく一歩を踏み出す。

 11月の冷たい風とは対照的な、暖かい気持ちを胸に抱きながら。



end




~ご挨拶・謝罪~

 この度は拙い作品を読了下さり誠にありがとうございます。

 未熟で稚拙な出来ではございますが、何分、初めての執筆ですので何卒ご容赦下さいませ。


 それからBLっぽくなくてごめんなさい!!(土下座)

 キーワードをどうするか悩んでいたのですが。一応は男同士の恋愛(別れ)話ですので、とりあえずBLにしてみました。

 真っ当なBLを期待されていた方、本当に申し訳ありません!

2013.7 岩石


 本編の誤字脱字や文法の間違い等をざっと修正。

 今後も遊貴編も含めてミスに気づいた箇所からチマチマ修正していこうかと思います。

2014.2

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