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オレの縋る思いも虚しく、淡々と話していく流。普通にしてろと切人に念を押しながらも、学校内での行動は別にするという。
切人はクラスでも中心的な立場だと聞いている。かえってクラスメートの注目を集めてしまうのでは、と気になった。
「でもさ急にお昼とか別にしたら、変に思われないかな。なるべく一緒の方がいいんじゃない?」
「元々いつも一緒だったわけじゃないし。まあ、1ヶ月位たてば流石に変に思われるかもだけど、互いに接する態度を変えなきゃいくらでも取り繕えるから」
二人は今までも一緒に居たりはしなかったらしい。恋人同士のはずなのに、なんて寂しいのか。
「……そう……」
オレが思っていた以上に広かった二人の距離感に切なくなった。
確かに以前の切人は流に対する恋愛感情は無かった。
それは切人と付き合いだしてすぐに気付いたが、しかし今は違う。制服が夏服から冬服に変わる頃には切人は流を特別な目で見るようになっていた。
だから余計に流に打ち明ける事が出来なくなった。初めは裏切った罪悪感から。切人に捨てられる怖さがそれに加わってオレの口を重くしたんだ。
切人も流も確かにお互いが好きなはずなのに、このすれ違いは一体何なんだ。
口を出してしまいたくなるが、二人の間に割り込んだ自分が言う筋合いは無いと判っているから何も言えない。
「――余裕――な」
「え、何? 余裕??」
自分の思考にふけっていたら、流がぽつりとこぼした言葉を聞き逃した。
反射的に聞き返すが、向けられる視線の鋭さに背筋が震える。
「同情してんの? 切人に捨てられた俺がそんなに可哀相? 昼休みくらい一緒に過ごさせてあげるってか?」
さらに続けられた怒りが篭った言葉の数々。思いがけないそれらに血の気が引いた。
「っ! 違っ! ……そんなんじゃない!」
「へぇ? そうなんだ?」
必死に頭を振って否定するが信じてもらえない。
オレはそんな風に思ってない! 考えた事すらないよ!
「流っ! 違う、違うんだ。僕は、そんなつもりじゃ……!」
「それは、もういい」
流の声には悲痛さが滲んでいた。『もうカンベンして』そんな声なき声が聞こえた気がする。
また、だ。また傷付けた。傷付けたくなんか無いのに。ただ大切にしたいだけなのに、たったそれだけの事が上手く出来ない。
「流。……流っ……っくぅ…………違……」
どうにも出来ないもどかしさに涙が出てくる。泣くなんて卑怯だ。そう判ってはいるが一度零れてしまったらもう止められない。
何よりも、さらに流を傷付けたその事実が重く心にのしかかる。
イヤイヤをするように泣きながら首を降り続けていると、切人に抱き寄せられた。
それを見て、今まで静かにオレを見詰めていた瞳が切人へと向けられる。肩を撫でていく切人のその手が、その瞬間、何故だか不快に感じられた。
「遊貴を泣かせんな。コイツを鳴かしていいのは俺だけだ」
マヌケな発言をする切人に余計にイラついて、怒りのままに手を叩き落とした。
完全な八つ当たりだ。
「こんな時くらい真面目にやれよ!」
切人が驚いているようだがそれには一切構わず、オレは小さな子供のように癇癪を起こして切人に当たり散らしていた。
視線を感じてそちらを見ると、口端を少しだけ上げ、ほのかに笑みの形を作る幼馴染みが目に映る。
よく見なければ気付けない程の微かな笑みだが、それは紛れもなく今日初めて見えた笑顔だった。
笑ってくれたのが嬉しくて。でもいつもの優しい笑顔とは違うのが悲しくて。
ぐちゃぐちゃになった感情のまま、オレはさらに子供みたいに泣きじゃくった。
「なあ、オレ腹へったんだけど。お前らはどうよ?」
しばらく泣き続けていると、流が話し掛けてきた。
「こんな時に、」
「炒飯! ……ひっく……炒飯、食べたいぃ!!」
流は作るとも何とも言っていないが、オレはすかさずリクエストする。
オレに言葉を遮られた切人が何か言いたそうにしているが、そんなのに構ってられない。これが最後かもしれないんだ。流の手料理、逃してたまるかぁ!
オレはしゃくり上げながら流に必死に迫る。
「ひっ……焼き、そばっ……うっく……つけて! ……っく……それから、」
「わかった。わかったからちょっと落ち着け。炒飯と焼きそば、それに汁物系が一品、だな?」
ひっくひっくとしゃくり上げながら頷く。
「手の込んだのは作らないからな」
そう言い置くと流はキッチンに立った。
修羅場のはずなのに。どこまでもオレに甘い流に、余計に涙が止まらなかった。




