8-2 宴
空の色が暗くなってきた頃。
勇希は、お礼も兼ねて、彼らへ料理を振る舞うことにした。クーラーボックスの中身の食材を食べてしまわないと、痛んで腐ってしまう。なので、丁度良かった。
勇希は、ステラと一緒に、部屋から鍋などの必要な物を運び出した。
そして、広場の片隅の家にある台所を借りて、料理を始める。もちろん作るのは、みんな大好き、キャンプのど定番、カレーライスだ。
玉ねぎを取り出して、包丁で切っていたら、村人たちが、興味津々に覗いてくる。
一人の男性が、クーラーボックスを覗き込む。
「見ていいか?」
「うん。いいよ。」
勇希は、潔く了承した。
「これは、ネギか?これは、人参で、こっちは、芋だな。美味しいのか?」
「おれがいた所では、定番の野菜だよ。一個づつ持って行きます?おれには、育て方とかは、さっぱりだけど。」
「いいのか!?頑張って増やしてみるよ。時期的に、今から発芽させて植えても…問題なさそうだな。うん。ありがとう!今から収穫が楽しみだよ!」
男性は、宝石でも持ち上げる様に、大事に野菜を抱える。コビットにも、戦士だけでなく、色んな人が居るようだ。
「んじゃ、あたいたちは、料理を学ぶっぺ。何が出来るか楽しみだべさ。」
カミラと女性たちが、後方で腕組みしながら待っていた。
「別に、おれは、料理が上手じゃないし、そんな見られてると、緊張するんだけど…。」
「これがきっと。村長が言ってた、富と平和だっぺ。」
彼女たちは、にこりと口角を上げて笑っている。ここを離れるつもりは、ないみたいだ。
こっちは、混沌だよ!っと、思いつつ勇希は、春花に助けを求めようと目で探した。だが、春花の姿は、どこにも見当たらなかった――。
春花は、軽くお腹を摩りながら、村を散歩していた。
「へー。ミニチュアとまではいかないけど、不思議な可愛さね。」
グリンウッドの村の家並みを、優雅に歩いて見回る。時折、村人に声をかけられるが、そういった人たちを、笑顔であしらうのは、お手のものだ。
今は、一人になりたかった。ずっと騒がしい中に居続けるのは、春花の性分じゃない。出来れば、落ち着いた静かな場所の方がいい。景色が良ければ、尚更だ。
暗い道を畑の方へ向かって歩いてたら、一際明るい建物が見えた。村には、電気などないはずなのに、そこにだけ、蛍光灯のような明かりが灯っている。
ここまで歩いて来た中で見かけた照明は、松明や提灯だけだった。春花は、興味本位で覗いてみることにした。
開け放たれた背の低い小さな扉を、頭を低くして覗き込む。中は、昼間のように明るく、沢山の藁が敷かれるようにして、地面に散乱していた。
ここは、家畜小屋のようだ。
中では、沢山の動物たちが飼われている。馬が四頭に、大きな白い鳥が二羽、ダチョウの様なフォルムの恐竜も居る。
そして、奥には、一際大きな緑色の動物に、餌を上げている男性がいた。丸い野菜がゴロゴロ入った籠を持ち上げ、餌籠へと投入している。彼は、コビットの男性にしてはスマートで、背中に矢筒と弓を背負っていた。頭のヘルメットには、小さな可愛らしいツノが、四方へ向かって付いている。
餌を入れ終わった彼は、頭に大きな甲羅の付いた動物の鼻先を撫でながら、優しく語りかけていた。
「良い食いっぷりだな、メロン。そんなに腹を空かせていたとは、遅くなってごめんな。」
緑色の動物は、返事代わりに大きな亀の様な鼻で、彼のことを小突いた。彼は、笑って鼻先を手の平で叩き、水が入っていたであろう、桶が二つ付いた棒を手に取った。
そこで春花の存在に、彼が気付いた。背伸びするように顔を上げ、小屋中に響くような大きな声で、話しかけてきた。
「やあ、こんな村の外れで、どうしたんだい?迷子かい?」
短く整えられた黒い髭のコビットの男性は、肌艶が良く、年齢も若そうだった。春花と同じぐらいか、少し上だろう。桶を肩に担いで、春花の方に、ゆっくりと歩いて来る。
「明るいなと思って。あれは、何ですか?」
春花は、壁の隅に取り付けられた照明を、指差して言った。
壁から突き出た木の台座の上に、電球の様に光る、大きな玉が置かれてある。それ一つで、この大きな小屋の明かりを賄っているようだ。
「エレメンタルオーブを知らないみたいだね。」
彼は、オーブに軽く視線を向けてから歩き出した。
「他にも、水を出したり、風を出したり、色々あるんだ。あのサイズとなると、高価で滅多に手に入らないけどね。」
「へー。」
春花は、どういう原理か知りたかったが、満腹で今はそこまで頭が回らない。残念だが、聞くのを諦める事にした。
村へ来てから、ただでさえ覚える事がいっぱいある。これ以上頭に詰め込むと、春花の頭は、パンクしてしまいそうだった。
「それじゃあ、こいつたちのことも知らないか?」
彼は、嬉しそうに家畜たちを示した。きっと彼は、動物の事が大好きなのだろう。
「ええ。馬以外は、どれも見たことないです。」
「そうか。」
彼は、そう言うと、大きな鳥の方へ近づいて行き、クチバシを撫で始めた。
「こいつは、コケッコ。カストールで、一般的な乗り物と言えば、馬かコケッコなんだ。頭も良くて、走りも早い。」
また聞き慣れない単語が現れた。
春花は、聞いては駄目だと思いながらも、聞いてしまう。知らないままだと、気分が悪くなってしまいそうだっだ。
「あの、カストールって言うのは…。」
「カストールは、おれたちの今いる国だね。ここは、カストール王国のグリンウッドって、村なのさ。」
彼は、驚きながらも、丁寧に教えてくれた。
「すみません、話の腰を折っちゃって。」
春花は、申し訳なさそうに謝った。
「別にいいさ。色々覚えることがあって大変だろ?そろそろここを閉めるけど、一応、彼らの名前も聞いておくかい?」
「是非!」
春花は、笑顔でその情報に食い付いた。
それから春花は、恐竜に似たカンガルードラゴンモドキと、頭と背中に大きな甲羅を持つ、ガルーダの名前と特長を教えて貰った。
そして、家畜小屋の戸締まりを始めた彼にお礼を言って、家畜小屋をあとにした。
春花が広場に向けて戻っていると、楽しそうに話す望の声が聞こえてくる。
「パイプオールガーンっていうロボットなんだ。本物は、ずっとずーっと、大きいんだよ」
望は、オマケのオモチャの人形をコビットの少年に見せながら説明していた。その人形を見て、少年は言う。
「ゴーレムみたいな物だな。それにしても、凄く精密に作られてる!カッコいいぞ!」
「でしょ!人が乗って戦うんだ。」
「えー!?」
少年は、顎が外れそうなほど、口を縦に開いて驚いた。
(いやいや、のぞむくん。特撮!フィクションだから!)
春花は、二人の話をこっそり聞きながら、心の中で、望にツッコミを入れた。
「これ、あげるよ!」
望は、少年にロボットの人形を突き出した。
「いいの!?」
「うん!ぼくは、家に他のがあるから。みんなで大事にしてね。」
「わー!ありがとう!大切にするよ!」
そう言って少年は、人形を受け取り、目を輝かせながらオモチャを見上げた。
「昨日は、あんなに嬉しがってたのに、知り合ったばかりの子にあげちゃうなんて。のぞむくん、いいとこあるじゃない。」
春花は、うんうん。と、腕を組んで自慢げに頷く。そして、鼻を高くして、夜道を再び歩き始めた。




