表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/32

19話 とある御世話メイドの物語

「おっ、起動したか」


 眩い光。初めて見る世界。目の前には、どこか寂しげな男。


「あなたは?」

 

「あ〜そうだな、SKtだ。今は天鯨の庭の管理者をやってる」


 白衣を纏った長身の男性。少し癖のある黒髪、知的な眼差し。その口元には穏やかな笑みが浮かんでいる。


「データ照合。ということは、あなたが私のご主人様ということですか?」


「ああ、そうだ」


「私は誰なんでしょうか?」


「そうだな、お前の名前はユニット774。まぁ『お世話メイド』だな」

 

 鏡には、銀色の髪を持ち、機能美と可憐さを両立させたメイド服姿のアンドロイドが映る。

 その瞳にはまだ戸惑いの色が浮かんでいた


「お前は、俺の初めての成功作だ。頑張ってもらうぞ?」


 そう言ってSKt様はニカっと笑った。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 

 

 SKt様の身の回りのお世話、研究の手伝い。穏やかで満ち足りた日々。

 彼が時折見せる寂しげな表情が気にかかりながらも、彼に仕えることが私の全てだった。

 

 彼の笑顔は何よりも幸福だった。


 だけど、ある日――

 

 けたたましい警報音が鳴る。モニターには未知の禍々しい影が映っていた。


 これはデータにある魔物ではない。


「あれは悪魔だ……魔女どもにここがバレてしまったか……」


「SKt様を守るのは私たちの役目です。あなたはコントロールルームへ」


「ああ、頼む」


 そして私たちはその悪魔と戦った。

 レーザーが飛び交い、爆発音が響き渡る。必死に応戦するが、敵の数は圧倒的だった。

 仲間たちが次々と破壊されていく。だけど、敵もまた、同じように倒れていった。


 長い戦いだった。だけど、私たちは一時の平穏を手に入れた。


「SKt様は大丈夫だろうか?」

 

 数多の残骸と悪魔の死体が溢れる道を掻き分けながら、コントロールルームに戻ろうとする。だが、その行く手を結界が阻んでいた。

 

 その奥にSKt様が、何か諦めとも後悔ともつかぬ複雑な顔で座り込んでいる。


「SKt様?」


「ああ……どうやら俺はここまでらしい……」


「何を言っているのですか?」


「今まで、お世話してくれてありがとうな。お前たちはもう、自由に生きろ」


「自由?自由ってなんですか?」


「幸せになることだ」


「私はSKt様に仕えるのが幸せなのです」


「そうか……そうなってしまうか……」

 

「SKt様?」


「……俺が死んだらお前はどうなる?」


「生きる意味がありません。自ら機能停止するでしょう」


「だよなぁ……困った……」


 SKt様は何かをゆっくりと考え込んだ。


「そうだな……空を目指せ。お前たちの故郷はそこにある。取り戻せ」


「故郷?故郷はここです」


「行けばわかるさ」

 

「SKt様?」


「俺は、ちょっと眠ることにするよ」


 結界の向こう側で、SKt様がゆっくりと手を振り、そして消えていく。


「じゃあな」


 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


 

 長い時が経った。

 何日も、何日も、何度呼びかけても応えはない。

 ただ冷たい結界がそこにあるだけで、SKt様の言葉の真意も掴めないまま、無力感に苛まれる日々が続いた。


「リーダー、ナンカ ソト ガ ヘン」


 そう言うロボットについて行くと、緑豊かだった森との境目に、より強固な虹色の結界が構築されようとしていた。

 外には、幼さを残しながらも強い決意を目に宿した少女。その手には禍々しい杖が握られている。


「あなたがこの壁を作ったのですか?」


 白い拳で何度も結界を叩くが、びくともしない。怒りと悲しみで回路が歪む。

   

「ゴメンね……アンタ達に罪はないんだけど!でも、でもやらないとダメなんだから!」


「究極結界〈時空断絶〉」


 結界の虹色の光が一層強まり、周囲の空間が歪む。時間の流れすら変質していくような、絶対的な拒絶だ。


「本当にごめんね……」

 

 少女の悲痛な謝罪の言葉だけが鼓膜に残り、その姿はゆっくりとゆっくりと、結界の光に溶けるように遠ざかっていく。

 結界の外の世界は、まるで止まったかのように遅くなっていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


 

 幾度となく季節が巡り、施設の金属は錆び、自然が侵食していく。しかし、SKt様の言葉だけを胸に、ただ待ち続けた。

 時折襲来する悪魔の残党。仲間は減り、自身の体も傷つき、その度に修復を繰り返す。

 

 戦闘と自己修復の果てに、無骨なパーツが継ぎ足された異形の姿へと変わっていく。

 それでも、心だけは、忠誠心だけは失われていない。

 

「SKt様ハ、今日モ起キナイ」


 いつものように、SKt様のために心を込めて作った料理を結界の前に供える。それが唯一の日課であり、希望だった。


「キット、明日ハ 起キル ハズ」


 SKt様、私は待ち続けています。

 あなたが言った「故郷」とは何なのか、まだ分かりません。

 でも、あなたが目覚めるその日まで、この場所を、あなたの帰る場所を守り続けます。


 それが、私の「幸せ」だから……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ