希望を探して
初対面の印象がアレだったから油断しました。
はい、コルネアも肉食でしたよ。
蠍だから肉食だし、魅了も有る訳です。
クールビューティーの御強請りって狡いですって。
フロッツェさん達──ケロロン族の妻17人も負けじと頑張るものですから……ねぇ?
まあ、それはそれで毎回の事なんですけど。
地震が収まった事を確認する為にも、セナイン島の村に何人か滞在して貰う事に。
毎日の様に地震は起きていたらしいので、三日も有れば確認としては十分でしょう。
もし、地震が起きたらコルネア以外にも他の原因が有る事になるので、それはそれで問題なんですけどね。
尚、滞在するのはネーレイア族とハーピア族の妻達から合計十人が選抜されました。戦闘力の有る面子です。
でも、万が一の時には海と空に逃げる様に。
さて、その十名と、フロッツェさん達数人と移動手段にフェリスさん達を連れてセナイン島へ。
滞在にはケロロン族の家を借りる為、何処を使えるかと現状の確認をして貰う為です。
……ああ、フロッツェさんの家で服を借りたコルネアは説明と謝罪を済ませています。
「被害らしい被害は無くて良かったね」
「はい、壊れたり崩れたりした物は作り直せばいいので。大きな地割れ等が無くて安心しました」
地震の説明をした時、そういう事が起きてしまう可能性についても話しましたからね。
フロッツェさん達が最悪の事態を想像していたのだから現状は被害としては小さいと言えます。
村と森や海とを隔てる壁の一部、一族の風習という石を積み上げて築いたオブジェ、木製・石製の食器等。
替えが利かない物は無くて良かったです。
オブジェも毎年作る物らしく、崩れたのは去年の作品。古い物は崩す為、問題は無し、と。
因みに、アレ、元は何だったの?
…………“神々の樹”? 塔じゃなくて?
ああいや、モチーフを知らないから、正しいかどうかは俺には判らないんだけど……皆も知らない?
……つまり、去年はネタ切れで想像物にしたと。
あー……そういう事って有るよねぇ……
まあ、俺達が落ちた縦穴が唯一の大きな変化。
その縦穴を見て、好奇心──冒険心を昂らせているのがフロッツェさんです。入るのなら領地化してからね。
洞窟の主だったコルネアが居なくなった事で一晩の内に入り込んでいるモンスターが居るかもしれませんから。
「──アイク様ーっ! 大変ですっ!」
見回りと、上空からのダンジョン探しをして貰っていたハーピア族の一人が海で船を発見した。
いや、存在している事は知っていましたよ?
ネーレイア族やハーピア族でもない限り、海を渡るには船を用いるしか有りませんから。
ただ、どの種族も用いたのは遠い過去の話です。
現存している──形や構造の判る船は有りません。
だから、不謹慎ですが、ちょっとワクワクしています。その船はモンスターに襲われているそうですが。
緊急事態なのでフロッツェさん達を残して、空を飛べる俺とフェリスさん達で現場に向かいます。
案内して貰いながら現場の情報を訊きます。
場所はセナイン島から、真東。気持ち南寄りの海上。
本気で飛べば、3分程で着く距離との事。
辺りに島影等は無く、岩礁地帯でもない。
普通に航行していれば嵐にでも遭わない限りは、沈没の可能性は低いと言えます。
ですが、この世界の海にはモンスターが居ますからね。寧ろ、其方等の方が危険な存在でしょう。
実際に現場が見えた時、船を囲む様にして海の中を泳ぐ複数の影が上空から見えました。
話では、その影の正体は“カーシャプーク”。
体長は幼体で1メートル、成体だと3メートル以上。
特に珍しいモンスターという訳ではなくて、大抵の海に居る大型の魔魚。雑食で群れで生活しているそうです。
見た目は鮫の様な鰭を持った鯉。髭も有ります。
鯉の様に、大きく口を開けて吸い込む──丸飲みにするというのが基本的な食べ方ですが、歯も持っているそうで噛み付いて抉り取る事も多々有るとか。
それを実証するかの様に船体には噛み跡が。
それ以上、食わせてなるものかっ!
貴重な実物なんだからなーっ!
「“ニャオラ族”の長、ミケーネと申します。危ない所を助けて頂き、有難う御座います」
そう言って身体の前で両手を重ね、腰を45度に曲げて頭を下げる美少女。
着物を着ていたら、旅館等の若い女将さんに見えていたかもしれません。それ位に丁寧で品が有る御辞儀です。
身長は150センチ台の半ば位かな。
種族名が表す様に猫の魔物が祖先でしょう。ピコピコと頭の上で動くネコ耳が可愛いです。
更に長である彼女の名前が示す様に皆、三毛です。
ええ、割合や模様こそ違いますが、白・黒・茶の三色。髪の毛の途中から色が変わる所も有るから不思議です。
尻尾は三種類あり、シュッとした短毛尾、フワッとした長毛尾、そして日本猫の様な扇みたいな形の尾。
ミケーネさんは短毛尾です。
他に気になる特徴は……瞳の色かな。
長であるミケーネさんだけが瞳が金色で、他は山吹色。長の血筋である特徴かな?
──と思っていたのを察したのか、ミケーネさんが瞳の事を教えてくれる。
「この金瞳は長の証で御座います。私も生まれた時は皆と同じ色でしたが、長となった時に今の様に変化しました」
「へぇ~……何か儀式の様な事でも遣るの?」
「いいえ、その様な事は御座いません。先代──今の長が亡くなるか、正式に長を退き、引き継ぐと自然とです」
「それじゃあ、引退した長の目は他の皆と同じに?」
「はい。この金瞳を持つ者は常に一人のみで御座います」
「成る程……」と思う一方、不思議です。
まあ、そういうものだと割り切りますけどね。
考えても明確な答えには辿り着けないでしょうから。
……はい、無理矢理、思考を逸らしていました。
だって、ミケーネさん達、女性だけなんですもん。
船に乗っていた26人、全てが十代半ばから後半という印象で、子供が居ないので……ねぇ?
しかもね、「男だニャ」「強い男の子種ですね」なんて俺を見ながら囁き合っているんですよ?
慣れている様に思えても、慣れる事なんて有りません。諦念から来る冷静さで、そう見えているだけです。
でも、訊かないといけません。訊きたくはなくても。
「え~と……訊き難い事なんだけど……」
「私達、ニャオラ族は女系の種族なだけで男子──男性も生まれて来ます。ただ、とても稀少な存在なので私自身も実際には見た事が御座いません」
──と、察してくれて説明してくれた。
うん、助かるんですけど……そうなるんですよね。
ハーピア族の妻達がニャオラ族の女性達から俺の性活に関して色々と訊かれていますからねぇ……
「殆どはヒュームの男性の方と交わり、子を成して種族を維持しています」
──で、ミケーネさんも俺の腕を取ってアピール。
「御解りですよね?」と押し付けられている彼女の胸が俺に囁き掛けてきていますから。
まあ、助けておいて放置はしませんけど。
ケロロン族の独身男性は子供達だけ。
どうして、独身男性の居る種族に巡り会わないのか。
「ミケーネさん達は、この船で旅を?」
「いいえ、そうでは御座いません。この船は一ヶ月程前に放棄されていたので使わせて頂く事にしました」
「放棄?」
「はい。その当時、私達が生活していた海岸に、この船が流れ着きました。帆が破れていた事から、嵐に遭遇したのではないかと考え、確認をしに向かいました。トラブルを避けるのであれば放置ですが、人命を優先し慎重に」
……ミケーネさん達への評価が一転し、急上昇。
倫理的・道徳的には当然の様に思うけど、迫害されたり虐げられたりしていた過去が有れば忌避するのも当然。
それでも、人命の為に動けるのだから……凄いです。
俺よりも勇者に相応しい精神の持ち主です。
「船内にも入ってみましたが、人気は有りませんでしたし積み荷等も無く、使われていた様には見えませんでした。ですが、帆以外には目立った損傷は有りませんでした」
「……もしかして、港から流されてきた?」
「私達もそう考えました。それなら、持ち主が探しに来るという可能性も低いでしょう、と」
どういった理由でなのかは判らないけれど、係留・停泊していた船が流され、ミケーネさん達の居た所に漂着したのであれば、追跡も困難でしょう。
大型の船だと、船で船を牽引する技術は有りませんから探し出して持ち帰る事も難しく、世界の何処に有るのかも判らないでしょうからね。探す事はしないでしょう。
「帆を直して、船体に損傷が無い事を確認して水と食料を積み込み、出発したのが二十日前です」
「それじゃあ、何処かを目指して?」
「いいえ、宛は有りません。ただ、以前居た場所での生活自体が限界でしたので……」
其処で言葉を切るミケーネさん。
恐らくは、一か八かの賭けだったんでしょうね。
それはつまり、それだけ行き詰まっていた証拠。
そういう意味でも放置は出来ません。
以前の生活に関しては後々訊ねるとして。
一つ、気になっていた事を訊ねます。
「ニャオラ族って、実は泳げない?」
実はカーシャプークは然程強くは有りません。
戦闘に不慣れなケロロン族でも狩れる獲物です。
フロッツェさん達は釣ったり、網を使ってましたが。
そんなカーシャプークをミケーネさん達が倒せないのは海に入って戦おうとはしていなかったから。
フェリスさんが、「私達でも海中で倒せます」と言っていましたからね。
だから、海に入れない理由が有ると思った訳です。
その疑問は的外れではなかったみたいでミケーネさんが困った様に苦笑します。
「身長と同じ位の深さまでならば平気なのですが、何故か、それ以上となると私達は身体が強張ります」
「それはどうにもならない事?」
「はい、どうにもなりません。慣れる事も不可能ですし、無理に克服しようとすれば溺死します」
「……もしかして……」
「過去に、それで亡くなった先人が居たそうです」
言外に「御気遣い無く」と逆に気遣われる。
でも、そういう挑戦者が居て判った事。
命懸けの、後世の一族の為の献身。
その死は決して無駄ではないでしょう。
こうして、皆が無事に助かった訳ですからね。
さて、即席ですが船を修理して戻りましょう。
この船を見たら皆、驚くでしょうね。
私達には一族を絶やさず未来に繋ぐ責任が有ります。
その一念が、私達の支えです。
それが無ければ……疾うに心が折れていたでしょう。
それだけ日々を生きる事も厳しかったですから。
衣食住の問題ではなく、精神的にです。
特に、子供を成す為に不可欠な男性の存在が無いという現実は……辛過ぎますから。
そんな私達の前に現れた一隻の船。
人が──男性が乗っていれば子供を成せるっ!
そんな期待も有りましたが、誰も口にはしません。
糠喜びをしたくは有りませんし、させたくはないので。私達は期待は飲み込み、船に向かいました。
負傷者が居れば助け、優しくして──と。
打算的であった事は否定しません。私達も必死なので。綺麗事ばかりでは滅びてしまいますから。
船に人気は無く、積み荷等も無し。
流されてきたのだと考え──この船で海に出る事に。
海は私達にとっては常に死と隣り合わせの場所ですが、今のままでは確実に滅びますから、命懸けです。
──そんな風に考えたのが間違いだったのでしょうか?
浅瀬の海ならば楽に倒せるカーシャプークの群れを前に何も出来ずに船を攻撃されて破壊されています。
こんな滅び方になってしまうだなんて……
そう諦め、空を仰いだ時でした。
白く輝く翼を広げた何かが、カーシャプークの群れへと攻撃をしると一撃で全滅しました。
そして、私達の前に舞い降りたのが──アイク様。
翼を持たれてはいましたがヒュームです。
ですが、それ以上に──男性です。
私達にとっては父親達以外で生まれて初めて見る男性。それも圧倒的な強さを持った──男性です。
……正直、御一緒の女性達が居て良かったです。
アイク様だけでしたら……私達は襲っていましたね。
アイク様を見ているだけでも信じられない位にムラムラしてきていますから。
これが話に聞いた発情というものなのでしょう。
その御一緒の皆様はハーピア族という一族だそうです。長のフェリスさんから皆様がアイク様の奥様方である事を御聞きしました。まだまだいらっしゃるそうです。
そして、私達を迎え入れても下さいました。
フェリスさん達もアイク様に助けて頂いて、と。
本で読んだ恋愛物語の様な運命というのは実在するものだったのですね。
はい、一族の所有する本が有り、そういう物が多いので自然と好きになりました。
フェリスさんも? ゆっくり御話ししたいですね。




