Dear魔法少女
「ねぇニカ、せっかくだし飲みに行かない?」
「…はあ?」
その意味不明な問いかけに、眉を曲げつつ横に顔を向けると、つぐみんは煌びやかな振袖を今にも引きずらんとばかりに、肩を落として私の横をよたよたと歩いていた。
「『せっかくだし』って、何なのよ?今日の夜は、同窓会じゃん!飲みに行くも行かないもないじゃないの!」
「それ…出ないと駄目なの?」
「ダメ!」
たしかに振袖って重い、思ってた10倍くらい重い。
重いけど――。
でもどうやら、つぐみんをなで肩と猫背とのハイブリッドへと進化させた原因は他にあったらしい。
「えー…ノノとかユイとかミーナとか誘って、仲いいグループで飲みに行こうって…。」
「ダメなのよ!そもそも、向こうだって同窓会するに決まってるじゃん!」
「えー…、…ぶぅ。」
ぶぅって…、こんな道の往来で頬膨らませても、そんな可愛い顔しても…だ、ダメなものはダメなんだから。
今日はこの後、今着てるこの振袖を返却して、そっから街をパトロール兼お散歩して――。
そして夜からは中学の同窓会に出席するって、成人式の一か月前から、つぐみんにちゃんと言っておいたじゃん。
なんで当日になってもまだ、ぶつくさ文句言うかなぁ、もう。
「…ニカはいいわよね、中学の友達沢山いるし。でも私の身にもなって欲しい、この中学自体にボッチを極めた私の。」
えー…そんなことで胸張られても…。
さっきまで、落ち武者のように項垂れたくせに。
通りにあふれる晴れ着の人達の中でも、群を抜いて目立ってたじゃん、まったくもお――。
「私がいるじゃん、ボッチじゃないのよ。」
「ニカが他の子と喋ってるあいだ、ボッチじゃん!」
「んー…もうっ、私じゃなくて、過去の自分に文句言うなのよ。」
「…ぶぅ。なんでそんな変な語尾つけてる子が友達多いのよ、意味わかんない。」
「変って…。…たしかに変だけど!だから少しずつ直してるでしょ!――じゃなくて、人徳なのよ、人徳!それにほら、結構可愛いなのよ、私。みんなからモテモテなのよ。」
「…否定はしないけど、自分で言う?」
…あう。
つぐみんのその綺麗な三白眼は、決して私をねめつけるための物じゃないと思うんだけど…。
でもそんな目で見られると、流石に自分でも言い過ぎた気がしてこないでもないでもない。
「あー…えっと、うん、それ!それなのよ、三白眼。つぐみんその目のせいで話しかけづらいんだって。」
「むう、人が気にしてることを…。」
「私はそれ、チャームポイントだと思うけど。」
…まあ、人それぞれか。
人から見たらチャームポイントでも、自分からしたらコンプレックスってのは、もちろん私にもあるもんね。
「ごめんごめん、つぐみん。今週末、ノノちゃんたちと飲みに行こ?だから今日は頑張るなのよ!」
「むぅ…、わかった。…頑張る。」
よしよし、落ち武者からネアンデルタール人くらいの足取りにはなった気がする。
ん?あれ?
ネアンデルタール人って、もう背中曲がってないのが通説だっけ?そうだっけ?
――オホン、まあとにかく。
「ほら、私ん家着いたから、振袖着替えて、ノノちゃんたちに飲み会の連絡でもしながらレンタルショップに返しに行こ、つぐみん。」
「あら、ノノがどうかしたの、ニカ。」
「――え?」
えーっと、道の角を曲がって私の家の玄関に入ろうとしたとき、そこに立っていたのはなんと――マキさんだった。
「はあ、なるほどなるほど。押野ノリちゃんと、新橋ユイちゃんと、穂波レンちゃん、ね…。ふーん、ユイちゃんはそのままだし、ノノもまあ分かるけど――。ミーナは苦しすぎない?」
振袖をマキさんの教え通りにきれいに畳んだあと、そのお礼にと、昨日作っておいたスコーンをお出して一服。
それを口に運んだマキさんは、『懐かしい味…』と独り言ちた後に飲み物に手を付ける。
紅茶――は、そんなに私は好きじゃないから、コーヒーだけどね。
でも、ちょっと苦かったかも、マキさん涙目だ。
「でしょ!?もっと言ってやって欲しい、流石にミーナはないと思う。」
「はあ?継山ミラを『つぐみん』って呼ぶのもどうかと思うんだけどっ!?」
「まあ、たしかに。」
ちょっ、マキさんまで!もおっ!
「ま、二人の中にまだつぐみがいてくれて、嬉しいわ。」
「そりゃ、大好きなおばあちゃんだもん。」
「わ、私は…つぐみさんとはあまり面識ないですけど、あ、あの本は大好きなので…。」
ふふ、顔真っ赤じゃん、つぐみん。
「あの本、ね。あ、そういえば、あの本――というか、つぐみの日記兼小説だけど、タイトル考えてくれた?」
「あ、うん、一応。でも、なんで今更そんなことを?タイトルなんて無くてもいい気がするんだけど。」
どうせ私たちしか読まないんだから、『あの本』に名前は必要ないと思うんだけど――。
それなのに、どうしてマキさんは私にそんな依頼をしたんだろう。
「ん?いや、読み返すと意外といい出来だから、出版社に持ち込んでやろうと思って。計画中。」
「え?そんな勝手なこと――。……まあ、マキさんがやることなら、おばあちゃんもしぶしぶ許すとは思うけど。」
いいのかな?
…あれ?いいの?
よくわかんないけど。
「ニカがいいって言うなら出そうと思ってるわ。」
「ん-。じゃあ、いい。みんなに読んでもらいたいもん。」
おばあちゃんが生きた証、この面白いお話を私たちだけが読むにはもったいないし。
それに――。
それを怒るおばあちゃんは、都合のいいことにもういないもんね、ふふふ。
「ふふ。悪い顔してるわよ、ニカ。」
「ふふふ。マキさんだって。」
「えー…。」
そして、ちょっと引いてるつぐみん。
そんなつぐみんのことは、気にしない気にしない。
「じゃあ、タイトルは?」
「『でぃあ魔法少女』で。」
「あら――、それは――。」
あれ?
ダメだった?
マキさん考えこんじゃったけど…。
一か月ほど悩んで悩んで、悩みぬいて考えたんだけど。
私の大大大好きなおばあちゃんって意味だったんだけど…ダメ?
つぐみん…は、あー、スコーンを齧るのに夢中かぁ、役に立たないんだから…。
「えーと、マキさん?もしかして、ダメ?」
「あ、ううん、全然。むしろ、思った以上にいいタイトルでびっくりしたぐらい。なるほどなるほど、『でぃあ魔法少女』、いいと思う。つぐみもそんなつもりで作った本だろうし。」
「はぁ、よかった、ダメだしされたら今日は寝られないとこだった。」
おばあちゃんもそんなつもりで――って下りは、よくわからないけど。
でもまあ細かいことは気にしない。
「つぐみさんじゃないんだから、ニカはそんな繊細な心持ってないでしょ。」
「はあ?」
さっきまでスコーン齧ってたのに、いきなり何言ってくれちゃってんの、つぐみん!
――と言ってやりたいのを、すんでのとこで我慢する。
今日の夜のことを考えると、きっと今日、つぐみんは心穏やかじゃないだろうし。
頬を膨らませて抗議するにとどめてあげるなのよ、むぅ。
「あいかわらず、仲いいわね。それじゃ、ま、そろそろ行くわね。この後、ノノ一号と会う約束してるのよ。ノノ一号と悪巧みの続きよ。」
「あ、ノノさんも一枚噛んでるんだ、さっきの計画。」
「まあね。それじゃあ――って、あっ!忘れるとこだったわ。はい、これ。」
と言いながら、私に手渡される封筒。
ん?なにこれ。
親愛なるニカ…へ、ってまさか――!
「つぐみから、今日のこの日に渡すように頼まれてたのよ。じゃあ、約束は果たしたから、またねニカ。」
そう、そのまさか。
つまり、おばあちゃんから私への手紙。
そのサプライズに口を大きく開けてる最中に、マキさんは颯爽と帰って行った。
そして取り残される、私とつぐみん。
「おーい、ニカ?」
「あ、うん、ごめん。ビックリしすぎて宇宙旅行しちゃってた。」
「格安で宇宙に行けるのね、羨ましい。」
「って、そうじゃなくて、つぐみん!おばあちゃんからの手紙!」
「あ、うん、聞いてたわ。よかったね、ニカ。」
「うん!」
手の中にある可愛らしい封筒から溢れ出る、おばあちゃんらしからぬ感。
きっと、私の為に一生懸命選んでくれたに違いない。
だって、いくらニカさんから女子力を色々学んだからと言って、家とかをかわいく飾るタイプじゃなかったんだもん。
「それで――どうする?少し私、席外した方がいい?」
「なんでなのよ!つぐみん、一緒に読むなのよ!」
腰を上げそうになったつぐみんの袖を、ギュッと掴んで引き留める。
「ん?いーの?大事なお手紙でしょ?」
「つぐみんと一緒に読みたいなのよ。」
「あー、ニカ、口調。口調戻っちゃってる。――わかったわ、一緒に読も、ニカ。」
「うん――といっても、読まなくても最初の一文は、分かってるんだよね。」
まあ、つぐみんには分からないだろうから、言い当ててびっくりさせてやろう。
ふふーん。
「あら、奇遇ね。私も分かるわよ?」
「えっ!?ほんとに?」
「どれだけ読み返したと思ってるのよ、その、えっと…『でぃあ魔法少女』を。」
さっきつけたタイトルを、もう使ってくれるつぐみん。
ちょー大好き。
「じゃあ、せーので、最初の一分を一緒に言うなのよ!」
「うん、分かったわ。」
「じゃあ、せーの――っ!」
「「 大好きなニカへ
ニカがこの手紙を読んでる頃には
私はきっと死んでるなのよ 」」
―完―
お疲れ様でした。
これにて『でぃあ魔法少女』完結になります
完結までに数年かかりましたが、なんとか書ききれました。
ずっと追ってくださった方――は、ほぼ0に近いと思いますが
いっぺんに読んで下さった方は、数人いらっしゃると思いますので
その方たちに感謝申し上げて、後書きとさせていただきます。
では最後までお読みいただいた方、ありがとうございました。
次回作…があれば、またお待ちしています。
感想と評価を
心よりお待ちしております。




