No.9 『ジョブの特性』
「それで次は、パーティーのバランスを考えてジョブの候補まで決めたいところなんだけど……」
そこまで言ってマイが言葉を濁した。
「時期が時期だしな……」
マイの言わんとする事を理解しているユートも返答してため息をつく。
ユートとマイが懸念している事は、クランの募集をしたところでメンバーが集まるのかという事である。ユート達がそうであるように時期的に就活も終わりに近く、ダンジョン大学校でも既に6割程の生徒がどこかしらのクランから内定を貰っているだろう。
安定しているクランの内定を貰っているのに、わざわざ新規で立ち上げる成功するかも分からないクランに内定を蹴ってまで入るという者はいない。それこそ応募してくる者は未だに内定を貰っていない者となってくるのは必然だ。なにも内定を貰ってない者が悪いという事ではないが、それこそ何かしらの問題を抱えた者たちである事には変わりないだろう。
ユート達のようにマイナーなジョブであったり、面接官を殴ったりなどである。後者は置いておくとしても……前者のマイナーなジョブの可能性は大いにあり得る。
ユート達がいくらパーティーのバランスを考慮したとしても応募してくる者が特殊なジョブなら本当に机上の空論で終わってしまうのだ。
「ひとまず今できる事として、俺たちのジョブの確認を改めて、足りない点を把握しておくくらいだろうな」
ユートがとりあえずといった感じで今やるべき事を決める。
「そうね。まずは一旦確認して、一応理想としてのバランスを考えて、最悪のパターンも考えておきましょうか。じゃあまずは私たち3人のジョブ特性からまとめていきましょうか。じゃあリペアから自分のジョブの特性を説明してちょうだい」
「おう。分かったぜ! まず俺のジョブは2人も知っての通り、第1ジョブに『木こり戦士』と第2ジョブに『修理士』だな」
リペアの第1ジョブである『木こり戦士』は、植物系モンスターに大きなダメージを与える事が出来るジョブで、さらにピンポイントでトレントなどの木を模したモンスターに特大ダメージを与えるジョブである。
『木こり』や『戦士』といったジョブと違う点は、『木こり』は戦闘職ではなく生産職に偏っているジョブであり、木を模したモンスターにしかダメージ補正がないという違いがある。植物系モンスターにも補正がある『木こり戦士』はその点で補正のかかる範囲が広いと言える。しかし、生産職の効率としては『木こり戦士』よりも『木こり』の方がやはり良い。
次に『戦士』と『木こり戦士』の違いだが、補正のかかる武器の範囲が違うという点がまず挙げられる。『木こり戦士』は基本「斧」や「大斧」や「鎌」といった武器にしか補正が掛からない。それに比べて『戦士』は補正のかかる武器の範囲が多く、『木こり戦士』の「斧」系統などの他に「剣」系統や「金槌」系統、「手袋」系統に「槍」系統など様々である。
メリットとしては、『木こり戦士』の方が範囲が狭いだけに最大の補正は『戦士』よりも高いことだが、デメリットとしては、臨機応変に武器を変えることが出来ないという事である。例えば、岩石系のモンスターには「金槌」系統や「手袋」系統の武器だと効果が高いが、「斧」系統だと相性が悪い。そういった時に武器を変える事が出来ない『木こり戦士』は不利となるだろう。
よって『木こり戦士』の特性をまとめるならば、『戦士』のような働きを持つが、特定のモンスターには強く特定のモンスターには弱いといったジョブであるという事だ。
次にリペアの第2ジョブ『修理士』についてだ。『修理士』は生産系のジョブに属し、生産系のジョブの中でも珍しいジョブである。
『操縦士』というジョブが扱う事で動く「カラクリ」という道具を製作・修理する事ができるジョブである。戦闘としては、カラクリ系のモンスターに対してダメージの補正があるがそれ以外は特にない。ただ探索の補助としては宝箱や罠の解錠が一部できて、即座に簡易でアイテムの修理も出来る。まとめるならば、生産系ジョブでありながら一部戦闘や斥候のような事ができると言ったところだ。
「じゃあ、リペアの次はマイ、頼む」
リペアの説明も終わりユートはマイに会話を促す。
「えぇそうね。私の第1ジョブは『薬師』で第2ジョブは『踊り子』よ」
マイの第1ジョブ『薬師』は、その名の通り薬を作ることが出来る生産系ジョブである。
一口に「薬」といっても幅広く、「回復薬」「回復ポーション」「湿布」「飲み薬」「漢方薬」などとその種類は多岐にわたる。
簡単に説明するならば、「〇〇薬」はダンジョン内で余裕のある時に飲み、傷や体力などを回復させるアイテムで、「〇〇ポーション」は戦闘時にその傷口や身体に直接ぶっかける事で即座に回復できるアイテムである。
「飲み薬」や「漢方薬」といった種類は、ダンジョン外の家庭で風邪などの病気の治療に使われるものである。
「湿布」は、ダンジョン用と家庭用があり、ダンジョン用であれば身体能力のブーストや怪我を一時的に紛らわす方法などで使われる。家庭用は腰痛や肩凝り解消や火傷や炎症などに使われるものだ。
種類ごとで専門的に『薬師』をしている人もいるが、一応マイはオールマイティー型の『薬師』である。自身がダンジョン探索することもあり「回復薬」や「回復ポーション」を主に研究する事が多いが、他の種類も同時に研究しているそうだ。
戦闘面で『薬師』というジョブが活躍することはないが、回復アイテムを生産し提供してくれる戦闘職を支えるジョブの中でも無くてはならない存在である。探索の面でも【薬草鑑定】により薬草採取の効率を上げてくれる正に縁の下の力持ちを体現しているジョブだ。
マイの第2ジョブである『踊り子』は、戦闘面での支援サポートをする後衛のジョブである。
同じ後衛である『付与術士』と似ていて味方を後方から支援するジョブであるが、違いとしては、『付与術士』は魔力を使うのに対して『踊り子』は魔力を必要としないメリットがある。また『付与術士』は敵に効果のある《技》や【スキル】が少ないのに対して、『踊り子』は敵にも効果のある【スキル】が多い。
デメリットとしては、味方や敵に関係なく効果をもたらす【スキル】が多いことや『踊り子』としての《技》がないことが挙げられる。《技》のデメリットを補うという点としては、『踊り子』のジョブ補正のかかる「扇子」や一部の「棒」系統の武器を使用する事が可能なので、その武器で扱える《技》で攻撃がする事が出来る。『付与術士』と比べても効果の違いはほとんどないが、やはり世間一般では扱いやすい『付与術士』の方がメジャーなジョブである。
戦闘面でのジョブ適正が無かったマイは、ダンジョンに潜るため『踊り子』のジョブを取得し、前衛であるリペアの支援サポートする構成にしたと言う。
「私の説明は以上ね。最後にユートの説明ね」
自分の説明を終えて、マイはそう言った。
「あぁ。俺のジョブも知っての通り、第1ジョブに『道化師』、第2ジョブに『料理人』だ」
ユートの第1ジョブ『道化師』は、戦闘系でもなければ生産系でもないかなり特殊なジョブである。
その『道化師』のジョブの本質とは、「人を驚かせ喜ばせる事である」とユートは幼い頃からサーカス団の座長をしている父から言われて育ってきた。ユート自身もその言葉はあながち間違いではないと親元を離れた今でも思う。「驚き」の部分を活かすと戦闘系のジョブに近くなり、「喜び」の部分を活かすと人々の笑顔を作るという生産系のジョブなのだろうと、ダンジョンに潜り、自身のこの『道化師』というジョブに誰よりも向き合ってきたユートはそう思っている。
『道化師』の戦闘方法を一文でまとめるならば、投擲を軸としたトリッキーな動きで相手を惑わし自分や味方の攻撃に繋げることである。攻撃手段としては投擲を軸として戦うしかないが、支援やサポートでは、他のジョブにはない・真似できない事が可能であるのが『道化師』である。
若干ながら支援に偏っているものの、戦闘と支援のどちらにも参加できるというのが『道化師』の特筆すべき点だろう。デメリットとしては、即席のパーティーだと『道化師』の《技》や【スキル】が知られていない事で味方も驚いて混乱してしまうことがある点と、なんでも出来てしまうが故に器用貧乏になりやすいという点である。
実際にダンジョン大学校でユートが経験した所では、キチンとジョブの特性を説明したはずのユートだが、味方のパーティーが驚いてしまいピンチを招くというケースや支援やサポートの意味を勘違いされて後衛に配属されたケースなど数え切れない程ある。そういう意味で理解のあるリペアやマイはユートにとってもやりやすい存在なのだ。
そして最後にユートの第2ジョブの『料理人』であるが、『料理人』も戦闘こそ出来るものの本業は生産系のジョブである。『料理人』のジョブは、戦闘面ではほとんど役割はないものの長期のダンジョン探索では必要不可欠なジョブであると言っても過言ではない。
ダンジョン内で食料を調達し料理できるという事は、あとは料理器具を持ち込むだけで食料には困らないという事だ。食料を持ち込む必要がないのであればそれだけ荷物が増えずに済み負担も減る。またダンジョンで見つけた素材もその分だけ持ち運べる量が増えるというものだ。
絶対に必要なジョブという訳ではないが、パーティーにいたら嬉しいジョブである。一応、戦闘面としての効果もレベルの高い『料理人』は身体能力がアップする付与料理が作れるなど、調理器具を武器として持つことで攻撃《技》や【スキル】もあれば、探索面でも【食材鑑定】などで貢献度も高い。
そんな生産系ではあるが戦闘も行えるジョブというのが『料理人』というジョブの一般認識だ。
ユートは第1ジョブの『道化師』の攻撃力が低いために、自分が取得できる範囲で一番攻撃力のある生産職『料理人』というジョブを第2ジョブに選んだのだ。
「こうして改めてまとめると、俺たちは俺たち3人だけで結構安定しているパーティー構成だよな。前衛のリペアに、後衛で支援&薬で回復役のマイ。そして遊撃の俺で、それぞれマイナージョブだがバランスが取れている」
マイが羊皮紙にまとめたジョブ特性を見ながら説明の終えたユートは言う。
「そうよね。安定しているからこそ、逆に壊しにくいってのもあるけど……。でもこれを可能にしているのはユートの『道化師』が大きいと私は思うわ。支援サポートよりでありながら実質アタッカーもこなせるって反則に近いわ」
「そうだぜユート。反則だぞ」
マイとリペアがユートに言ってくる。
「でもリペアのような前衛にはまだまだ程遠いし、トリッキーな支援ばっかりでマイのように純粋な支援も出来ないしな」
「いやそこは褒めてるんだから素直に認めなさいよ。変なところで真面目なんだから」
「いやーそれほどでもないぜ。はははっ」
ユートの言葉に呆れ気味に返すマイと逆に褒められて照れるリペアだった。
~ジョブ図鑑~
『木こり戦士』
生産系ジョブ『木こり』と戦闘系ジョブ『戦士』を併せ持つジョブ。植物系モンスターに対して攻撃の補正が大幅にかかる。
『薬師』
生産系ジョブ。薬の作成に補助のかかるジョブ。