No.25 『成長』
「おっと。あれは転移オブジェだな」
「あら。ボスより先に見つけてしもうたか」
ジャッカルを回収した後、少し先まで歩くと遂に次の階層へと行く転移オブジェを見つけた。
「どうしましょうか? 一応、ククちゃんの第二ジョブの解放はするとして。もう帰る? それともボスまで倒すのかしら?」
とりあえず、転移オブジェまでの道のりを歩きながらマイがユートに尋ねた。
「そうだな。時間的にもまだ余裕があるし、俺はボスまでに一票かな。それに今回の目的は、ククのジョブの解放もあるが、パーティーの連携練習のほうがメインとしているからな」
「俺もユートに賛成だぜ。せっかくここまで来たんだし、ボスぐらいは倒して行きてぇからな!」
ユートが答えたあとに、リペアもユートの言葉に同意する。
ちなみに、転移オブジェから帰るのは一瞬である。これまでのダンジョンの階層移動時のように、4層には上がらずにダンジョン入り口へと転移しればいいからである。行きは、1層ずつ上がっていくしかないダンジョンであるが、帰りは一瞬なのである。
これを利用して転移オブジェの近くで戦う探索者も少数派だがいるほどだ。万が一を考慮しての行動かもしれないが、『災害』時でもない限り、死に戻りの出来るダンジョンではあるため意味のない行為ではあるのだが。
「私も賛成です……というのも、あまりにも私は何もしていない気がするので。第二ジョブを取得できたら、可能な限り戦闘の訓練をしたいです」
「僕もボスまでに賛成かな。というか、連携の訓練と言っても1・2層は迷宮エリアでほぼ1対1だったし、ボス戦は2回とも特殊過ぎたからね。サバンナのボスは飛んでいるという事もなさそうだし、陸地でちゃんと訓練が出来るんじゃないかな?」
ククもリープもボスまでという案に賛成した。
「確かにリープの言う通りね。打ち合わせしていた基本的な戦闘の形はまだ出来てない訳だしね。私も尋ねた側ではあるけど、ボスまでが良いと思うわ」
「うちも賛成や! 戦闘面での話は言われてしもうたから……うちは商人らしく金銭面の話をするわ。もちろん今回の目的はそうじゃないって分かってるで? せやけど、敢えて言わせて貰うとな。今回のこのダンジョン探索……赤字やねん! せいぜい高くて『ゴーレムの涙』が1万Rってところや。他の素材はダメダメや。せやから、あと1回くらいボス倒して、ドロップ品狙ったほうがええで?」
賛成の意を示しながら、マイは戦闘面からクレハは金銭面からの指摘をする。多方面から考えることの出来るメンバーがいるという事はかなり重要なことだ。様々な状況に対処が出来る組織は必然的に強くなる。意見の出せるマイやクレハはリーダーであるユートにとってもパーティーにとっても有難い存在なのだ。
ひとまず、全員の意見が一致したため、ボス探しは続行となった。
そして、発見した転移オブジェへと到着する。
今回は、4層へも行かず帰還もしないため、ジョブを解放するククだけが転移オブジェへと触れる。
〇 クク
『羊飼い:Ⅳ』 →使役:黒猫のララ・羊のマルハ
――――第3層クリアを確認。第二ジョブが解放されました。
――――第二ジョブをセットしますか?
ククの頭の中に出てくるステータス表記に、メッセージが流れた。
そのメッセージに従いククは第二ジョブをセットする。初めてダンジョンに入った時に行った第一ジョブのセットを思い出しながら、ククは頭の中で操作していく。
――――セットするジョブを選んでください。
『荷役:Ⅰ』……パーティーの荷物持ち。スキル【インベントリ】の容量が広がる。
ククは、新しいジョブが出現していないかを確認するも出ていない事に少々落ち込み、『荷役』を第二ジョブにセットした。一応、第一ジョブの選択時に自らの適性のあるジョブは、ある程度知ることになる。それでもダンジョンの攻略や個人の成長や努力などにより、適性が増えるケースは多々ある。ダンジョンに入る度に自分の適性を確認していたククであったが、やはり予想通りというか、適性のあるジョブは増えていなかった。第二ジョブ解放により、或いはとも思ったが現実はそう甘くはなかった。
「『荷役』無事に取得出来ました。皆さんありがとうございます」
第二ジョブを取り終えて、転移オブジェから手を離したククは、まずメンバーへと報告しお礼を言った。今まで学園で組んだパーティーでも第3層までは来ることが出来なかったククである。それに今回のダンジョンでの戦闘も役に立ったとは言えない。よく言えばユート達に助けて貰ったと言えるが、悪く言えば寄生である。そのことを痛いほど理解しているククはまず皆にお礼を言ったのだった。
「ククちゃんおめでとう! でも本番はまだまだこれからよ! 第三ジョブの解放もあるし、私たちのクランの夢はダンジョン攻略なんだからね!」
「はい。マイさんありがとうございます。私もっと頑張ります!」
お礼を言ったククに真っ先にマイがそう言って、ククがそれに答えた。
それから、パーティーメンバーがそれぞれククにお祝いの言葉を述べる。
「まぁなんだ。マイに全部言われた気もするが……おめでとう。マイの言う通り、俺たちはまだまだこれからだ。一緒に頑張っていこう」
「はい。ユートさん。これからも迷惑かけると思いますがよろしくお願いします」
ストレートにお祝いの言葉を言うのが恥ずかしいのか、ユートは頬をかきながらもククに伝えた。ククはユートの言葉に頷きながらも、再びよろしくと頭を下げる。それには、ユートも笑うしかない。頭を上げたククも笑っていた。前よりも明るくなったククでも頭を下げる癖は治らないらしい。
「ククおめでとう! 『荷役』って荷物いっぱい持てるんだろ? そしたらダンジョンの攻略がもっと快適になるな! 戦闘は俺に任せとけ! そのほかのサポートは頼んだぜ!」
「リペアさんもありがとうございます。戦闘でのサポートも戦闘以外のサポートも頑張りますね!」
ユートの次はリペアがククにお祝いの言葉を言った。リペアらしいストレートな祝いの言葉だ。ククもそれに答えるように、お礼の言葉を返した。
「クク。僕からもお祝いの言葉を贈るよ。おめでとう。最初は心配もあったけど、僕がユート達と引き合わせた事は正解だったみたいだね。これからも共に頑張っていこう」
「はい。リープさん。最初は本当に私達の身勝手で謝ることしか出来ませんが、例え強引だったとしても、皆さんと出会えたことは唯一の良かった点だったと思います。これからもよろしくお願いします」
リープとククは、このパーティーを組む前からの知り合いだ。ククが第二ジョブが取れないと悩んでいたことも知っていた。そこから考えると感慨深いものもあるが、まだまだ目指すものの道程は長い。ひとまず、ユート達とククを出会わせて良かったとリープは安心し、お祝いの言葉を述べた。
ククもリープに対して、沢山感謝すべきことお礼を言うことがあるが、これからは本当に同じパーティーとして行動で示すべきだと短くまとめた。
「ククやん。おめでとうな。一緒にサポート要員として頑張っていこうな。それとククやんはうちのように、自分の適性が全て分かっている訳ではあらへん。これからも精進したら適性のあるジョブが出るかもしれへんのや。だから、努力は辞めたらアカンで? うち自身、適性なんて信じてないさかいな」
「はいクレハさん。一緒の後衛としてよろしくお願いします。ジョブ適性の限界も一緒に超えてやりましょう」
クレハはジョブ適性の無い者同士としての言葉をククにおくった。それは共に限界へと向かう仲間へのエールと共にライバルとして自身を奮い立たせる言葉でもある。何よりも似たような境遇にいるククにクレハは感謝しているのである。
それはククも分かっている。同じ悩みを抱えて共に成長してくれる人の存在はどんなに有難いか。ククにとってもクレハは心の支えでもあるのだ。
数日前出会った頃の、あまり自分の感情を表に出さないようなククからは想像できないその変わりよう。明らかに笑顔も増えたし、自分の感情を押さえている様子もない。ユートを含めその他のメンバーも改めてククと共にダンジョンを攻略したいと思える出来事であった。
「にゃあ!」
「めぇー!」
そんなククやユート達の様子を見て、嬉しそうにララとマルハも鳴いた。誰よりもククと共にいた2匹にとっても、ククの成長は自分の子供のことのように嬉しい出来事であったのだ。
~ジョブ図鑑~
『荷役』
戦闘面での恩恵はないが、モノを多く持てることで探索をより良い物にしてくれる。




