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No.21 『巨大コウモリ』


「飛行系です……」

 天井付近で羽ばたくその巨大コウモリのボスの姿を見てククがポツリと言った。

迷宮コウモリは、ここまでの道中でも楽に倒したモンスターであるが、実際は飛行に向かない狭い通路でこちらに地の利があったため楽に勝てた相手である。しかし、ここは天井が高く地の利は巨大コウモリにある。飛び道具や遠距離攻撃の少ないユート達パーティーにとっては相性の悪い相手であった。特にパーティーのダメージソースを担うユートとリペアの2人が何も出来なくなるのは痛い。


「ユート! 作戦を変えて僕がやるかい?」

 リープもそれに気づいて、支援スキルを発動する前にユートに問う。


「いや、そのまま行く。リペア、マイ、以前やった足場を構築する。サポートを頼む! リープと他のメンバーは打ち合わせ通りだ!」

 しかし、リープの考えとは反対にユートは作戦続行の意を示した。相性が悪いからといっても対処法がないわけではないのだ。むしろ相性が悪い相手だからこそ徹底的に研究し、対策を持っているのがユートである。


「お、あれだな? 了解だぜ!」

「分かったわ! 《纏い風》」

 その言葉に以前からパーティーを組むリペアとマイはすぐに応答し行動に移す。


――――SKILL【風切りの舞】


 マイは扇子の技と踊り子のスキルでリペアの素早さを上げる。


「何か考えがあるんだね? 分かったよ!」

 何か考えがある以上は、リープもユートの作戦に従うことにした。


――――SKILL【応援歌】

「《テンポアップビート》!」


 探索中のウクレレとは違う戦闘用のマイクとギターを介して、パーティー全体に、そして追加でユートにバフがかかる。



「よっしゃー! 俺から行くぜ!」

 マイやリープからのバフが自分にかかったのを確認してすぐさまリペアが走り出した。向かうは、広いボス部屋の隅である。そして、そのまま壁に向かってリペアは大きくジャンプすると、壁を蹴って登り始めた。


「凄い身体能力です……」

 そのリペアの光景を見てククは呟く。一応、戦闘時はポーションや回復薬などの道具を届ける役に割り振られているククだが、まだそういった場面は来ず、みんなの戦闘を眺めているしかないのだ。


「GYAAAAAAAAASS!!!」


――――SKILL【眷属召喚】


「「キッー! キッー!」」

 そして、ボスもユート達の動きに対してずっと待っている訳もなく、眷属である洞窟コウモリを10匹ほど召喚する。


 しかし、召喚と同時にユートの準備も整った。


「《アキュレイト・スローイング》」

 ユートがいつものように投擲する。しかしそれはボスである巨大コウモリや眷属召喚されたコウモリ達に対しての投擲ではなかった。いつものユートらしくない壁や天井に対しての投擲だ。


 そして、その投擲はいつもと違うところが1つ。それは投げたモノ。ユートが投げたのはいつものナイフやフォークでは無かった。それは、緑色をした丸いボールのようなもの。そしてその丸いボールからは、尻尾のように長い紐が伸びている。それは、スライムロープと言われるアイテムである。スライムの粘着性を活かして作られたアイテムで、主に遠くにある物を引き寄せる際に使われる便利アイテムだ。


 そのアイテムが壁や天井に投げられて、そのままくっついた。それだけではない。


ユートが投げたこのスライムロープは、ダンジョン大学校の職人科の人に頼んで作って貰ったオーダーメイドのアイテム。両端に粘着性のあるスライムからできたボールが取り付けられており、さらにそれらを繋ぐ紐はワイヤー製となっている。


つまり、このボス部屋の何もなかった広い空間内に、スライムロープによって簡易的だが足場が出来たのである。これによって、天井付近まで登ることを可能とし、さらにはワイヤーの足場を利用した3次元的な移動が可能となったのだ。



――――【アクロバット・ジャンプ】

――――【綱渡り】

――――SKILL 【ジャグリング】


「《サプライズ・スローイング》」


 ユートは出来たワイヤーの足場に次々と飛び移り、コウモリ達に攻撃を与えていく。


「これは凄いわね。あっという間に自分の有利な地の利にしたわ……」

 後衛で結界を張り終え安全地帯を作り出したクレハもユートのこの手際の良さに感心する。


 リープもバフ効果のため歌っていて会話をすることは出来ないが、その表情は驚きに満ちている。


「おらああぁぁ!」

 リペアも壁登りのあとは、ユートの作り出した足場を利用して空中を移動し、愛用の斧でコウモリをバッタバッタと切り落としていく。


「2人とも本当に人間なのですかね?」

 クレハの作った結界の中にいるククは2人の戦闘を見て言った。

 例え、足場が出来たとしてもその足場とは細いワイヤーである。上に立つことすらバランスすらも取れないであろう自分と比べて、ましてやその上で飛んだり跳ねたり戦う2人が信じられないのだ。


「まぁあの2人だから出来るのかもしれないわね……」

 ククと同様に、隣で戦闘を見ているクレハも遠い目をしていた。



「GYAAAAAAAAASS!!!」

 そして、空中での戦いは、まもなく終わりに近づいていた。


 眷属召喚で時たま現れる大量のコウモリに対しては、ユートが投擲で対処したり、地面に叩き落とすことで、下にいるマイや他のメンバーにトドメをさして貰う。

 ボスの巨大コウモリは、リペアが縦横無尽にワイヤーを駆使して動き回り徐々にダメージを与えていた。


「《鷹落とし》!!!」


「GYAAAAAAAAASS!!!」

 リペアの一撃が巨大コウモリの右の翼へと深々と突き刺さる。


 空中から地面に突き落とされる寸前のところで、コウモリは持ち直し再び空中へと舞い戻る。


 が、そこで待っていたのは、ユートであった。


「GYAASS!!!」

 巨大コウモリもすぐに気付き、鋭いキバで噛みついてくるが、満身創痍のコウモリの攻撃を避けるのはユートにとって容易なことだ。


「トドメだ。《鳥獣解体》!!!」

 手慣れた動作で【インベントリ】から刃渡りの長い包丁を取り出し、ユートはコウモリを斬りつける。


「GYAAAAAAAAASS!!!」

 コウモリは最後に断末魔のような叫び声をあげるとポリゴンの粒子となって消えていった。


 魔力の歪みとされている黒い渦から出てくる特性上、ボスは倒されるとヨヨヨのようなモンスターと同じく粒子となって消えてしまうのも特徴の1つである。そして、通常のモンスターよりもボスモンスターは高い確率でドロップ品を落とすことが知られている。


「ドロップ品があるようね」

 マイの言葉通り、巨大コウモリを倒したことで、その粒子あとからドロップ品が出現した。


「なんだこれ?」

 ワイヤーから降りて、ドロップ品の一番近くにいたリペアがそれを拾う。


 それは、黒くて薄い布のような物であった。

「どれ。うちに見せてみぃ!」

 結界を解除し近づいてきたクレハがリペアからその物を受け取る。


――――SKILL 【アイテム鑑定】


「ふむ。まぁ大体検討はついっとたけど、やっぱり『コウモリの皮膜』や。水滴を弾いて汚れがつきにくい素材アイテムやな」

 と、鑑定の結果をクレハが言った。


「これで服とかコートを作れば便利かな?」


「そんなところでしょうね」

 リープの見解にマイも同意する。


「うちが知っている使い方やと、主に傘や雨靴とか雨具の材料やな」


「へぇ。そうなんですね。知りませんでした」

 と、5人で手に入れたドロップ品について雑談していると。


「おーい。すまんが、落ちているナイフとフォークを拾っててくれないか。俺はスライムロープの片付けがあるからさ」

 空中の方でワイヤーに乗って作業をしているユートから声がかかった。


「戦闘が長引けば長引くほど、辺りにユートの武器が散乱するのよね……」


「ははっ。こればっかりは仕方ないね。さぁ僕らも片付けを手伝うとしますか」


「そうやな。さっさと片付けて次の階層に行こか。それで、これはククに預けるわ」

 3人は口々にそう言って辺りに散らばるナイフやフォークを拾い始める。


「分かりました。あ、ララちゃんとマルハちゃんは、入り口の警戒をお願いね」

「にゃあ」

「めぇー!」

 ククもクレハからアイテムを受け取ると、それを【インベントリ】に収納し片付けに加わる。ララやマルハも鳴き声を出したりすることは出来るので、こういう時の見張り役には最適だ。


「おーいユート。俺もロープの回収をするか?」

 ユートと同じくワイヤーでバランスの取れるリペアがユートに尋ねる。


「あぁ。それなら助かる! 上の方から順番に頼む」


 こうしてクラン結成後、初のボス戦はユート達の完全勝利に終わった。




~技図鑑~

《纏い風》

 扇子による技。自分又はパーティーメンバーの1人に風を纏わせる。矢などの飛び道具を弾いてくれるだけでなく、風属性を付与する。


~スキル図鑑~

【風切りの舞】

 風属性の味方の素早さを上げる。


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