表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

No.19 『迷宮エリア』


「迷宮エリアか」

 上下左右が石レンガで覆われた部屋を見てユートは呟いた。

 迷宮エリアは、その名の通り迷路のような構造のダンジョンのエリアである。壁や床・天井の素材の種類は同じ迷宮エリアでも多々あるが、ユート達が転移してきたこの場所は、最もオーソドックスな石レンガで覆われた迷宮だった。


「結局、あのオッサン達と同じだったな」

 ユートの隣でリペアが背負っていた愛用の斧を手元に持ちながら言った。


「どうする? 私たちもリターンするかしら?」

 リペアの言葉に続き、マイが転移してきた部屋の隣にある帰り用の転移オブジェの部屋を指差しながら言う。今回の目的はメンバー間の連携確認のため、通路の狭い迷宮エリアだと目的に沿わないのではないかとマイは言いたいのだろう。ユートもそれが分かっていて言葉を返す。


「いや、俺たちはこのまま行こうか。バトルの連携確認は難しいが、迷宮エリアでも出来ない事もない。それに連携の確認は、なにもバトルの確認だけでもないしな。索敵や罠の発見とか普通の探索中でも確認する事はある。罠の多い迷宮エリアでは、寧ろ丁度いい確認になるだろう」

 自分の意見はこうだが皆はどうだ? とユートは意見を述べたあとにメンバーに発言を促す。


「俺もそれでいいぜ!」


「私も異論はありません……」

 と、リペアとククがユートに同意する。


「うちも賛成やな。それに迷宮エリアは地図が描けるうちの見せ場でもあるさかい」


「僕も賛成かな。迷宮エリアは僕の得意なエリアでもあるしね」

 クレハとリープも同意する。


「まぁそうね。探査中の確認も大事よね。私もそれならそれでいいと思うわ」

 最後にマイも了承して、ユート達メンバーはリターンしない事となった。若干、マイが悪者扱いになりそうな会話ではあったが、違う意見があって別の選択肢を多く出せるというのは良い事なのだ。ユートとマイはこうやって意見を言い合う事は大事だとお互いが分かっている。より良いクランやパーティーにしていくには、活発な意見交換は必須である。クランのルールとして意見を言い合うのは悪いことではない。あとでこの事は全員に確認しておこうと今の会話でふと思うユートであった。




「《スラッシュ》!」


「ピギャ!」

 リペアが前衛で、こちらに向かってきた迷宮ネズミを一振りで切り倒す。


 一応、クク以外は3層まで行き、第2ジョブを解放しているユート達にとって、1層のモンスターは手強い相手ではない。時たま現れる迷宮ネズミをリペアが苦戦もなく倒しつつ、ユート達は順調に迷宮を攻略していた。

 というのも、リープとクレハの存在が大きかった。


 ポロロン。ポロロンとウクレレを弾きながら迷宮を歩くリープは、珍しいスキル【音響空間把握】により響いた音を通じて空間の把握が出来るのだ。


「左側は行き止まりみたいだね。右に進もうか」

迷宮の分岐路では、リープがそうやってウクレレを弾きながら音を出し跳ね返ってきた音を聞くことで周囲の空間を把握することが出来る。これにより迷宮探索の一番の障害である行き止まりにあたることなく探索出来るユート達の攻略効率はかなり良いものだった。


「行き止まりやねんな。オッケーや」

それにクレハが『商人』ジョブの覚える【マッピング】スキルで素早く地図を書き込むことにより、今までの道もすべて記録している。例え分岐路が2つとも行き止まりだったとしても、地図により引き返すルートが決まっているのだ。


 リープの現在進行形で行うルートの探索に、クレハの地図の記録である過去の情報。この2つが揃えば未来の情報も立てやすい。迷宮探索においてこの2人の相性は抜群であった。


「おっと、前から敵だね」

 ポロロンとウクレレを弾くのを一旦辞めたリープが忠告した。

リープの空間把握はなにも迷宮内の道の探索が出来るだけでない。敵や罠も発見することが出来るのが特徴なのだ。迷宮エリアでのリープの能力はユート達からしても反則級の能力であった。


「あれはヨヨヨだな。今回は俺が相手するよ」

 遠くの方の曲がり角から現れたモンスターを見てユートがそう言ってリペアを下がらせた。


 ヨヨヨというモンスターは、幅広いダンジョンエリアで出現するモンスターであるが、迷宮エリアだと特に出現率の高いモンスターだ。顔も何も無いボールのような球体の頭に、羽が3つあるブーメランのように曲がった細い身体をしている。不思議なことに頭と胴体が離れても生きていけるモンスターであり、戦闘方法もそのボールのような頭かブーメランのような身体を飛ばして攻撃してくる。

 今まで迷宮ネズミの相手をしていたリペアだが、中距離から攻撃してくる相手には少々分が悪いとユートは思い、代わりに戦闘を引き受けた。



「ヨヨヨ、ヨヨヨ」

 口の無いはずのヨヨヨは、その名前の由来ともなった不気味なようでファンシーな鳴き声をあげながらユート達に近づいてくる。


 ヨヨヨよりも先に射程圏内に入ったユートは先手必勝とばかりにナイフを投げる。リペア達が正確無比と言うほどのコントロールで投げられたナイフは、真っ直ぐにヨヨヨへと向かって行くが、ヨヨヨが自分の頭を飛ばしたことでナイフは当たらず迷宮の床へと落ちた。


「よっと!」

 そして、飛んできたヨヨヨの頭を懐から出したナイフでユートは受け流す。剣士や戦士のように剣技やそれに伴ったスキルが使えなくてもナイフを完全に扱えないという事ではない。小さいナイフながらもしっかり受け流すことの出来るのは、ユートの鍛錬の賜物であった。


「ヨヨヨ、ヨヨヨ」

ゴンッと鉛のような音を響かせながら、そのまま迷宮の壁へと激突したヨヨヨの頭。

それを見てユートは逃がさないように踏みつけるが――。


――――!!!


 鋭い刃を持ったヨヨヨの胴体のほうが回転しながら飛んできたため、対処せざるを得なかった。鉛のような重い球体である頭と鋭い刃のような鋭利な胴体。この2つが空中で自由自在に動き回り攻撃してくる。これがヨヨヨの厄介な点であった。


「今のはヒヤッとしたな……」

 ユートは呟く。それと同時に自分に活を入れた。


「ヨヨヨ、ヨヨヨ」

 頭と胴体が再びくっついたヨヨヨに対して、間をおかずにユートはナイフとフォークを投げつける。その数同時に5本。


 これを感知したヨヨヨは、先程と同じように自分の頭を投げだす。


「《サプライズ・スローイング》!」

 しかし、2度も同じ手を食らうユートではなかった。その回避を読んでいたユートは、間髪入れずに技を発動させて投擲する。


 まずこちらへと飛びながら回避を試みたヨヨヨの頭の方が《サプライズ・スローイング》の小さな爆発に包まれた。しかし、ヨヨヨにはもう1つ厄介な特性がある。それは頭と胴体を同時にダメージを入れなければ倒せないという条件だ。それにより例え、頭を戦闘不能にしたとしても胴体の方がダメージを負っていなければ10秒も経たない内に頭も回復してしまう。


頭の方にダメージを入れた今、その10秒間の内にユートは、胴体の方も倒さなければならない。


「《道化師の火吹き》」

 しかし、時間制限がある中でもユートは冷静だった。

自分が頭に攻撃している間に、胴体が必ず動き出していると分かっていたユートは、胴体が飛んでくるであろう正面の通路一面に口から火を放ったのだ。


「ヨ、ヨヨヨ」

 ユートの狙い通りに真正面からきた胴体は焦げて地面に落ちた。

頭のほうもそれに伴い、爆発の中で鳴き声をあげて地面に落ちると光の粒子となって消えていった。


 最初は油断して危なかったものの、結果はケガ1つ無くユートの完全勝利であった。



~モンスター図鑑~

『迷宮ネズミ』

 迷宮に潜むネズミ。小型犬くらいの大きさで突撃特攻してくる。鋭い2本の前歯で噛まれると危険。動きは単調で読みやすいが群れるとこれまた危険。


『ヨヨヨ』

 顔も何も無いボールのような球体の頭に、羽が3つあるブーメランのように曲がった細い身体。イメージがしにくい場合は作者のTwitterへ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ