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No.11 『吟遊詩人の思いつき』


 ユートの寮の自室の扉の前にいたその人物は、リープ・トラッド。

 第一ジョブは『吟遊詩人』であり、その容姿も相まって、女子からの人気も高くダンジョン大学校一のイケメンとも言われている。金髪で整った顔をしていて、派手な服であるもののそれを平然と着こなし優しい雰囲気を醸し出している所が女子からは人気の理由らしい。また、女子だけの人気ではなく、彼の音楽性に魅了されてファンになる男子も後を絶たないという。


 そんな学校一の有名人リープ・トラッドとユートはダンジョン探索の授業で1度パーティーを組んだ事があった。それ以来、たまに一緒にダンジョンに潜る仲である。


「やぁ。久しぶりだねユート」


「あぁ2ヶ月ぶりくらいか? 本当に久しぶりだなリープ」

 2人は昔馴染みの親友のように、ハイタッチを交わしガッチリと握手をする。


「ところで急にどうしたんだ? ライブで忙しいはずだろう?」

 ユートはリープに尋ねる。

 リープはその見た目と音楽性も相まって、ダンジョン大学校に入ってすぐに大手の『吟遊詩人』のクランに誘われる程の才能の持ち主だ。しかし、ダンジョン大学校の規則上、卒業まではクランに所属することは原則として出来ない。アルバイトやインターンの形としてクランに所属することは認められているが、基本的にダンジョン大学校では実技や実習も多く筆記の授業などもあるのでクランとの両立は出来ない場合がほとんどだ。

 リープはそのジョブ『吟遊詩人』の特性から、一部実習の訓練といった形で学校側から特別にライブ活動が認められており、『吟遊詩人』のクランで活動している。そのためダンジョン大学校の授業の合間にもライブで各地を飛び回っており忙しい身であるのだ。


「今月のライブはもう終わったよ。今日からは卒業ライブに向けての準備とやり残してる課題だね」

 リープは苦笑交じりにそう言い、続けて口を開く。


「それで今日はユートに卒業ライブのチケットを持ってきたんだ。特等席もあるけど、君はあまり目立つのも嫌うと思ってね。会場の端だけど見やすい場所を選んだつもりさ。是非、学生最後の集大成を君に見て貰いたくてね」

 そうリープは言って懐から出したチケットをユートに渡す。


 学校にもファンが多いリープにとって話しかけてくる相手は多いものの対等に接してくれる相手は数少ない。そんな自分の時間がない学校生活で、初対面でも『吟遊詩人』だと知ってもなお対等に接してくれたユートにリープはとても感謝していた。男同士でそんな事を話すのは恥ずかしいが、最後くらい自分の晴れ姿をユートに見て貰いたくてリープはチケットを渡した。


「そうか。学生最後のライブか。結局俺はリープのライブを一度も見に行ってないもんな」


「探索の休憩の時は聞かせたことはあるけどね」


「そういえばそうだな。良いのかこんな貴重なもの?」

 ユートは手に取ったチケットを持ち上げてから尋ねる。リープの学生最後の卒業ライブともなればそれこそチケットは飛ぶように売れるだろう。


「いいのさ。僕の身内用のチケットだからね」


「そうか、ありがとな。ライブ楽しみにしてるぜ」


「来てくれるなら嬉しいよ。なんならもう数枚ならチケットを用意できるよ?」


「そうだな。それじゃあもう2枚くれないか?」

 リープにそう言われて、マイとリペアが頭に浮かんだユートはここはお言葉に甘えてチケットを貰うことにした。


「分かったよ。今は持ち合わせがないからまた後日でいいかい?」


「あぁ、よろしく頼む。っと立ち話もなんだしな。軽くご飯でも食べていくか? 大したものは出せないけどな。チケットのお礼も兼ねてさ」

 いつまでも寮の廊下で話している訳にもいかずユートはそう提案する。


「君の料理は美味しいからね。是非お願いするよ。それにしても、今日直接チケットを渡せて良かったよ。最悪寮の管理人さんに頼もうかと思ってたところさ」

 リープが了承したので、ユートは鍵を開けて自室へと招くのだった。久しぶりの再会に会話も弾む2人であった。




「うん。やっぱり君の料理は最高だよ」

 リープが綺麗な食べ方で料理を口に運びながら言う。

 今日のユートが作った料理は、先日のニワガーの肉の残りを軽く焼いてそれを葉野菜と合わせ、ウメメの実を使用したドレッシングをかけたサラダに、ピザのようにトッピングし味付けしたトースト、野菜やお肉などの具材が沢山入ったミルクスープである。

 リープもリペアやマイと同様、ユートに胃袋を掴まれている1人であった。


「ところで、チケットを2枚という事だったけど知り合いの分かい?」

 先程の件が気になったのかリープがユートに尋ねる。


「あぁそうだな。リペアとマイは分かるか? 『木こり戦士』と『薬師』の2人だ」


「確か学生結婚した2人だったかい?」

 話したことはないようだが、どうやらリープも2人は知っているようだった。

 まぁあの2人も色々と目立つからなとユートは思ったが、『道化師』というマイナージョブであるユートも学校ではかなり有名人だという事に本人は気付いていない。


「今度な、あの2人とクランを設立することにしたんだ」


「えぇ! 本当かい!?」

 ユートの言葉に手を一旦止めリープが驚く。


「あぁ。俺の夢は知ってるだろ? ダンジョンを攻略するってやつ。それを目指して大手クランに志望もだしたけど結局ダメでな。リペアとマイも問題起こして内定貰えないことを聞いて、どうせなら1から3人でクランを作ろうかと決めたんだ」

 ユートはリープにクランを設立する経緯を話す。


「まぁ残りのメンバーもまだ決まってないけどな」

 と、ユートは自嘲気味に笑った。


「それなら、僕もクランに入れてくれないか!」

 すると突然、リープがとんでもない事を言い出した。


「……えっ? リープお前入るったって今のクランはどうすんだよ?」

 『吟遊詩人』のクランでもう既に活動しているリープは、当然ながらそこのクランに入るとさえばかり思っていたユート。リープのその当然の提案に驚いて喉を詰まらせかけるも言葉を返す。


「いや実はね……」

 そう口火を切ったリープは今のクランに本当に入るか悩んでいる事を話し始めた。その理由は、主にリープとそのクランとの意見の食い違い。

 『吟遊詩人』クランは、その目的として吟遊詩人の活動補助をする事の他にダンジョンで発見される楽器や楽譜、そのほか音楽活動に役に立つアイテムの発見を目的としている。リープも音楽活動とダンジョン探索を両立できるという理由でこのクランに入った。

 しかし、リープの持つ高いポテンシャルにクラン側は音楽活動のほうに専念して欲しいらしく、万が一でも危険のあるダンジョン探索をして欲しくはないそうなのだ。でもリープとしてはダンジョンに潜りたい。両者の間で意見が対立しているという。


「クラン側も僕のことを考えている事は分かるよ。だけどね僕は音楽活動もダンジョン探索も両方やっていきたいんだ……。ユート僕もね、他人に話したことは無かったけど、ダンジョンを探索する理由があるんだ。僕のあの「ギター」と「マイク」があるだろう? あれ実は『シリーズ』なんだ」


 『シリーズ』とはダンジョンで見つかるアイテムに稀に付いている称号・特殊効果である。

 2つで1つであるという対として存在する『ダブル』や3つで1つの『トリプル』それ以上のセットを『シリーズ』と呼ぶ。勿論それらアイテムは1つのみで使用することも出来る。しかし、その『シリーズ』をすべて揃えて使用するならばその能力は遥かに跳ね上がるアイテム群である。

 ユート達の住むここドラゴンナイン王国を建国した初代国王は「ヘルム」「アーマー」「ブーツ」「ソード」の4つを揃え当時の最高階層である5層を突破し、その時手に入れた宝からこの国を建国したと言われている。それほど『シリーズ』を揃えた時の効果は凄い。


「へぇ。探索時はそういう効果かとも思っていたが、やっぱり『シリーズ』だったのか」

 リープの言葉にユートは以前見たリープの武器を思い出して言った。


「そうなんだ。今まで誰にも言って来なかったけどね。No1とNo3だからセットがいくつ存在するかは分からないけどね」

 とリープは言うが、多くの探索者が求めて止まない『シリーズ』を2つも持っているだけでもかなりの価値があるのだ。それこそ『シリーズ』を探しダンジョンに潜っていても、一生の中で巡り合えない人も五万といる。


「『シリーズ』に呪われた一家ってユートも聞いた事があるだろ? 僕の一家もある意味その『シリーズ』に魅せられた一家なのさ」


 『シリーズ』に呪われた一家。それは昔からあるおとぎ話である。ある日ダンジョンで『シリーズ』を手に入れた男は、その日から対になる他の『シリーズ』を探すためにひたすらダンジョンに潜り続ける。その男が死んでも『シリーズ』を受け継いだその子孫たちが他の『シリーズ』を探すためダンジョンに潜り続ける。それはまるで呪いのように、その一家をダンジョンへと誘い続けるのだ。


「僕のこの『シリーズ』の1つは僕の祖父の祖父が最初に見つけたモノらしい。祖父の父はダンジョンに潜らなかったが、僕の祖父とその子僕の父親は、その祖父に影響された。2つ目は祖父と僕の父親がそれこそ一生掛けて探し当てた『シリーズ』さ」


 一呼吸の間をおいてリープは再び口を開く。


「それを僕は僕の代で揃えようと思っている。この『シリーズ』は武器や防具でもない音楽に関わる能力だ。祖父や父は音楽の才は無く、この『シリーズ』を使う事を諦めたが、これは自慢でも自惚れでもないけど、この『シリーズ』は僕が使うのに一番相応しいと思う。それに例えば、僕の次の代にこの『シリーズ』が渡ったとしても、この『シリーズ』を使いこなせる人物はおそらく出てこない」


 これは僕が揃えて扱うべき楽器の『シリーズ』なんだ。とリープは力強く語った。


「だから僕は音楽活動とダンジョン探索を同時にしなきゃいけない。ユートがクランを作るって聞いて僕はピンッと来たよ。僕もそのクランに入る。そして音楽活動でもダンジョン探索でも一番を目指すよ」

 リープは真剣なそしてどこか清々しい表情でそう言った


「そうか。リープがそこまで言うなら俺は止めないし寧ろ大歓迎だ。でも今のクランとの話はしっかりつけろよ?」

 ユートはここまで熱いリープは初めて見たと思いながらクラン入りを賛成する。


「もちろんだよ。それに結局のところ、クラン側は僕の楽曲さえ手に入ればいいからね。少し手間取ると思うけど所属が変わっても楽曲を提供するって言えばおとなしくなると思うよ」


「まぁ穏便にな。どっかの誰か達みたいに暴力沙汰にはするなよ」


「ははっ! それもアリかもね」

 と軽口を叩けるくらいに、リープの表情はユートが先程扉の前で会った時と比べて明るくなっていた。ユートも最初からなにか相談ごとがあるのだろうと勘づいて、食事に誘ったのもあるが解決して何よりだと思った。それに思わぬ所でクランメンバーを確保出来たことにはユートとしても満足だった。


「って、そうなると後衛の攻撃役が解決したことになるな」

 ユートはリープの戦闘方法を思い出してポツリと言った。


「なんだ。後衛の攻撃職を探していたのかい? それなら益々僕にピッタリじゃないか。少し対策は必要だけど、君がいれば何とかなるしね」


「あぁ。これは俺たちとしてもラッキーだ。リープがパーティーにいるなら出来る事も更に増える」


「そうか。それなら良かった。今後ともよろしくお願いするよ」


 こうして、第1ジョブに『吟遊詩人』と第2ジョブに『罠士』のジョブをもつリープ・トラッドがユート達のクランに加わった。



~食材・料理図鑑~

・ニワガーのチキンサラダ withウメメの実を使用したドレッシング

 癖のないニワガーの肉とみずみずしい葉野菜に、甘酸っぱいウメメの実を使用したドレッシング。


・ピザトースト

 具材たっぷり。こんがりフワフワ。チーズとトマトとピーマン、ベーコンが様々な味覚を呼び起こし絶妙なコラボレーションする一品。


・具だくさんミルクスープ

 優しい味のミルクが野菜や肉に染み込み、これまた堪らない一品。少しの胡椒がいい味を出している。


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