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令嬢男子と乙女王子──幼馴染と転生したら性別が逆だった件──  作者: 恋蓮
第三部 【君と狂詩曲(ラプソディ)】
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◆79.君はペンギン

 

 ワイワイと色々な事を言い合いながら莉仁(りひと)と妃沙が何だかんだで手を繋ぎ、やって来たのは首都でも有名な繁華街の中にある、高層ビルの中の水族館。

 それでなくてもショバ代の高い首都の繁華街の中でも特に目立つランドマークタワーの中にあり、一昔前から入館料を値上げしていないにも関わらず、定期的に「行ってみたい」と思わせるようなイベントを開催する事で有名で、妃沙達が訪れた際には『ドキッ♪ 隣の人と一緒に水棲生物に恋しちゃう!?』なんて銘打たれたイベントが開催されていた。

 曰く、入場時に一組に一枚、特定の場所でだけ反応するカードが配られ、それを持ってその場所に行くと場所毎に違った反応を示してくれるそうである。


「……こんな子ども騙し……楽しみになんか……」

「楽しみだねぇ、妃沙! 俺ね、陸上生物も好きだけど水棲生物もすごく好きなんだ。だって、自分達とはまるで違った構造の生物だしさ。それに、派手だけど生きる事に一生懸命で健気な気がしない?」


 食い気味に妃沙の言葉を遮ってそんな事を言う莉仁の言葉は、果たして作戦か、それともテンションが上がりきっているからなのかは……莉仁のキラキラと輝く笑顔を見れば一目瞭然である。

 その姿は、東珱(とうえい)が誇る鳳上(ほうじょう)学園の理事長だなどと周囲の人に知られてはいけないのではないかと思わせる程に子ども顔負けの笑顔に彩られていた。


「……お前がデートっつーモンに憧れてるのは良く解ったよ。まったく……おっさんの初体験は暑苦しいってのはホントだな」


 溜め息を吐き、呆れたように呟く妃沙の横で、莉仁はもう子ども以上に大興奮で人の話など聞いていない様子であった。

 普段はこんな風に自分を前面に出す事は躊躇ってしまうのだけれど……今日くらいは良いよな、と、この『フィールドワーク』の実現が決まった時から莉仁は心に決めていたのだ。

 今日だけは何も我慢しない。楽しければそう言うし、行きたい所があれば躊躇わない。相手に対して我が儘も言うし……好きだと思ったらその都度言おう、と。

 子どもじみているとは思うけれど、彼の中で最も警戒している恋敵(ライバル)、東條 知玲はこの程度のワガママを言ったからといって妃沙の心に変化を齎すような繋がりではないのだ。

 出会いのアドバンテージ的には圧倒的不利な莉仁。だから自分は、その付き合いの『深さ』で勝負するしかないのだと理解しているのである。

 だが、今の莉仁にあって知玲にはないモノ……それは地位と経済力と……そして、今までの経験で培って来た『色気』だ。

 だから彼は、自分の中でシミュレーションして来た最大限のキメ顔で美しく微笑みながら、キュッと妃沙の手を握って言ったのである。



「妃沙……君といると本当にドキドキするよ」

「なんだよ、熱中症か? まだ朝も早いのに今からそんなんじゃ先が思いやられるな」



 くずおれ、オオォォーーと声にならない声を漏らし、その場に蹲る莉仁。

 彼的には、最大限のオトナのイロケを発揮して放った台詞の筈なのに……何と言うことでしょう! 水無瀬 妃沙、彼女には全く通じなかったのです!


「何してんだ? 一人でも水族館は楽しめるし、置いて行くぞ?」


 ……挙句の果てにはこの仕打ちである。

 まったく、この美少女は、曲がりなりにも『恋人』という設定で時間を共にしているというのにこうまでも通常営業なのは、きっとあの元・婚約者様のせいだ、と莉仁は内心で知玲を罵った。

 こんな妃沙の対応を楽しめるであろう知玲と、いちいち反応してしまう莉仁の態度には妃沙との付き合いの長さと深さが現れているようだ。

 だが、理事長という要職にあり、妃沙への恋心を自覚し、正しく知玲は恋敵(ライバル)である、と認識している人生経験豊富な大人……莉仁はこの不利な状況を逆に捉えて楽しんでいるようである。


「妃沙、それじゃフィールドワークにならないだろ? 年頃の男子はきっと、初デートに向けて情報収集しているだろうし、それを経験するのが今日の目的なんだから。良いから俺が調べたルートで……」

「うぉーー!! イルカと触れ合うプールに天空のペンギンだってよ! ここ行こうぜ!

 ……莉仁、お前さ、そんなに固くなるなよ。デートだからってそんなに準備万端にして来る高校生なんかいねーだろ。

 リラックスして、面白そうだと思った場所に行って、目にしたものを一緒に全力で楽しむ。それがデートってモンだし……今日は『恋人』なんだろ?」


 ニヤリと男前に微笑む様は、果たして妃沙なのかと一瞬疑ってしまう程に格好良かった。

 その姿に見惚れ、だが次の瞬間にはこのままでは男としての面目丸つぶれだと危機感を抱いた莉仁だが、彼女の言葉にどこか、ほっこりとした幸せを感じてしまうのも事実だったのである。


「なんだよ、ちゃんと理解してくれてるんじゃないか。でも、年上の恋人としてはちゃんとエスコートしたいんだよなー」

「初めてのくせに無理すんな。どんな場所でもどんなことでもきっと楽しいぜ。お前といるのは……嫌いじゃないから」


 感情が動いた時に片眉をピクリと動かす癖のことは、莉仁はまだ知らないけれど。

 頬を染め、ぷい、とそっぽを向くその様子を可愛いと思わない男はいない筈だ。ましてや相手は絶世の美少女で……今や恋をしているのだと自覚している対象なのである。


「妃沙、ねぇ、何なの? 俺を萌え殺そうとでもしてるワケ?」

「はァ!? 何言ってんだ、お前。良いから行くぞ。ダラダラすんのは嫌いなんだよ」


 ほら、と、莉仁の手を取ってずんずん進む妃沙の横顔は相変わらず微かに朱に染まっていて、猛烈に可愛い。

 本当なら誰にも見せたくないなんて思ってしまいそうな笑顔だが、今日だけは莉仁の『恋人』だ。


「あー! 大声で宣言したーい! 俺達付き合ってまーす!!」

「この人妄想癖がありまーす!」


 酷いな、てめーこそ、なんて言い合う二人の顔に浮かんでいるのは満開の笑顔。

 本当は……莉仁の内心には、少しだけ切ない気持ちも浮かんでいたのだけれど、今はそれに気付かないフリをして楽しもうと、莉仁は気持ちを切り替えた。



 ──こうして仮初の『恋人』のデートが今、始まったのである。



 ───◇──◆──◆──◇───



「最近の水族館はすごいんだな。光とか演出とか……音も一役買ってるか。本当に……感受性豊かな時代にここに来たかったよ」



 少し寂しそうに微笑みながら、それでも瞳はキラキラと輝かせながら莉仁が周囲を見つめている。

 妃沙はその隣で手を繋ぎながら、キャッキャとはしゃいでいた。


「そんな小難しいコトはどーでも良いんだよ! 見ろよ、ほら、スイスイ泳いでて鱗がキラキラして綺麗だろ? もっと純粋に楽しめよ、オッサン!」


 楽しそうにそう語る妃沙のきらきらしい笑顔の方がよっぽど……なんて。

 いつもだったら言えたはずの言葉すら奪ってしまう程の笑顔の破壊力に、莉仁は思わず自分が純情な高校生の時代に戻ったような気持ちになる。

 ある意味、高校生のデートコースを追体験するというフィールドワークは既に成功しているのかもしれない。

 そして、歳を重ねる毎に人の醜さとか、裏切りとか、策略に陰謀といった裏の世界を見続けることになってしまっていたことに、ああ、自分は少しだけ疲れていたのだな、と実感する。

 だが、今でこそそんなものを感じることなく人生を全うしている妃沙だけれど、前世で見て来た世界は……それこそ莉仁のいる世界よりずっと悪意に満ち溢れたものだったのだ。

 そんな世界を乗り越えたからこその笑顔だなんてことは莉仁には知る由もないけれど、もしかしたら妃沙の笑顔だけが彼の心に響くのは、そんな側面もあるのかもしれなかった。


「誰がオッサンだって!? 妃沙、あんまりそんなことばかり言ってるとボクちん、拗ねちゃうお?」

「……ぶっ」


 突然にブッ込まれる莉仁の口撃(こうげき)に、妃沙は思わず口元を押さえて顔背ける。

 莉仁の綺麗な顔から放たれるこの言葉使いの破壊力といったらないのだ。

 そんな妃沙の性癖を良く知っている莉仁だから、効果的な場面で口調を変えて妃沙を楽しませ続けているのである、妃沙に抵抗など出来ようはずもなかった。


「……おい莉仁、あんまりその口調を使いすぎてクセになるなよ? 理事長の威厳がなくなるからな?」

「善処するお」


 妃沙の耳元で囁き、ついでとばかりにその頬にチュッとキスを落とす莉仁の姿に、周囲で彼らに見惚れていた女性達からキャッと声が漏れる。

 そう、やたらと美形な二人は今、魚達より目立ってしまっており、水槽の中の生物達よりもずっと注目を浴びていたのであった。

 だが彼らにはそんな事情はどうでも良いものであり……実は妃沙は、今日の会合の為に打ち出して来た秘策があったのである。



「……あざっす。自分、不器用なんでその口調は控えてくれると嬉しいっす」



 酷く真面目な顔で告げられる、そんな言葉。

 莉仁は思わず握っていた手を解いて、マジマジと妃沙の顔を見つめることになってしまった。


「……妃沙、どした? 何か口調が……」

「年上に対する礼儀ってヤツっすかね」

「……設定は?」

「モンスター新入生」


 あっさりとその設定を暴露する妃沙だけれど……彼女だって、ここに来るまでに色々考えたのだ。

 その口調が妃沙のツボだと心得ている莉仁は、絶対に阿呆っぽいあの口調で話し出す事があるはずだ、とか。

 いつまでもそんな莉仁に翻弄されるのはシャクだな、とか。

 ならば、莉仁に対抗する口調を編み出して反撃してやろうと考えた結果生まれたのが……『モンスター新入生』。

 下っ手クソな敬語を吐き続けるその口調は、実はヤンキーであった前世で、対して尊敬していない目上の人物に接する時に使っていた口調であったので話す事の苦労はあまりない。

 莉仁の考察をまるっと信じている妃沙は、今、自分が話し、聞こえている言葉はそのまま莉仁に届いていると確信している。

 だから……知玲とでは決して出来ない、こんな言葉遊びも楽しみたいなと思ったし、自分ばかり莉仁に笑わせられるのもシャクだったので新たな自分のキャラ、というものも考えてここにやって来たのだ。


「っつーか莉仁パイセン、いつまでもネタが一辺倒じゃ飽きられるなって思わないんっすか? 破壊力はバツグンっすけど、いい加減に皆飽きてるっすよ」


 つーん、とそっぽを向いて面白くなさそうにそんな事を言う妃沙の美少女面とその口調のあまりの乖離に、莉仁はもう何も言う事が出来ずにいる。

 周囲には『いつまでも同じネタでは飽きられてしまうとは思いませんの?』と、いつもの妃沙の言葉が聞こえており……まぁ、冷静に考えればその口調もギョッとするものではあるのだけれど、

 妃沙の美貌を持ってすればそのお嬢様口調はやたらと似合っているのでモーマンタイだ。

 だが、莉仁に聞こえているだろう言葉は、妃沙が面白がって捏造したものだ。その言葉で話す事に特に苦労はなかったし、妃沙はノリノリであった。


「……ふーん? 俺への逆襲ってワケ?」

「そんなつもりはねぇっすよ。地っす、地!」


 そんなワケないだろー!? と、莉仁が爆笑するのと、妃沙がドヤ顔でニンマリするのと、周囲がそんな彼らにビクッとするのはほぼ同時であった。


「俺に対抗する術を考えて編み出したキャラ?」

「地っす、地!!」


 アハハ、と笑いながら、莉仁は自分とのデートの為に妃沙が色々考えて新たなキャラを編み出してくれたことに、喜びしか感じていない。

 そして妃沙もまた、自分の素に近い言葉で話が出来ることには充実感しかないし、その言葉に莉仁が反応したことについてはしてやったり、なのである。

 どんな言葉を話しても『変換』の能力(スキル)により、そのニュアンスが正しく伝わる事がなかった妃沙にとり、自分の能力(スキル)が通じない莉仁は格好の餌食であったので、今まで話したくても出来なかった口調を思いっ切り堪能させて貰うことにした。

 水無瀬 妃沙……と、いうよりは、綾瀬 龍之介、彼は、自分の言葉が正しく伝わらない世界に存在するしかなかったから、こんな風に正しく自分の言葉を受け取ってくれる存在はとても貴重だったのである。

 なので、妃沙はもう一つ考え付いた『キャラ』をブッ込むことにしたようだ。


「おにーたん口調はキサも得意だお? リヒトにーたん、どんなキサが良いか教えて?」


 ウルウルと瞳を潤ませてそんな言葉を吐く想い人に、何も感じる所のない人間などいる筈もない。

 ましてや今、絶世の美少女が「どんなワタシがスキ?」と瞳を潤ませて語りかけて来ているのだ、絶賛初恋中の莉仁へのダイレクトアタックとしては充分な破壊力である。


「ちょっ!? 妃沙、それ、俺の専売特許だから止めてくれよな。

 それにしても……アハハ! 随分器用なんだな、妃沙。でも俺は、どんな妃沙でも大好きだよ。

 口調とか見た目とか……そういう見聞き出来る所じゃなくて、何だかんだで俺の我が儘に付き合ってくれる優しい所とか、何事も全力で楽しんじゃう素直な所とか」


 心底楽しそうに笑い、そして妃沙の手を握る手にキュッと力を込める莉仁。

 まったく、恋を再認識させたり深めたり、この子といるとどんどん深みにハマッて行ってしまいそうでちょっとヤバいな、なんて危機感は抱くものの、離したくないという気持ちもどんどん強くなる。

 ……でも、今はまだだ。

 大人で余裕のある風を装わなければこの恋を成就させることは出来ないに違いないと思っている莉仁だけれど、あいにくと彼の恋敵(ライバル)の知玲の精神年齢は莉仁より上で、態度もよほど大人である。

 だから妃沙は莉仁に大人の対応なんて求めていないし、むしろ逆に、何でも一緒に全力で楽しめる友達めいた関係を、彼には求めている節があった。

 妃沙にとって莉仁はこの世界で唯一といっても良い程に『素の自分』を曝け出せる相手なのだから、当然と言えば当然であった。


「……ンだよ。せっかく色々考えて来てやったのに。つまんねぇの」

「えー、それじゃ、リクエストしても良い?」


 クスッと微笑み流し眼を寄越し、なんだか色気すら乗せて妃沙を見つめるのは……確かに妃沙の知る結城 莉仁という男だ。

 けれどその時、妃沙はなんだかブルリ、と背筋が震えた気がした。

 それは恐らく……肉食獣に狙われた小動物の気持ちにも似た危機感だったのかもしれない。だが、時折見せる知玲のそれよりはまだ安心出来るものであった。


「一応聞いてやるから言ってみ?」

「今日一日のうち、一回で良いからさ……君の口から『好き』って言葉を聞きたいな。もちろん、対象は俺でだよ? 魚とか食べ物とか雰囲気とかに流されて言ってくれてもカウントしないからな」


 悪戯っぽく微笑みながらそんなお願いをして来る莉仁に、妃沙は一瞬だけウッと声を詰まらせる。

 だが、聞いてしまった以上、出来るだけ要望には応えようとするのが妃沙という人物であった。


「……まぁ、気が向いたらな」

「そう? んじゃ、俺も言って貰えるように俺もプレゼン頑張ろう」

「おー! せいぜい頑張りやがれ。もっとも、残念系理事長に出来るかどーかは謎だけどな!」

「ひっど!? これでも俺、結構努力して今の地位に就いたんだぞ!?」

「馬鹿か、お前、そういうのは言わないから格好良いんだろうが。今のでマイナス一点だな」

「……参考までに聞くけど、何点取ったら俺のリクエストに答えて貰えるんだ? んで、今俺は何点なの?」

「百点満点取れたら応えてやるかもな。んで、お前はマイナススタートだから相当頑張らなきゃな」


 アハハ、と楽しそうに笑う妃沙、やや必死な表情で何で!? と大きな声を上げる莉仁。

 親子にも兄妹(きょうだい)にも友達にも……そして今はまだ、恋人にも見えない二人の不思議な関係性を気にしながら、注目していた周囲も優しい雰囲気に包まれている。

 やたらと目立つ二人はだが、そんな周囲の雰囲気に流されることなく、水族館の中を進んで行った。



「あ、ペンギンだ! 可愛いよなぁ……。なんかさ、ペンギンって莉仁に似てね?」



 唐突にそんな事を言い出す妃沙に、莉仁はん? と声を漏らして首を傾げる。

 獰猛な肉食獣や気紛れな猫、また、彼の母親・翠桜(みお)などは、腹の中で何を考えていそうで考えてなくて、泰然として動かず、それでもイザという時は機敏に動くという点で「ハシビロコウみたい」と揶揄されたことはあったけれど、ペンギン、なんて愛くるしい存在に似ているなんて言われたのは初めてだったので、思わずキョトン、としてしまったのだ。


「何処が?」


 やっと疑問を口に出した莉仁に、妃沙はキラキラと瞳を輝かせ、楽しそうな笑顔を浮かべる。


「脚の短いとこ」

「いや長ぇし! 言っておくけど俺より脚の長い人間探すの大変だからな!?」


 即座に否定して来る莉仁に、妃沙はぷくく、と悪戯っぽく笑いながら「解ってるよ」と呟く。

 そして、眼前のペンギン達に優しい視線を向けると、ポツリと呟くように言った。


「水の中でも陸上でも動ける器用なとことか……妙に人懐っこい所とかな。お前にそっくりだよ、莉仁」


 慈愛に満ちた瞳でペンギン達を見つめながら紡がれる妃沙の言葉に、莉仁はなんだかこそばゆい気持ちになった。

 今までこんな風に自分を評価してくれた人はいなかったし……器用なのはともかく、人懐っこいだなんて自分とは無縁の言葉だと思っていたから。

 けれど……確かに妃沙には心を開くどころが気持ちを寄せていて、その相手からそんな褒め言葉を頂戴出来て、嬉しくない筈がない。それは子どもも大人も関係のないことに違いない。


「……妃沙、俺のこと口説いてる?」

「何でそうなるんだよ、バーカ。そういう単細胞っぽい所も似てるよな」


 呆れたように……片眉をピクリと動かして莉仁を見やる妃沙。

 そんな妃沙の視線を受けて、ペンギンは人気者だし俺にピッタリーなんて冗談めかして言いながら、莉仁は自分の心がポカポカと温かくなるのを感じていた。



 ──水族館にはサメやシャチといった食物連鎖の上位に聳え立つ水棲生物もいるというのに、例えられた生物が『ペンギン』という、愛くるしくて無害な人気者であるという事実はきっと、妃沙の中では自分は危険な生物ではないのだという事実を思い知り……この時莉仁は大いなる安息感と少しの落胆を覚えていたのである。


◆今日の龍之介さん◆


莉「俺がペンギンなら妃沙は何かなー♪」

龍「は? シャチに決まってんだろ?」

莉「海の王様!? 俺がペンギンなのにィ!? どっちかっていうとクリオネとかさぁ……!」

龍「あーそれも良いかもな。クリオネの捕食シーンって知ってっか? こう、触手を伸ばして変形してさぁ……」

莉「夢が壊れるからやめろォォーー!!」

龍「(満面の笑み)」



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