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えらんでね!





 八王子夜音は言った。

 ファーデルラントから、レジーナに亡命を希望する、と。


 空気、読めよ。読める空気召喚、と思った私は悪くない。

 

 短剣を下ろし、唖然とする私を他所に、ジャンはしばし考える風にわざとらしく眉根を揉み、


「いやー、おっどろきました。ユリア姫は、貴方に懸想していると聞いてますよお。こーんな簡単に裏切っちゃっていいもんですかねえ」


 そういう人を信用できますかねえ、と肩をすくめる。


「僕らは、元々魔王を倒すために呼ばれたはずです。人の争いには関わりませんし、関わるべきじゃない」


 八王子夜音は、はっきりと告げた。


「ファーデルラントでは、本来の目的を逸脱して、僕らを『救世主』として見る風潮が蔓延しています。そして、それを強制する勢力がある。実際に僕らの仲間の一人は、『救世主』として振舞っている。だけど、僕はそれを歓迎していません」


 だから、と八王子夜音は言う。


「腹を割って話します。異分子イレギュラーでしかない僕らの内、『戦力足りえる者』を、各国に一人ずつ。余剰を作らない。ちょうど勢力均衡すると思うんですが、どうでしょうか」

 

 どうでしょうかってどうなのそれ。

 私はジャンと八王子夜音を交互に振り返ったが、どうなるのかさっぱり分からない。


獅子(しし)身中(しんちゅう)の虫を飼うつもりはないんですがねえ」

「首輪なら、すでに確保しているでしょう」


 八王子夜音の言葉に、ジャンは私の方へ一瞥を寄越し、「ま、いいでしょう」と手を振った。

 途端に、円陣を組んで狙いを定めていた矢尻が下げられる。

 交渉次第で、ハリネズミにされていたかもしれないと思うと、誠にぞっとしない。


「八王子君といいましたか、貴方かわいくないですねえ。もっと歳相応にしてくれると、おじさんは安心するんですがねえ」

「恐縮です。僕もこちらに来て、色々ご教授いただきましたので。ところで、お名前お伺いしても?」

「ジャンとお呼びください。しかし、ああーかわいくないったら。さつきさんが対偶でかわいく思えてきました」


 どういう意味だ。

 私がアホだと言いたいのか。

 大体、八王子夜音は、何々会社の息子だった筈だ。社名は確かそのまんま八王子だったっけ? 

 家電から何からとにかく何でも作るぜ! な大会社で、大輔はお前の会社のなんとかかんとかのファンだったぞ。

 齢同じ十代ではあるが、バックグラウンド上お前帝王学ばっちりだろう。庶民と比べないでいただきたい。

 これが多少名の通ったミッション系私立高校の恐ろしさだ。隣の席の彼は御曹司。なんのケータイ小説だよ、本当に。

 思考が逸れがちではあるが、何この二人馴れ合いの会話しているわけ、と私は正直腐る思いだった。

 いや、それはともかくとしてだ。

 確かに、戦場たる現場で八王子夜音の姿を見たことはない。ファーデルラントの意思により、投下されたのは、桐島聖涙きりしまあくあのみ。

 つまり、人対人の争いに関わることを、八王子夜音は拒否し、桐嶋聖涙は承諾したということだろう。

 もしかすると、これは茶番劇ってやつなのかもしれないとすら私は疑いを深めていた。

 

「佐々木さん、そこまで僕も計算してないよ」

「心の声を読むな」

「駄々漏れだったからね」

 

 ああ、段々腹立ちというやつを思い出してきたような気がする。この手の八つ当たりは新手のものだ。


「……ジャンさんは、多分、ファーデルラントの現状をよく知っていたんだろう。彼はフランシス・ウォルシンガムみたいな存在なのかもしれないね」


 八王子夜音は私に言うというよりは、ほとんど独り言のように言った。


「フランシス・ウォルシンガムって?」

「エリザベス一世の重臣で、いわゆるスパイマスター、英国諜報機関の嚆矢となった人だよ」


 ああそう、ダブルオーセブンの発端ですか。ずいぶんありえそうですね。似合いすぎて嫌だ。

 

「まあ彼も、本来生きていないはずの人だけれどね。女王には功績の割に、毛嫌いされていたと言うし」

 

 この時、彼は詳しく語らなかったが、後にフランシス・ウォルシンガムという男は、実に不遇な人生を送ったのだと知ることになる。

 私財を投じて各国の諜報活動を行い、当然ながら莫大な借金に苦しむこととなるが、女王は彼の合理性と冷酷無慈悲を嫌悪していたために、その苦しみを無視したという。

 国に尽くして病に倒れ、失意の内に死んだ男。

 その彼とジャンを重ね合わせると、実にぞっとしない。 

 相槌を打とうとして、ふと落ちた影に視線を上げると、ジャンの奴が相変わらず底の読めないにやにや笑いで目の前に立っていた。


「な、何ですか」


 私は気おされ、僅かに仰け反った。

 そして、悲鳴を飲み込むことになる。

 奴が、いきなりむき出しの短剣を素手で握り締めたからだ。

 ひい、と喉が鳴り、私はその手の内から零れ落ちる赤い液体に視線を釘付けにされた。


「いいですか、二度とこういう真似はしてはいけません。でないと、とても痛い目に合わせますよ」


 現在進行形で痛い目にあっているのはお前だろう。

 私はとにかく必死にがくがくと頷き、頷いて、手当てをさせて欲しいと頭を下げた。

 やはり、全然冷静じゃないんだ。

 レジーナは太陽を失った。

 ジャンにとっても太陽だった。いや、一番必要としていたのかもしれない。

 この世界が偽物かもしれないだなんて、やっぱり考えられない。

 こんなにも、皆自分の『物語』を持っている。

 誰かは、他の誰かを必要としているし、失えば哀しいし辛い。苦しい。

 この冷静でくえない男をもってしても、こうして混迷を見せているではないか。

 太陽を失って、暗いこの家路を辿る道を、人々はどうやって帰りつくのだろう。

 そして、私たちは。

 どうやって家路を見つけ出せばいいのだろう。

 今は、光明すら見えない。

 

 














 <彼女のリテイク>

 

 もまたその答えを予想していたかのように苦笑する。


「だろうね」

「じゃあ、私も聞くわ。あの酷い国じゃなくて、八王子君たちも、ファーデルラントに来る気はない?」

「……無理、かな。なんだかんだいって、人の縁ができてしまってね」


 そうだろう。

 最初は軽い気持ち、そして義憤、やがて人と地の縁に縛られ、抜け出せなくなる。


「戦争なんてやめればいいのに」


 子供のような気持ちで言った。

 むしろ、魔王とやらがもっと巨大でこの大陸上すべてに脅威だったらよかったのにとすら思った。

 人と人が争う暇もないくらに、脅威が覆えば、皆協力せざるを得なくなる。

 



 中略




 ――あなたはしんでしまった! えらんでね!


 →こんてぃにゅー(あきらめない、ぜったい) <


 →裏こんてぃにゅー(もうつかれた? わすれたい? せかいのいちいんになりますか?)


 ――受諾しました。はりきって、ろーるぷれいしてください!





 

 <彼女の二回目>


「なんで?」

 

 どうしてこうなったの。 

 死んでる。

 死んでしまった。

 今更、どうして思い出させるの。

 は? イベント?

 何なのこれ。

 何なのよこれはああぁあああああああああ!!!




 中略




 ――あなたはしんでしまった! えらんでね!


 →こんてぃにゅー(あきらめない、ぜったい) <


 →裏こんてぃにゅー(もうつかれた? わすれたい? せかいのいちいんになりますか?)


 ――受諾しました。はりきって、ろーるぷれいしてください!






 <彼女のⅩ回目*>


「赤も@ねrjrs@pこいじゅgyfで」

 

* 現行です。





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