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クロスワールドーー48歳のサバイバル馬鹿が異世界に放り込まれた結果、まず飯を作り始めるーー  作者: こっちのあっきー


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森の向こうの四人


りょうが所有する二つの山。


その隣には、別の山が連なっていた。


山の麓には森が広がり、その先に小さな集落があった。


りょうたちは、その集落を目指して山沿いの森を進んでいた。


森の中は静かだった。


鳥の声。葉が擦れる音。遠くで流れる水の音。それ以外には、これといった気配もない。


先頭を歩いていたニャーレが、突然ぴたりと足を止めた。長い耳が、ぴくりと動く。


「……どうした?」


りょうが声をかける。


ニャーレは森の奥をじっと見つめた。


「人の気配がするニャ」


「人?」


「うん。たぶん、何人かいるニャ」


りょうたちは顔を見合わせた。


警戒しながら進んでいくと、しばらくして木々の隙間から小さな畑が見えた。


さらに進むと、数軒の家が建っていた。


村というほど大きくはない。しかし、人が暮らしている。畑には野菜が植えられ、井戸があり、薪が積まれている。森に隣接した山沿いにひっそりと存在する、小さな集落だった。


そのとき、家の一軒から三十代前半ほどの男が出てきた。


男はりょうたちに気づくと、目を見開いた。とりわけ、りょうの隣に立つ佐竹たち自衛隊員の姿に驚いたようだった。


「……自衛隊?」


男の後ろから女が姿を現す。彼女も佐竹たちを見るなり、驚いた表情を浮かべた。


「……あなたたちは、もしかして……」


佐竹が一歩前に出る。


「以前、ここを訪れた自衛隊員です。覚えていませんか?」


男と女は顔を見合わせた。


「あのときの……」


男が呟く。


かつて、自衛隊はこの場所に暮らす日本人たちに避難を呼びかけていた。


しかし、彼らはそれを断った。


それ以来、再び顔を合わせることはなかった。


まさか、こんな形で再会することになるとは、四人とも想像していなかったのだ。


りょうは二人を見つめた。


自衛隊から聞いた、避難を断った老夫婦。その人たちが、この二人なのだろうか。


疑問を抱くりょうに、男が静かに口を開いた。


「私たちは、転移する前は六十四歳でした」


りょうの目が見開かれる。


「……六十四?」


「ええ」


女が頷いた。


「こちらに来てから、身体の変化には私たちも驚きました」


男が続ける。


「時間の流れが違うことに気づいたのは、かなり後でした」


りょうは二人を見た。


「それじゃあ、今の身体は……」


「三十二歳です」


女が答えた。


りょうは言葉を失った。


日本で六十四年を生きた記憶と経験を持ちながら、肉体年齢は三十二歳。


この世界の時間の流れによって、四人の肉体は若返っていたのだ。


「それじゃあ、あなたたちも……」


りょうが尋ねると、家の奥からさらに二人の男女が姿を現した。


男が口を開く。


「時人一郎です」


隣の女が微笑んだ。


「妻の花子です」


続いて、もう一組の男が名乗った。


「加賀里達也です」


隣の女も続ける。


「妻の久子です」


四人。


全員、日本人だった。そして全員が、かつて自衛隊から避難を求められた人間だった。


達也が苦笑する。


「自衛隊の方々から、避難するように言われました」


花子が続ける。


「でも、私たちは断ったんです」


「なぜ?」


りょうが尋ねる。


達也は少し考えてから答えた。


「もう十分に生きたと思っていましたから」


「ここには家も畑もある。食べていくこともできる」


一郎が穏やかに続ける。


「残りの人生を、ここで静かに暮らそうと思ったんです」


それが、この四人の選択だった。


避難することを拒んだ。外の世界から離れ、この集落で暮らすことを選んだ。


そして転移が起きた。


四人は、そのままこの場所に残った。


幸い、食料と水を確保することができた。畑を耕し、家を維持し、互いに助け合いながら生きてきた。


自分たち以外の日本人が生きているとは知らなかった。自衛隊が生き残っていることも、りょうがこの世界にいることも。


何も知らないまま、ただ静かに暮らしていた。


りょうは家の中を見回した。


古びた机。日本語で書かれたノート。いくつもの瓶。そして、棚の奥には小さな顕微鏡まで置かれている。


その横に、古びた名札があった。


大学病院・薬学研究室。


りょうは名札を手に取った。


「……研究者だったんですか?」


時人一郎が頷く。


「薬理学を専門にしていました」


花子が続ける。


「私は有機化学と医薬化学です」


加賀里達也が答えた。


「私は微生物学と感染症研究を」


久子も続ける。


「分子生物学と細胞、生体分子の研究をしていました」


りょうは四人を見た。


この世界で偶然出会った日本人。


それだけではない。


彼らは、現代日本の科学を知っている。


そして、この世界にはアルカディアの病院がある。椎名がいる。ローズマリーがいる。


そして、自分には日本の知識へアクセスする方法もある。


りょうは、ふと思った。


もしかすると、今まで別々だったものが、ここで繋がるのではないか。


「ここからなら……もっと色々できるかもしれません」


達也が顔を上げる。


「色々、ですか?」


「医療とか、薬とか」


りょうは四人を見た。


「この世界で、もう一度作れるかもしれない」


四人の表情が変わった。


それは、長い間眠っていた研究者の顔だった。


そして、森の中で偶然見つけた四人の日本人は、この世界の医療と科学を大きく変えることになる。


帰り道。


ニャーレが、りょうの横を歩いていた。


「りょう」


「ん?」


「また人を拾ったニャ」


「今回は拾ってないだろ」


「でも、見つけたのはニャーレだニャ」


りょうは苦笑した。


確かに。


今回ばかりは、その通りだった。

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