表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

4. 辺境伯家、狂喜乱舞する


 二時の方向に、何かが揺れる。


 ――魔獣だ。

 それも、大型の四足獣が三頭も。

 体長は各々、ゆうに二メートルを超えており、黒灰色の毛で全身を覆われていた。


 見た目はオオカミに近いが、魔法耐性を持っている。

 並の魔力攻撃では傷ひとつつかない、厄介な魔獣だった。


「左側に回れ!」


 飛びかかる魔獣の攻撃を軽々と躱し、ロイドは指示を出す傍ら、踏み込みざまに剣を走らせる。


 薙いだ剣は、魔獣の左前足を軽々と削ぎ、だが足を失ってなお倒れることなく地を蹴った。

 痛みのせいか動きが荒くなり、初動の精彩を欠いている。


 ふと、後方にいた魔獣達が、きょろりと辺りを見回した。


 視線の先……馬車の中には、魔力の気配。

 レティシアに気付いた二体の魔獣が向きを変え、ふわっと騎士達の頭上を越える。


 御者台を見ると、御者はすでに避難しており、木の上でガクガクと震えていた。


「行き掛けの駄賃だな」


 レティシアは今にも消えてしまいそうに少ない魔力を、指先に集める。

 わずかに窓を開き、隙間から糸のように細く長く、静かに伸ばしていく。


 網状に張り巡らされたその糸は、闇に溶け落ち……こちらへ駆けてくる魔獣の身体に触れた。


 魔獣の表皮には、内包した魔力を外へ逃がすための『放出点』がいくつもある。

 レティシアはそこを塞ぐように、ひとつひとつ丁寧に糸を絡ませていく。


 魔獣の動きが、不意に緩慢なものになった。

 逃がせなくなった魔力が澱のように体内に溜まり、ぐらりとその身体が揺れる。


 ――次いで、もう一頭。

 後ろ脚に傷があり、毛の隙間から剥き出しの肉が覗いている。


 今度は魔力の糸を、より細く、鋭く練り、筋肉の継ぎ目へ差し込んでいく。

 魔獣が一歩踏み出した瞬間、ちり、と小さな音を立て、後ろ足がすとんと力を失った。


 これでもう、大丈夫。

 魔獣が動けなくなったことを確認するなり、レティシアは馬車の窓を閉める。


 一方ロイドは、突然動きの鈍くなった魔獣に歩み寄り、訝しげに首を傾けている。

 不自然な動きを怪しんでいるのだろうが……弱体化魔法の痕跡など、相応の魔法師でなければまず見破れない。


「レティ、待たせた。中の鍵を開けてくれ」


 馬車に乗り込んできたロイドから、顔を覗き込まれる。


「怪我はないな?」

「……ない」


 あれだけ動いたのに、ロイドは息を切らすどころか汗ひとつかいていない。

 レティシアに異常がないかを確認し、ロイドは馬車の扉を閉めた。



 ***



「ここが、俺の領地……辺境の街『ミネルヴァ』だ」


 毛布にくるまれ、ロイドの膝上で寝息を立てていたレティシアは、ゆっくりと瞼を持ち上げた。


 ミネルヴァなら知っている。

 魔獣の森を挟んで南側が、トルティア王国……辺境の街『ミネルヴァ』。

 そして北側が、レティシアの治める魔法国アストリアだ。


 討伐のため森へ入ることもあり、両国の討伐隊が鉢合わせることもあるらしい。

 だがこれで魔法国が近くなった。

 魔力が回復すれば、すぐにでも帰れる。


「今日からここが、お前の家だ」


 興味深く見回しながら辺境伯邸にたどり着くと、夜にも拘わらず、ロイドを待つ使用人達が勢ぞろいで出迎えてくれる。


 冷血将軍と恐れられているわりに、使用人達が怯えていない……?

 レティシアが首を傾げる間もなく、屋敷の正面扉から勢いよく誰かが飛び出してきた。


「ロイドぉぉぉ! おかえりなさぁぁぁいッ!!」


 ふくよかな女性が満面の笑みで両手を広げ、馬車に向かって駆けてくる。

 その後ろから壮年の男性が、「待て、転ぶぞ」と小走りで追いかけてきた。


「父上、母上。ただいま戻りました」

「魔獣討伐で一ヶ月も家を空けるなんて……無事でよかったわ! ところでその子は、どなた?」

「……陛下から、急使が行ったはずですが」

「あら、何も来ていないわよ?」


 レティシアの件は、国王から直々に連絡をすると言っていたのに。

 お行儀よくロイドの腕に収まっていたレティシアを目に留め、抱っこしたくてたまらないのか、彼女はそわそわと落ち着きを失くしていく。


「最近は魔獣達が知恵をつけて、辺境伯領を迂回するようになっちゃったから……もしかして、途中で食べられちゃったのかしらねぇ」


 ほわほわと柔らかな口ぶりで告げるが、その内容は極めて過酷。

 辺境伯領を取り巻く、魔獣被害の甚大さが窺える。


「で、誰なのかしら?」

「陛下より、妻となる娘を賜りました」

「へっ?」

「――は!?」


 身元は不明ですが、とロイドはすかさず言い添える。

 事前の連絡もないまま、久しぶりに帰ってきた息子が……突然、花嫁を連れてきた。


 父母ともに固まるのは当然のことだ。


「……妻ですって!?」

「はい」


 国王から賜った相手ともなれば無下にもできない。

 次代の跡継ぎを思えば、さぞ心配なことだろう。


 ロイドの両親に罪はなく、自分のことながら申し訳なくなってくる。

 そんなレティシアの思いなど知る由もなく、母の視線がロイドの腕に向けられた。


 小さな小さな、可愛い花嫁。

 黄金色の髪は空高く昇る太陽を思わせ、紫の瞳は、玉座に据えられた国宝級のアメジストのように、夜目にも眩しく輝いている。


 召喚時のボロ布は小綺麗なドレスに代わり、悲しげに目を伏せる姿は庇護欲をそそり、見る者の心を締め付けた。


 皆がレティシアを見つめている。

 何か言った方がいいのだろうか。


 息を殺して様子を窺うが、どうにも居たたまれず、小さな身体をより小さく縮こめる。

 だがその直後、屋敷が揺れるほどの歓声が上がった。


「お嫁さん!? ロイドにお嫁さんですって!?」

「ついにこの日が来たか……!」


 今日はみんなで、祝杯だ!


 狂喜乱舞するロイドの父母を筆頭に、完全なるお祭り騒ぎ。

 そしてその様子を、ロイドはさも当たり前のように、平然と受け入れているのだ。


 冷遇されることを覚悟していたのに、予想の斜め上を行く歓迎ぶり。

 幼女を妻にしろと言われたことを疑問に思うどころか、警戒すらせず受け入れている。


 なんだ……?

 疑うとか、怒るとか、喜ぶ前にやるべきことがあるだろう!?


 ――誰も彼も、反応がおかしかった。


「よかった……本当によかったぁ……ッ!」


 涙ぐみ、レティシアへと伸ばされた母の手が、桜色の頬に触れる。


 生まれてはじめての感触に、レティシアの肩がびくりと跳ねる。

 目の端で、一人の使用人が泣き崩れた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ