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【書籍化・コミカライズ進行中】3才児ですが可愛い花嫁がやってきた!と溺愛されてます。しかし私は敵国の最強魔法帝です  作者: 六花きい


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27. 全方位抜かりなし


「ほう、防護布ですな。出回るとは珍しい」


 店主もまた、目利きの商人であるらしい。

 しばらく布袋に触れた後、注意深く中を覗き込み、息を呑んだ。


「ッ!?」


 次の瞬間、目の色が変わる。

 手袋を嵌めるなり石を手に取り、光にかざし……眼鏡を外してもう一度見て、また眼鏡をかけて光にかざす。


「……お客様、これは」

「そっきんで、うりたいんだけど」

「なるほど、小切手ではなく即金で」


 長い沈黙の後、店主は深く息を吐いた。

 なお魔石を良く知らないアリエッタは、レティシアの手のひらから出てきた謎の小石に、何を大騒ぎしているのかと訝しんでいる。


「おい、台帳を持ってこい」


 店主が先ほどの店番に指示を出す。

 持ち出された台帳には、各店舗の収支報告や、今現在動かせる在庫や金が、事細かに記載されている。


 ううむ、と店主は唸り、何やら考え込んでしまった。


「間違いなく魔石ですね。それも見たことがないほど純度が高い。このレベルのものは一般には出回らないはずなんだが……」


 入手経路を聞いても宜しいですか? と問いかけられる。


「もらった」

「……稀少な魔石をですか?」

「うん、もらった。これいじょうきくなら、うらない」


 金の髪に、紫の瞳。

 見たこともないほど美しいその幼女は、値踏みするように店主を見据え、一歩も引く気配がない。


 むむむ、とまた店主が唸り、また何事かを店番の男に耳打ちする。

 予想もしなかった流れに、アリエッタが不安げに目を瞬かせた。


 だがレティシアはその手を握り、大丈夫だと教えてあげる。


「少々額が大きくなりますので、あちらの商談スペースにお越しください」


 カウンター横の商談スペースに連れていかれる。

 奥から、店番が年季の入った箱を持ってきた。


 数分で作った、急ごしらえの防護布は、高価な革張りのトレーに恭しく乗せられた。

 なお魔石はヴェリアルの魔力を練った、聖獣仕様だ。


 ――小さめの魔石が三個と、防護布。

 店主が箱から取り出した手のひらサイズの袋が、どさりと商談テーブルに乗せられる。


「まずは防護布を使用した、外袋についてです。金貨十枚でどうでしょう」

「きっ、金貨十枚!? こんな袋が!?」


 驚きすぎてお尻で椅子を弾き飛ばしたアリエッタが、目を剝いて叫んでいる。


 庶民であれば、家族三人、金貨一枚で半年は余裕を持って暮らしていける。

 それをこんな小さなボロッちい布袋に、金貨十枚!?


 あわあわと震え出したアリエッタは見なかったことにして、店主は商談を続けた。


「魔石は三つ。まず一番小さいこちらは、金貨五十枚」

「はぁぁあッ!? ご、ごじゅ」


 実は貧乏男爵家の次女であるアリエッタ。

 清貧をモットーに掲げており、貴族令嬢でありながら汚れ仕事も厭わないガッツを評価され、末は侍女長ではと噂されることもある……節約術に長けた、シゴデキ侍女なのである。


「つぎは?」

「そうですね、こちらの魔石が、金貨六十枚」

「ひぇ、ろくじゅ……ッ!?」


 アリエッタ、ちょっとうるさい……。

 先ほどまで行儀よく座っていた侍女の椅子は、今や横になって転がっている。


「さいごは?」

「最後の魔石は、長年商人をやっているわたしも、お目にかかったことがない程の逸品です。ぜひ引き取りたいところなのですが、金額を考えると……」


 他の二つに比べ、一回り大きな魔石。

 値付に困っているのか、ぐぎぎ、とまた悩ましげに眉を寄せている。


 またとない交渉のチャンス。幼女レティシアはニタリと口元を歪めた。


「ぶつぶつこうかん、する。おうきゅうのぶとうかいに、いきたいの」

「王宮の舞踏会ですか?」

「そう。ひつようなのは、おとなようのどれすと、ほうせき」


 大人レティシアが着るドレスと、舞踏会で身に着ける宝飾品が必要だ。


「あとばしゃ。きぞくの、かっこいいばしゃ」

「馬車ですか。たいしたことはありませんが、伯爵家なので、わたしも王宮舞踏会には参加する予定です」

「ほう、はくしゃくけ」

「そちらのお姉様が参加されるのでしょうか? お嫌でなければ、当家の馬車を出しますが」

「そうして」


 これで馬車もゲットだ。

 貴族、それも商会を運営するような金持ちの馬車であれば、苦も無く王宮に入り込める。


「ですがこの魔石と物々交換だと、まったく金額が釣り合いませんが……」

「うん、そう。もっとほしい」


 ……ひとばらいを。


 先ほどまでの幼児語が、突然消える。

 身を乗り出し、レティシアが小声で囁いた。

 ただの幼女ではないと店主はすでに理解している。


 すぐさま店主が目で合図し、彼以外の従業員達は音もなく退席する。

 店にはアリエッタとレティシア、店主のみが残された。

 なおレティシアの護衛騎士は他の客が入ってこないよう、店の外に立っている。


「きぞくれいじょうのみぶんを、いちや、かいうけたい」


 アリエッタの実家は貧乏男爵家だから、親に頼んでも参加できないかもしれないと言っていた。

 舞踏会に参加するための、貴族令嬢の身分。一夜だけでいい。買い受けたいのだ。


「……一夜限りであれば、身分を貸しても構わない貧しい令嬢はいるはずです。秘密を護れそうな者から、買い受けましょう。ですが何か問題が起きた時のため、保証金は頂きます」


 どこぞの馬の骨とも分からぬ者に、一夜身分を売るのだ。当然の話である。

 最悪爵位をはく奪されることにもなりかねず、店主が警戒するのも仕方ない。


「それなりに高額です。果たしてお嬢ちゃんがたに支払えるかどうか……」

「なら、これ」


 レティシアは、片手をテーブルの上にかざした。


「――ひみつをまもること」

「ッ!?」


 コトン、と手のひらから、小さな魔石が落ちる。

 先ほどの、五十枚の値が付いたものと同程度の魔石が、ころりと店主の目の前に転がった。


「――よけいなことは、きかないこと」


 コトン、コトン、コトン……レティシアの手のひらから、魔石が続けざまに落ちていく。


「このくにで、いまいちばんませきがほしいのは、おうさま」

「国王陛下が? ですが宝物庫に魔石の備蓄があったはずでは……」

「ぜんぶつかった。だからこまってる。もしませきのばしょをきかれたら、まほうこくからながれてきたものだといえばいい」


 ゴトリと音を立てて最後に転がった大きな魔石は、大きさも純度もこれまでの比ではなかった。


「――ッ!?」

「いまなら、さっきのにばいでもかう」


 いや、三倍でもいい。

 その価値は如何ほどか……店主の反応を見るに、即金で支払えるような類のものではないだろう。


 もし収益が多すぎる場合は、孤児院に寄付すればいい。

 この程度、いつだって作れるのだから。


「……大儲けですな。ご令嬢、わたしの名はマクガインと申します。今後もどうかご贔屓に願いますよ」

「いいだろう。まくがいん、こうしょうせいりつだ」


 資金調達は、あっという間に終わった。

 必要なものもまた、一日も経たずにすべてが揃う。

 せっかくなのでレティシアのような幼児がいる夫人でも参加できるよう、国王からぼったく……もとい魔石の販売益で、マクガイン伯爵が臨時の遊戯スペースを提案してくれた。


 万が一、幼児に戻ってしまったら、こっそり混ざってお迎えを待とうと思う。


 なお、余った金貨は、アリエッタの実家に匿名で送ってもらった。

 これで弟が学校に行けます! と大層感謝されたらしい。


 全方位抜かりなし。

 あとは、舞踏会に臨むだけだ。





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― 新着の感想 ―
すごい.....w レティシア、本当に最強だなぁ、と感心しながら読んでます笑
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