#60
古代魔法という授業を行う上で、時折耳にする言葉がある。
『虹の民』
彼等の存在を無くして、古代魔法の発展はあり得なかったとさえ言われている民族の総称である。一般的にそう呼称される彼等は砂漠でも、極寒の地でも確認されている。虹の民と区別される得意的なことの中に古代魔法の魔法陣の視認というものがある。
「…凄い」
古代魔法というのは、その魔法陣が特殊な網膜を通さねば見えないという理由から防護魔法として障壁魔法の開発が急がれた経緯がある。無論、これも古代魔法なのだが…原理として魔法を魔力で相殺しているに近かった。
「何?」
「え、何かあった?」
すると周りの生徒達は前で立ち膝をするレオポルトを前に口々に反応を見せ、経験したことのあるアニは直感的にそれが古代魔法を認知できた人とそうでない人の差であると感じた。
「いや、ほら…今なんか光ったぞ?」
「え?嘘〜」
生徒達はそこで何をしたのかと思っていたが、誰かが言った。
「何か変わった?」
「バフでもかけたんじゃね?」
古代魔法を展開した後の違和感のなさに首を傾げると、カールが言う。
「えー、今の瞬間に光を見たと言う生徒は授業後に残ってください。後々面倒なので、嘘をついたら減点しまーす」
最初にそれだけを伝えると、彼は片手にペンを持つ。
「よっ…」
「「「っ!?」」」
そしてペンを弾くと、全員が驚愕した。
「浮いてる…!?」
「すげぇ…」
すぐにそれが無重力の魔法であると認知し、現代魔法と違ってそれほぼ兆候を感じられずにいる古代魔法の恐ろしさを感じる。
「うわぁっ!?」
すると別所で声が聞こえ、全員がその方を向くとそこで一人の生徒が宙に浮かんでしまっていた。
「え?嘘…」
「ちょ、ちょっと!!」
するとそれを皮切りに大講義室中で生徒達は部屋全体が無重力になったのを認知する。
「すげぇ…」
「部屋全体に魔法をかけられるのか?」
「きゃっ!」
すると女性生徒達も先ほどカールが注意した理由を察して慌てて制服のスカートを抑える。
「不味い不味い不味い…!!」
隣でヴァージニアも動くが、部屋全体が無重力となっているので、動く反動で体が自然と浮き上がってしまう。
「大丈夫か?」
それを見て慣れた様子でジャクソンが腕を伸ばすと、ヴァージニアはその手を引き寄せてたが…。
「うわっ!馬鹿!」
「何でよぉぉおお!!」
その手繰り寄せた手でジャクソンも中に浮いてしまい、思わずヴァージニアが叫んだ。
「ここ無重力ですよ?力が相殺されて浮いちゃいますって」
アニはそう言い、両手をしっかりと椅子と固定して浮き上がったジャクソン達を見上げる。
「あー、諸君」
そして大混乱となった大講義室でカールはマイクを取って言う。
「古代魔法は現代魔法と同様、魔力によって動く魔法。と言うのは今見せた通りだ」
そこでカールは目配せを行うと、隣で古代魔法を展開していたレオポルトは小さく頷いてから魔法を段階的に切り始める。
「ふぅぅ…」
カール曰く『最も優れた古代魔法使い』と言わしめた少年は魔力を切って、無重力が切れて叩きつけられるのを避けるために魔力の出力を調整していく。
「おぉ…」
そして古代魔法で部屋全体に掛けていた重力を相殺する魔法を切ると、徐々に宙に浮き上がってしまった生徒たちは床に引かれるように落ちていった。
「…っ!ばはぁあっ…!!」
そして慎重に魔法を解除した彼は詰まっていた息をすべて吐き出すと、そのまま仰向けに倒れた。
「すげぇ…」
「古代魔法ってこんなこと出来るんだ…」
そして元に戻った大講義室で生徒たちはやや興奮した様子で今の魔法の話をしていた。
「今のは机も教授のペンにも作用していた。空間そのものに作用していたぞ?」
生徒たちはそれぞれ今の無重力の魔法を前にそれがどういう仕組みをしていたのかと推測を始める。すると床に落ちたペンを拾いながらカールは話す。
「古代魔法は今の通り、この羊皮紙に記された魔法に準えて発動された。嘗て、旧大陸の方で行われた二〇〇年戦争において発展をしたとされる彼らの技術はその後の革命と騒乱により多くが失伝した」
カールはそこで古代魔法の前提となる常識を生徒達に話す。
「とまぁ、ここら辺は散々一年生の時に叩き込まれた筈だ」
と、これから話そうとしたことを全て省略してから大講義室を一望する。
「ではそうだな…」
そして軽く眺めた後、彼は最前列で座っていたある生徒に近寄る。
「君」
「はい、何でしょうか?」
そこで彼が指名したのは学年学年主席だった。
「古代魔法とはなんだと思う?」
「はっ、そうですね…」
彼はそこでカールから問われてすぐに答えを導く。
「旧世界歴に生み出された強力な魔法であり、最も魔力伝達に優れた魔法であるためです」
「うむ、そうだな。見事だ」
カールはお手本のように答えてくれた彼に満足げな表情を見せると、次々と聞く。
「ではなぜ、古代魔法は強力であると証明されたか?」
「中東騒乱の際、連合公国の使用した古代魔法による砲撃の回数が我が国の使用した魔導砲撃より少なかったからです」
「そうだな。では古代魔法が強力である源とは?」
「それは教授が提唱された『乾河論』に基づく、目に見えぬ魔力の大流を使用してるからです」
説明を聞き、カールはやれやれと言った様子で頭を軽く掻いた後に言う。
「満点だ」
「ありがとうございます」
カールに言われ、周りで拍手が送られるとカールは最後に一言だけ告げる。
「君の回答は満点だ。だが、次からはもう少し自論を言ってくれると嬉しいよ」
「…」
カールはそれだけを言うと、教壇に戻る。
「キュ〜…」
そして、そこで仰向けに倒れて気絶しているレオポルトを見た。
「いつまで寝ている。阿呆」
「ウギャ」
カールは魔力切れで倒れていたレオポルトに容赦なく胸ぐらを掴んで往復ビンタを喰らわして叩き起こす。そして魔力切れでぶっ倒れた息子相手にいつもの如くビンタで叩き起こしたカールに生徒達がドン引き見ていた。
「んがっ」
ビンタをされて叩き起こされた彼はそこで眼前の父親の顔を見た。
「お、親父…」
「終わったらとっとと席に帰れ。馬鹿者」
「やめてくれよ、俺もう魔力切れだっての…ヴッ!?」
すると忽ちレオポルトの顔は青くなって、その後に慌てて大講義室を走って出ていった。
「とまぁ、古代魔法はこんな感じだ。訓練を積んでも魔法が大規模になれば等倍ではなく二乗倍で持っていかれることを忘れないように。あと、最後にもう一度連絡。さっきの魔法光を見た生徒はこのあと残るように」
カールはそう言って締めくくると、授業を終えた。
「レオ、大丈夫なの?」
「よ、容赦がねぇ…」
「…」
その一連の流れを見ていたアニ達は、魔力切れでトイレに走った友人を哀れに思いながら、息子であっても魔力切れでもお構いなしだったカールにドン引きしていた。
「俺、なんでレオが強いのか分かった気がする」
「あんなお父さんに育てられたらねぇ…」
ジャクソンとヴァージニアはレオポルトに憐れみの黙祷を捧げながら遠い目を浮かべる。
「じゃあ、私は行かないと」
そこで他の生徒達が立ち上がる中でアニは言うと、ヴァージニアは首を傾げた。
「ん?何処に?」
「ほら、さっき先生が言っていたでしょ?」
「ああ、あれか…」
ジャクソンは今カールが言っていた事を思い出すと、アニに聞いた。
「あれ見えたんだ」
「うん、だからちょっと行ってくる」
そう言い、彼女は既に集合を始めている教壇の方に向かった。
「よし、これで全員か?」
そしてアニが来ると、カールはそこで集まった生徒を見る。
やはり成績で釣り上げたおかげか、正直に答えてくれる生徒ばかりであった。大体、三、四〇人と言ったところだろう。
「ふむ…」
カールはそこで見回すと、集まった生徒の中にロバートがいる事を確認した。
「(主席も同席か。なるほど…)」
そこでカールは集まった生徒達に言う。
「よし、君達にはこれから俺の特別講義を受けてもらう」
「あの、ウリヤノフ先生」
そこで一人の生徒が手を挙げた。
「何かな?」
「その…魔法光が見えた生徒とのことですが、なぜでしょうか?」
「ふむ…」
カールはそこでその質問の答えを端的に答える。
「ざっくりと言うと、『君達の目は特殊な目をしている』と答えておこう」
「…分かりました」
「君たちの役目は『安全装置』だ。これから古代魔法の実習を行う上でグループの監視をすることだ」
彼はそう言うと集まった生徒達にグループメッセージに入るように言うと、放課後の特別講義をへの参加を強制された。
「ゔえぇ…」
トイレから顔を出したレオポルトは死んだ顔で廊下を歩いていた。
先ほどの講義で魔力を持っていかれた彼は、魔力切れで教室を抜け出して口からキラキラを作り出していた。
「レオ?」
「…あぁ、ジャックか」
トイレの出口で待っていたジャクソンを見上げるが、今はそれどころではなかった。
「悪い、今話しかけんでくれ…」
「いや、まぁ…お前今日帰ったら?」
「いや、まずいだろ…」
下手しなくとも次の授業の講師がびびってしまうほどに顔色が悪いレオポルト。
「帰れよ。多分その顔なら文句も出ないだろ」
「いや、残る。…あとで非常勤講師室に邪魔しないといけねぇんだ」
彼はそこで魔力補給剤を飲み込むと、借りていた肩を返すと大きく息を吸う。
「はあ、今頃は親父が特別講義中だろうな」
「ああ、アニが残っている筈だぞ。あれは何だ?」
ジャクソンが聞くと、レオポルトは彼がが残された訳を話す。
「『虹の民』って言う、特別な目を持った人間さ。古代魔法を視認できる特別な目を持つ民族の事を指すんだよ」
「へぇ、どんな風に見えるんだ?」
「魔法がパッてフラッシュライトみたいに見える。ドーラも持ってる」
「へぇ…あれ?レオは?」
「残念ながら。俺は視認できない」
前世では虹の民として古代魔法を視認できた身だったが、今世では虹の民の血族でありながら顕現することは無かった。おかげで隣にドーラがカールが居ないと安全に古代魔法を発動することができなかった。
「はぁ、やれやれ。面倒な肉体だことだよ」
レオポルトはそう言うとトボトボと疲れた背中を見せて歩いていった。




