#56
秋というのは、合州国にとっては入学の時期を示す。
入学後、最初に行われる行事はハロウィンパーティである。
去年は散々な目にあったが、今年こそはしっかりとしたパーティにしてもらいたい物だと心底願う。
「今日入学式なんだろう?」
早朝、学生寮でレオポルトはベンチに座ってジャクソンと話していた。
「ああ、そうだな」
二人は朝から軽く走っていたのだが、早々にレオポルトが体力不足でダウンしたおかげでジャクソンは呆れた目を向けながらその後二周ほどした後に動けないレオポルトの隣に座った。
「行かなくていいのか?」
「今日春休み最終日だぞ?」
レオポルトはそこで少し体を起こして答える。
基本的に入学式の日までが魔学院や学園都市における春休みである。この短い期間を超えると、自分たちは晴れて二年生となる。
「これから始まる二年生に希望を抱きたいの」
「そうだなぁ…」
レオポルトの意見にジャクソンも頷く。
基本的に魔学院において、カリキュラムは一年生のうちにガンガン詰め込み、二年生からはひたすらに実習と技能研修などが主な学業となる。
魔学院で取れる免許は、基本的に合州国国内であればほぼ全ての技工士免許を取得可能となる。
「これからどうする?」
「俺は研究」
ジャクソンの問いかけにレオポルトは即答する。
「歴史研究じゃねえんだな」
彼の即答に彼の父親のことを知ったジャクソンは少々意外な表情をする。
「確かに色々と親父には、子供の頃から遺跡発掘とか色々な場所に連れてってもらったさ」
そこでレオポルトは、子供の頃。
ちょうど記憶が戻る以前か、戻った後のちょうどそんな頃。
自分とドーラは旧大陸のとある古戦場跡や遺跡に足を運んでいた。
会社員の傍ら古代魔法の研究者をしていた父カールは、古代魔法の研究者として国際的な発掘チームに所属もしており、その際にその発掘チームにお世話になったことがあった。
その時発掘チームが作業を行っていたのは二〇〇年戦争時の野営地跡。戦争時期でいえば中期頃の遺跡であり、レオポルトたちの前世よりも昔の時代の遺跡だった。
その時に遺跡のあちこちを見ながら探索をしていたレオポルトとドーラだったが、近くの森の地面で古代魔法発動時に使うアミュレットを見つけた時、それが博物館級の代物だった事にチームが発狂気味になっていたのを思い出した。
「だから、俺は研究者になりたい」
「反骨精神か?」
ジャクソンは聞くと、レオポルトは首を横にふる。
「いや?目標は技術の融合さ」
「融合?」
予想外の返答に首を傾げると、レオポルトは言う。
「ああ、これ以上は言えないが。俺のやりたい研究だ」
「なるほどなぁ…」
ジャクソンはそこでレオポルトの返答に少し考える。
「俺も悩んでるんだよな…」
「まだ決めていないのか?」
「一応、大学に進学したいんだがな…」
自分の将来について考えている彼だが、そこでレオポルトは提案する。
「どうだ?俺と研究でもしないか?」
「え?」
ジャクソンはそこで思わずレオポルトの方を見る。
「さっきの話、手伝ってくれるなら話せるぜ?」
「…いいのか?」
レオポルトはジャクソンに聞いてしまう。
彼の言った研究というのは、彼の得意な古代魔法に関する研究であることは間違いない。そして最近話題の研究は古代魔法である。
いわゆる流行の研究と呼ばれるものであり、学術誌にも多くの古代魔法に何する論文が記載されていた。
「ああ、まあこっちもまだ本格的に着手はしていないから人手が欲しいんだ」
「…」
レオポルトの古代魔法に関する知見が深いことはこの一年の付き合いで十分理解していた。
「他には誰を呼ぶつもりだ?」
「いつものメンバーにドーラ、あと信用できそうな学生」
チームを編成するつもりのレオポルト、そして話的に彼が行おうとしているのは現代魔法と古代魔法を融合させた技術。
理論上はできなくもないが、学術してそう言った論文は読んだことがない。つまり未だ誰もやったことがないということ。
運動が得意で、ハンマー投げの学内記録も持っているジャクソンだが、本質的には魔学院の生徒らしく研究者志望。未知の分野を開拓しようとするレオポルトの魅力に思わず喉を鳴らす。
「いいぜ」
「すまねえな」
「なぁに、俺とお前の仲だろう?」
ジャクソンはレオポルトにそう笑みを浮かべると、軽く彼の肩を叩いてベンチから立った。
「じゃあ、他の連中にもメールを送っておきますかね」
「そのためにゃあ、まずお前のいう研究を皆の前で発表しろよ?」
「わかってるって」
レオポルトも少しジャクソンに微笑むと、そのまま二人は学生寮の方に戻って行った。
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数日後、入学式も無事に終え、魔学院のサイエンスセンタービルの前の煉瓦で敷き詰められた道にて二年生となったレオポルト達四人は待っていた。
「お兄〜!」
「よう、こっちだ!」
レオポルトはドーラの声をしっかりと聞き取ると、手を挙げて呼び寄せる。
入学式を終え、最初の授業を終えた彼女は学生証の登録を済ませた後に昼を食べようということでこちらに来ていた。
「うわ、あれがお前の妹の武器かよ」
「でっけえだろ?」
そしてジャクソンが思わず苦笑する。理由は、彼女の背中に背負われたデカくて目につく武器があったからだ。
ドーラの持っている武器に使う弾薬は何たって擲弾発射機にも使われる40mm擲弾。しかも十五発のドラム式弾倉を備えており、狙撃も可能な代物。
品質に若干の不安が残る大朝帝国製であること以外は意外と理にかなって武器でもある。
なおバックアップにリボルバー散弾銃を下ろしている時点でだいぶゴリラであるが…。
「よく走れるな」
「そりゃアイツ、エルフの皮を被ったゴリラだからな」
直後、レオポルトに殺気の混ざった視線が向けられ、背筋が凍った。
「何か?お兄」
「い、イイエナンデモ…」
おのれ、地獄のエルフ耳を持ち寄ってからに!
そんなレオポルトの思いとは裏腹に、ドーラは背中に重量武器を背負ったまま余裕げにアニ達と話していた。
「力持ちね〜、今度腕相撲でもしてみる?」
「いやいや、流石に私でもドラゴンには敵いませんよ〜」
ドーラは軽くヴァージニアに言うと、そこでレオポルトが首を傾げた。
「ドーラ」
「ん?」
話しかけられ、彼の目線がドーラの隣にいたフードを目深く被った女学生に行っており、そこで察したドーラはハッとなって紹介をした。
「紹介するわ。この子、アシュリア・メイウェス。私のクラスメイト」
「ど、どうも…初めまして。ドーラさんのお兄さん、それに…」
アリュシアはそこでジャクソンを見て、察して名前を教えた。
「ジャクソン。ジャクソン・クライスラー」
「初めまして、ジャクソン先輩」
少々お淑やかな雰囲気を声から出す彼女にレオポルト達も微笑んで挨拶をする。
「初めましてアシュリアさん」
「あっ、初めまして…」
そこでアシュリアはレオポルトを見て聞いた。
「あ、あの、駅でドーラさんに蹴られてた人ですよね?」
「え?」
途端、レオポルトは記憶を巻き戻す。
あの状況で自分が蹴られたのを見ていた人は多かったのだが、幸いにも目の前のアシュリアのことはすぐに思い出した。
「あぁ、あの駅でドーラに荷物を押し付けられた」
「あっ、そうです」
アシュリアは自分がどこにいたのかすぐに思い出したレオポルトにやや驚きながらも小さく頷く。
「悪かったね。俺の妹が」
「い、いえ…そんな事は」
彼女はお陰でドーラとの接点ができたと言って少し嬉しがっていた。
「あの、私…この種族ですから」
彼女はそう言い、被っていたフードを外すと、そこでレオポルト達は理解した。
「なるほど、メドゥーサ族か」
「はい…」
そこには頭に髪の毛の代わりに無数の蛇が生えており、見た目に強烈なインパクトを与えていた。
メドゥーサ族は旧大陸から訪れた旧帝国連邦領に住んでいる種族の一つである。
その強烈な見た目と、見た者を石のように硬直させてしまう邪視の魔法を使いこなす種族で、二〇〇年戦争中は怪物と呼ばれていた。
かの種族の血は死者を蘇られることも、殺すことも可能とされ、その多くは後方の医療班に配属され、連合王国軍の悩みの種とされてきた。
神の血を継ぐ血族の末裔とされているが、いわゆる少数種族に分類され、ヴァージニアのドラゴンの血筋よりもその数は少ない。
故にその禍々しい見た目から友人が少なかったのだろうと言うのは容易に想像できた。
いくら種族による差別や暴力などの禁止を憲法に記載していても、こういった少数民族・種族に対しての偏見や畏怖というものはどうしたってできてしまう。
種族一覧図鑑に載っており、インターネットも広がったことで多くの情報収集ができる時代になったからこそ、こういう話は減ってきてはいるが、まだまだ問題は根深かった。
「よろしくな。アリュシアさん」
「は、はい!」
しかしレオポルトはそう言った合州国や世界中に住まうすべての種族のことは前世の知識と合わせて知っている上に、怖がることもなかった。
アシュリアも初めこそ荷物を押し付けられたドーラに挨拶を済ませ、その後の彼女の距離感に戸惑いはしたものの、交流が広がったことに内心安堵していた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。レオポルト先輩」
「ははははっ、先輩だって」
「むず痒いよ全く」
先輩呼びされたことにドーラが軽く茶化すと、レオポルトはややため息を吐く。
「さて、今日のレクチャーは終わったな?」
「ええ、学生証も登録し終えたわよ」
ドーラは頷いて職員室前の登録機を思い出す。去年、レオポルト達も使ったそれは今年も問題なく稼働していた。
「よし、じゃあ食堂にでも行きますか」
「オッケ〜」
「行こうぜ行こうぜ〜」
そう言って彼らは食堂に移動し始める。
「今日の昼って何があったっけ?」
「唐揚げ定食にハンバーグ定食とかあったわね」
ヴァージニアは今日の食堂のメニューを思い出していると、その種類に思わずアシュリアは呟く。
「うわぁ、いっぱいあるんですね〜」
「そりゃあね、思っているより学食っで広いのよ〜?」
それになぜかヴァージニアは胸を張っており、それにレオポルトとジャクソンはジト目を向けていた。




