#52
新しい短機関銃を受け取って、そのまま帰る事となったレオポルトは、帰りはモノレールに乗って帰ることを選択していた。
流石に疲労が溜まっている今の状態で車の運転なんてしようものなら、確実にどこかで事故る。それをやって再び警察官のお世話になるくらいなら、と彼は疲れた足取りで地下四階のモノレール駅に向かう。
「あっ、レオ〜!」
すると、モノレールのホーム側の売店でヴァージニア達がレオポルトを見かけると、声をかけてきた。
「悪いな、待ったか?」
「いやぁ全然」
そこでレオポルトは合流をすると、そこで持っていた荷物にめざとく気づいたヴァージニアは聞いた。
「ん?どしたのその荷物?」
「ああ、風紀委員長から貰った。ほら、前使ってた奴が真っ二つになっちまっただろ?」
「え?武器もらったの。いいなぁ〜」
「羨ましいぜ」
ジャクソンは特に、自分の使っていた武器は銃身が曲がった影響で修理行きだったので、新品を貰ったレオポルトを羨んでいた。
「阿呆、こっちは真っ二つだよ」
そんなジャクソンにレオポルトは軽く言い返すと、四人はそのまま改札を通ってホームでモノレールを待つ。
「今日はみんな帰る?」
ヴァージニアが聞くと、三人な当たり前と言った表情を見せた。
「当たり前だろ」
「流石に疲れましたからね」
「俺…このまま気絶しそう」
特にレオポルトはこの中でも重症で、ベンチに座った途端にカクンと頭を落としかけた。
「だ、大丈夫?」
アニが聞くと、レオポルトは手を軽く横に振って答えた。
「こりゃダメそうだな」
「列車が来たら、教えてあげる」
「…すまん」
そこでレオポルトは座ったまま睡眠を開始した。しかし直後、
『間も無く、列車が参ります』
「ありゃ」
「おーい、列車だ」
「んあっ」
直ぐにアナウンスが入ってしまい、レオポルトは無慈悲にも直ぐに叩き起こされ、進入してきたモノレール車両を確認した。
「あっ、ラッキー」
「始発駅か」
そこで入ってきた列車は、ここが始発駅だっだ様子で、誰も中に乗っていなかった。
そこでドアが開いた瞬間に四人は乗り込むと、そこでレオポルト達は座席に座り込んでそのままレオポルトはすぐに熟睡モードに入った。
「あーあー」
「もう寝やがった…」
「ここ数日は、レオくん大忙しでしたからね」
見ていたアニ達は事情を察していたのでレオポルトの苦労を理解し、そのまま寝かせると、
「ヒュッ?!」
彼は隣に座るアニに倒れ込んできて、それに驚いた彼女は一瞬変な声が漏れてしまった。
「おう…」
「あらあら」
それを見ていたジャクソンとヴァージニアはレオポルトがそれでも目覚めないことに内心ニヤニヤし出す。
「そのまま寝かせとけよ」
「そうね、だいぶ疲れているみたいだし」
今日に協調性のある言い方で二人はアニ言うと、
「(ど、どうすればいいの…?!)」
その内心、アニは軽く錯乱しながら肩にのしかかってきたレオポルトに顔を赤くしていた。
その後、モノレールは学生寮の最寄駅に到着をすると、そこでレオポルトは起こされたが、そこでアニの肩に寄りかかって寝ていた事実を知り、一瞬パニックになったところをジャクソンとヴァージニアに茶化されたので、とりあえず二人に脳天チョップを喰らわした後に駅を降りた。
「…あー…その、なんだ…」
そして駅を降りた後、レオポルトはアニに話しかける。
さっきまで派手に彼女の肩を借りていたので、とてもとても気まずい雰囲気になってしまったのだ。
「すまん…」
「っ!あっ!そ、そんなことはありませんから!!大丈夫ですから!!」
そこで目をグルグルとさせてテンパっているアニは錯乱していた。
「あ、おいっ!」
「大丈夫ですからぁ〜!!」
そしてそのままピューッ!!という擬音と共にアニは逃げるように駅を出ていくと、それに軽くため息をついてレオポルトはそのまま駅を後にした。これから慌てて女子寮まで追いかけようものなら、確実に明日の学内日報に張り出されて処刑ものである。
自分に父親のような度胸は無いので、明日しっかり謝ろうと思いながら家に戻るバスを待った。
「(ど、どどどどうしよう…)」
そして女子寮までレンガの敷き詰められた歩道を歩くアニは混乱していた。
「こ、これじゃあ逃げてきたみたい…」
鞄を腕の中でしっかりと抱き込んで、少し俯いて歩く彼女は錯乱していた。
さっき、帰りの途中のモノレールで疲労困憊のレオポルトがいきなり肩に寄りかかってきたのだ。
そこで香った彼の香りは隣に座って時折話していた時よりも何倍も強く感じ、彼がいつもほんのりと香りをつけている金木犀の香水の香りの他にも彼本人の皮脂の香りもした。
寝息の静かな呼吸音も聞こえ、それに合わせるように血圧が上がっているのも感じていた。
「と、取り敢えず…謝ったほうがいいよね…うん、そうしよう」
アニは様々な事が脳裏を駆け巡りながら寮に戻って行った。
「(ね、寝れねぇ…!!)」
夜、レオポルトもベッドの中で困っていた。
シャワーを浴び、風呂に入って寝巻きに着替えて、後は寝るだけなのに、なぜか寝付けない。おかしい、時間的に牛乳の効果は切れているはずだし、何より夕方の頃は疲れでぐったりとしていたはずなのだ。あの時の疲れはどこに行きやがった!?
いくらモノレールで寝ていたとはいえ、とてもここ数日の疲れを癒すことはできないはずだ。
「くそっ、こうなったら…」
レオポルトは寝付けなくなった自分に我慢できなくなると、その手にベリザーナを取り出して魔法を唱える。
使ったのは安眠魔法だ。メラトニン分泌を促す魔法を自分にかけるという、やり過ぎると中毒化しやすい、バレたら説教を喰らう可能性のある魔法で強制的に眠りにつくことを選んだ。
「畜生、なんで穏やかに寝させてくれないんだよ…」
軽く毒吐きながら彼は直後に眠気が襲ってきて、それに安堵しながら意識を手放した。
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それから二週間。
諸々の後片付けが終わり、学校にも平穏が訪れて来ていた。
今日は日曜日、学生はみんな大好き休みの日である。
魔学院も本来であれば学校は休みだが、部活動による研究施設が多くあり、休日なんて知ったことかという様子で今日も元気に通学していた。
「人が多いわね」
「日曜だし、当たり前だろ」
市内を回るモノレールに乗り込むと、そこでヴァージニアの呟きにジャクソンが返す。
特にここは市内中心部。三つの主要学園に囲まれている繁華街では、今日も多くの人々が出歩いていた。
「でも今日は楽しみですね」
「そうだな」
レオポルトはアニに頷くと、そこでモノレールはホームに入って停車する。
場所は学園都市中央駅、都市最大の旅客ターミナル駅は流石で、モノレールの駅だけで八本のホームがある。
「レオ、今度頼んだよ?」
そして駅で待っていると、ヴァージニアが聞いて来たので頷く。
「分かってるよ。ジャック、品定めは頼んだぜ?」
「任せろよ。目利きには自信があるんだ」
「アニも、今度練習するぞ」
「はい!任せてください!」
二人にも確認を取ると、そこでレオポルトはヴァージニアとの約束を思い出していた。
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「じゃ、やるからちょっと出てって」
レオポルトの部屋に訪れたヴァージニア達、そこで彼女はレオポルトとジャクソンを部屋から追い出すと、変身魔法を解いていた。
変身魔法で人に化けていたヴァージニアに、一度竜の姿になれないのか?と聞いてみたら、寮がぶっ壊れると言われたので竜人の姿を希望した。
「なんで家主の俺が追い出されるんだ…」
「女だからだろ。変身魔法を解くんだから、素っ裸になるんじゃね?」
「いや、服を着た状態でも変身魔法ってできるはずなんだよな…」
「じゃあデリカシー?」
そんな事を話していると、部屋の扉が開いてアニが顔を覗かせた。
「あの…準備できました」
「おう」
「じゃあ行くか…」
ヤンキー座りをして待っていた二人は部屋に入ると、そこでアニが軽く注意をする。
「その…笑わないでとのことです」
「「?」」
変な注文に首を傾げると、リビングに仁王立ちしてヴァージニアが立っていた。
身体中の赤い鱗に額から伸びる一対の角、長い尻尾に鋭くて長い爪。歯は鋭く尖っていた。
「「…」」
そして着ているのは一枚の長布を巻いて腰紐でまとめた簡単な服。
「…うぐっ」
「ブフッ…あはははははっ!!」
「だっせぇww」
どこぞの古代人みたいな服を纏っているヴァージニアに堪えきれなくなったレオポルトとジャクソンの二人は吹き出してゲラった。
「っ!!笑うなって言ったでしょうが!!」
そこで彼女は爆笑する二人にブンと尻尾を振って二人の頬をぶっ叩いた。
「ぎゃふっ」
「うごっ」
竜の尻尾はとても硬かった。顎の骨砕けるかと思った…。
「ふんっ」
そして大変お怒りな表情のヴァージニア。文字通り炎のように赤い鱗状の肌に背中から両翼に飛行可能な翼があった。
「すげぇな…で、こいつは後から着たのか?」
「違う。元々これを着てても大丈夫なの」
そう言い着ている服に触れる。
「ほーぉ、ちょっと色々と触っても?」
「胸と尻触ったらはっ倒すからね?」
「んな事するかよ」
レオポルトはそう言って返すと、そこでヴァージニアの着ていた服に触れる。
「二つ足?四つ足?」
「二つ足よ」
「なるほど…」
竜に関しては昔、発掘現場に水竜の人がいて、色々と仲良くさせてもらった事があった。
ただその時は竜の姿しか見ておらず、四つ足の水竜だった。
竜の姿にも色々とあり、二つ足や四つ足、蛇のような見た目やトカゲのような見た目をした竜などが図鑑には記載されている。
「ふむ…魔法糸か、だから単布なんだな」
「え?どう言うこと?」
すると素材を一瞬で見抜いたレオポルトに聞いた。
「簡単な話だ。こいつは魔物の糸ってことさ、アラクネなどの蜘蛛系の魔物から採取される魔物の糸に、麻を織り交ぜて作った糸を素材としているんだろう」
「すげぇ…」
「よくわかりますね…」
ヴァージニアの着る服の素材に相変わらずの観察眼だと軽く尊敬する二人にレオポルトは続ける。
「まあ魔法糸だから、変身魔法に巻き込まれても布自体が魔力によって変質する。だから変身魔法を使っても行けるのだろう」
「へぇ〜、そりゃあ頑丈なんだろうな」
ジャクソンは軽くそ魔法糸と呼ばれる布に興味深そうに見ていた。
「はぁ〜、こんな昔の人みたいな服だから嫌になっちゃうのよね。あーあ、もっと今らしい服にできないのかしら?」
「できるぞ」
「「「え?」」」
どこかの宣伝番組のような返答に全員が同じ言葉を発した。
「え?できるの?」
「むしろできない理由がどこにあるんだ?魔法糸は材料と魔法の準備さえできたら作れるし、布の形を変えたところで効果なんて変わんねえよ」
彼はそう答えると直後、ヴァージニアは彼の両肩を掴んで懇願した。
「お願い!新しい服作って!!」
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「作るときに使う魔法は、一種の古代魔法だ。だから…」
「他言無用、と言うことですね?」
「そう言うことだ」
駅でヴァージニアのために作る魔法糸の予定を話していると、遠くからでもよく目立つヴィクトリアンメイドが見えてきた。
「あっ、来たみたい」
変身魔法で人の姿の彼女は手を振ると、バケツもそれに気づいて歩いてくる。
足元に小さな狐の獣人を連れて。
「やぁ、元気してた?」
「っ!姉ちゃん!」
エリカはそこでヴァージニア達を見て笑みを浮かべる。
その姿は小綺麗に整えられ、清潔になっていた。
「小父に会ったか?」
「はい!」
事件後、彼女はカムチャルの養子となり、エリカ・ノースロップとして合州国永住権の取得を行った。
これから彼女は、カムチャルの実家でバケツの世話を受けながら合州国の教育を受ける予定となっている。
「これからよろしくな」
「っ!はいっ!!」
エリカは頷くと、少し緊張した顔でレオポルト達を見ていた。




