#50
その後、警察署に問答無用で叩き込まれた俺達は、
「アホかテメェら!」
警察署のオフィスでカムチャルの小父に説教を食らった。
四人は警察署の仮眠室で魔力を使いすぎたり疲れていたのでぐったりと倒れていたところを深夜にも関わらず叩き起こされ、そこでこの説教である。
現役の刑事が仮眠室で説教をしており、それを見ている他の警察官達は見て見ぬふりをしてそそくさとその場を離れる。
「貴様らの連絡が取れなくなったらどうするんだ!?良いか!大体貴様らと言うガキンチョはなぁ…!!」
ずっと正座をされ、頭の中では魔力切れの頭痛が激しく両耳でシンバルを鳴らし続けており、今のレオポルト達はそれどころではなかった。
「二度とこんなことするんじゃないぞ!分かったな!!」
頭から湯気を出し、諸々叱り終えたカムチャルは最後にレオポルトに魔力補充剤の錠剤タイプを投げつけると、仮眠室を後にした。ありがたやありがたや。
「うぅ…」
「あ、足が…」
ひとしきりの説教を終え、レオポルトは激しい頭痛に悩まされ、他三人は疲労困憊で倒れかけだった。
「レオくん、大丈夫?」
「あ、あぁ…」
すまない、今話しかけられると辛いんだマジで。
レオポルトはそこで錠剤タイプの魔力補充剤を三錠、口の中で砕いて喉の奥に押し込む。
「うげぇ、ニッガ」
「俺も飲んでいいか?」
「わ、私も…」
そこでジャクソン達も魔力補充剤を三錠手に取って口に放り込む。
魔力切れの頭痛に悩まされるくらいなら、飲んでおいた方がマシだ。
体内の魔力量は休息を取ることで体力と同様に回復が可能だが、このように魔力からを早々に治す場合には魔石と感応石を砕いて製造された薬剤を使って魔力を補給する必要があった。
これを薬液に溶かすと所謂魔法薬と呼ばれ、前世では軍需物資として国が生産・販売の管理を行っていた。
「ってか、あの炎誰がやったんだ?」
「こいつ」
余計に叱られる羽目になった元凶をジャクソンが指差した。
「ちょ?!」
「何で竜の息吹を使えたんだ?」
そこでレオポルトが首を傾げると、それを見ていたジャクソンが言った。
「こいつ、変身魔法で人に化けてたの」
「え?!ジニーって、竜だったの?」
アニがそこで軽く驚いてヴァージニアを見ると、彼女は少し言いにくそうに答えた。
「まぁ…そう」
すると彼女は腕を捲って、そこで魔法を解除すると、人的な肌だったのが、一気に艶々と磨き上げられた鱗状の肌に変わっていく。
「火竜か…」
「そう、私の実家の家系」
炎のように肌は赤く、同時に口から灼熱の炎を撒き散らすドラゴン。一部は魔法を使って人型に姿を変えられると聞いていたが、まさかここまでの精度とは思わなかった。
「だから、家族に軍に出るのを反対されたのか」
「そう」
同時に、レオポルトは彼女の実家が軍に行くことを拒否した理由が理解できた。
かつて二百年戦争を行なっていた時代、連合王国・帝国連邦はドラゴンを狩猟対象とし、その体から採取される鱗や心臓、角や爪などは全て素材として武器や防具の材料などに使用されてきていた。血肉もまた人体を回復させ、力を与えるとされ、好んで食されていた。
所謂、鯨と同じように余す所が無く、全て素材として使う事が可能な完璧とも言える生物であった。
「その時は私も無知でね。実家の山を降りた事がなかった箱入り娘だったの」
ドラゴンは戦争の最中、次第に数を減らしていき、いつしかその姿は大陸で一切見かける事がなくなり、後に数を減らしたドラゴンは全員が新大陸に逃げていたことが発覚していた。
二百年戦争で大きく数を減らしたドラゴンであったが、戦争後はその数を大きく増やしていた。
「軍にドラゴンなんて来たら、死ぬほど使い回されるだろうよ」
「実際、少し前に軍に入った知り合いが苦労しているってさ」
ヴァージニアはそこで変身魔法をかけると、鱗が消えて人肌に戻る。
そして数を減らしたドラゴンは、その巨体と速度を生かし、物資輸送が得意であった。
合州国においてドラゴンの狩猟は憲法で禁止され、かつてドラゴンを討伐したと叫んだ王国思想集団が集団殺人として起訴、死刑判決を受けた例もあり、人権が認められていた。
「まあ、ドラゴンなんで需要がありまくりですからね」
なにせサッカーコート程度の空き地があれば、小型輸送機並の物資を運ぶ事ができるのだ。おまけにワイバーンなどと違い、言葉を理解して話す事ができるので誘導もしやすい。変身魔法のおかげで人型にもなれるので、そういう輸送の面では引く手数多である。
そしてドラゴンというのは、古代魔法の分類である火・水・土・光・闇などの系統別分類の元となった生物でもあった。
「ってか、お前のせいで俺たち叱られたんだけど?」
「仕方ないじゃない。一々チクチクやられてたら面倒臭いじゃないの」
「加減を考えろやど阿呆」
レオポルトの意見に大きにジャクソンも賛同する。
「そうだそうだ。俺たちまで丸焼きにしかけやがって」
「じゃあ何、あのままチマチマやられて、こっちがやられてもよかったっていうの?!」
疲れていた三人はあっという間に暴言が罵り合いとなって喧嘩が始まろうとした。
「五月蝿えぞ馬鹿ガキ共!黙って寝ることもできんのか!?」
直後、バンッ!と言う音を立ててカムチャルが怒鳴り込んできたので四人は黙りこくる。
何せ港湾地区で大火災をしでかしたので、それなりに倉庫にあった荷物の損害が出てしまったらしく、そこで始末書を書かされる必要があるので殺気立っているのだ。
その空気に気圧され、喧嘩をしかけていた三人は逆に冷静になると、そのまま静かに、しかし恐ろしい圧をかけながら消えていったカムチャルを前に冷静にならざるを得なかった。
とりあえず、説教の前に色々と報告を聞いており、エリカの身柄も確保して病院に搬送された事実も聞いていた。
「と、とりあえず寝ましょう」
「だな」
「もー動けねぇー」
「わ、私もです…」
色々と抱えた諸問題・疑問を全て放り投げ、まずは疲労を癒すために四人はベッドと床で睡眠に入った。
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「そうですか…失敗しましたか」
その報告を聞き、ある男は呟く。
内容は新大陸に逃げたとある孤児の確保であった。
『申し訳ありません』
「いえいえ、良くぞ無事に生きててくれました。彼女は用済みで、解放しても問題は無いです」
電話の向こうで話すのは、あの倉庫から逃げ延びた襲撃者だった。
衛星通信を介した電話を聞き、そのローブを被る人物は言うと、襲撃者は続けて言う。
『プロムナード様、此度の襲撃を行なった魔学院生の一人に、『外廻衆』の名を呟いた者がおりました』
「…続けなさい」
その人物は少し表情を鋭くしてから促すと、そこで襲撃者は事の詳細を伝えた。
エリカと呼ばれる孤児を救いに来たであろう魔学院の生徒は、帝国流の古代魔法を使用していたと言う。
『如何なさいましょう?』
「…」
襲撃者はプロムナードと呼ばれた人物に問うと、本人は少し間を開けてから襲撃者に返す。
「取り敢えずそのままで構いません。それより、我々の中に裏切り者がいる可能性を考慮しなさい」
『はっ、すぐに調査いたします』
そこで通話を切ると、そこでプロムナードは電話を机に置くと、考える仕草をする。
「…」
そして長考した後、椅子に深く座り直して呟く。
「…もしその場合、勇者の力が失われた理由が分かるかも知れませんね」
そこでローブの奥で閉じていた目が開くと、黄金色に輝く瞳が姿を現した。
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「おっは〜」
翌日、昼の時間帯に警察署の前で陽気な声で挨拶をぶちかましてきたのはネルとヘンリーだった。うん、太陽に負けないくらい明るいから目が焼けそうになるナリ。
「悪いな。車頼んで」
「いいよいいよ。ヘンリーとドライブできたし」
朝に疲労困憊だったレオポルト達は、その後の事情聴取に時間が取られるため、その間にネル達に頼んで旅客船センターに停めていた車を取りに行ってもらっていたのだ。配車料金は今度、回転寿司で奢りである。…貯金しとこ。
「今回は、僕たちの出番はなかったみたいだね」
やや苦笑気味にヘンリーが言うと、レオポルトも軽く頷いて彼の肩を叩く。
「いいじゃねえかよ。こっちは小父に小一時間の説教だぞ?」
「うわぁ、そりゃあキッツイよ」
前にそれを食らった事のある経験者は顔を引き攣らせて言うと、
「あの…この方達は?」
アニが首を傾げて聞くと、レオポルトは一瞬首を傾げたがすぐに納得した。
「ああ、こいつらはネルとヘンリー。俺の幼馴染だ」
「どうも」
「よろしく〜」
紹介されて二人は簡単な挨拶をすると、アニはネルのある部分に目が行っていた。うんまぁ、初めて見ると驚くよね。あんなダイナマイトボディ、歩くだけで軍の風紀が乱れるぞ。
ちなみにこの事を言うと、ヘンリーにぶっ叩かれるので気をつけよう。
「ど、どうも初めまして。アニ・シコルスキーと言います」
「どうも〜。可愛い子ね〜、よしよし」
色々な部分で体の大きいネルはアニの頭をヨシヨシと撫で、撫でられたアニは驚いて耳と尻尾をピンと立ててしまった。
「おい、また一人堕とす気か?」
「おっと、ごめんごめん」
通称、母性の手とも呼ばれる彼女の頭を撫でる行為は、今まで多くの者達を赤ん坊にしてきた。
呪いの類かとも思ってしまうが、断じてそうではない。だが、彼女にこれをやられると男女問わずに赤ん坊みたく甘えたくなってしまうのだ。
事実、やられたアニは満更でもなさそうな表情をしていた。
「それで、この後どうするの?」
ネルに聞かれ、レオポルトはそこで鍵を返してもらいながら答える。
「取り敢えず学校に帰るさ。昨日のボヤ騒ぎで風紀委員会に呼び出しだよ」
「うわぁ〜、頑張ってね〜」
「ああ、全く酷い有様だよ」
銃も真っ二つに切り落とされて破棄決定。ジャクソンも銃身が曲がった事で修理に出され、手痛い損害を被ったものだ。
「ちなみに学校は?」
「安心しろ。予定通りだ」
「地獄かな?」
ヘンリーが思わず口に出てしまうと、車に乗り込んだ四人はそのまま走り出してしまった。
それを見送ったネルは一言、
「やれやれ、友達使い荒い幼馴染じゃない?」
「全くだよ」
それには大いに同意すると、二人はネルが借りてきたM151に乗り込むと、エンジンをかけて走り出していった。




