第5話 平穏な日常
前回のあらすじ
イチャイチャした
ジェミニの街にやって来てから、一ヶ月が経過していた。
ウチで働く使用人も徐々に増えてきている。
新しく雇った人として、まずは庭師のガイアさんとデメテルさん。
ガイアさんは雑草の除去や植木などの手入れを、彼と共に雇ったデメテルさんは花壇に植えた花の手入れをしてくれている。
ちなみにデメテルさんはシングルマザーで、まだ幼い子供がいるらしい。
次が、ステンノ、エウリュアレ、メデューサの三姉妹だった。
彼女達はメイドとして働いていて、ステンノとエウリュアレは双子らしい。
三姉妹の仲はとても良く、それは普段の働いている様子からも窺える。
ケイローンさんが紹介してくれた人も使用人として働いていて、彼の奥さんのカリクローさんと娘のクロエはメイドとして働いている。
ちなみにケイローンさんには執事長を務めてもらって、使用人達を纏める役目を任せていた。
彼の知人のアスクレピオスさんは、ウチのコックとしてその腕を奮ってくれている。
何でも、元宮廷料理人だったとか。
だからか、作ってくれる料理はどれも美味しくて、ついつい食べ過ぎてしまう。
……適度に運動してるから太ってはいないとは思うけど、どうなんだろう……?
カストールにはいつまでも可愛いと思われたい、そんな乙女心。
……っていうのを執務室で書類仕事をしていたカストールに話したら、椅子に座ったまま突然わたしのお腹を服の上からさわさわと触ってきた。
「ちょっ、カストール!?」
「太ってるようには思えないけど?」
「だからそう言ってるじゃん、ばかっ!」
わたしは顔を真っ赤にしながら、カストールの頭を叩く。
そんなに強く叩いてないのに、カストールは痛がるフリをする。
「痛いなぁ……叩くことないじゃん」
「デリカシーってモノ無いの!?」
「あるよ。あるから事実を言っただけじゃん。それにポルクスが痩せてようが太ってようが、僕がポルクスのこと好きなのに変わりはないよ」
「……もう……」
そんなことを言われたら、怒るモノも怒れなくなっちゃう。
「仲が良いですね。善きことです」
すると突然……っていうほどでもないけど、ケイローンさんの声が響く。
ケイローンさんはずっと、カストールの仕事の補佐をしていた。
今は休憩として、紅茶を淹れてくれている。
そんな中で、わたしとカストールはいちゃついていたわけになる。
これは少し恥ずかしくて、わたし達はお互いに顔を赤くする。
「これは、その……」
「旦那様も奥方様もまだ新婚なのです。存分に甘々な新婚生活を享受しては如何ですか?」
「ケイローンさんもそんな時期があったんですか?」
「ええ、それはもう」
わたしの質問に、ケイローンさんが即答する。
見た目からは全然想像出来ない。
「それに子供が出来ると夫婦の時間などそんなに取れないですからね。今の内ですよ、二人きりの時間が過ごせるのは」
「「こ、子供……」」
ケイローンさんの言葉にわたし達は顔を見合わせ、さっきとは別の理由で顔を赤くする。
そういうことをしてないと言えば嘘になるし、貴族である以上跡取りとなる子供を作るのは最早義務に近い。
だけど、そういうのを抜きにして、カストールとの子供は欲しい。具体的には三人くらい。
好きな人との間に子供が欲しいというのは、貴族も平民も関係無く女の子としてごくごく普通の感情だ。
「あ、その……頑張ろうね、カストール!」
「ちょっ、ばかっ! そういうのは人前で言うことじゃないだろう!?」
テンパって子作り頑張ろう宣言をしてしまったわたしに対して、カストールが鋭いツッコミを入れてくる。
それをケイローンさんが見てるけど、その視線はからかうようなモノじゃなくて、微笑ましいモノでも見るような穏やかな眼差しだった。
「お二人共、その辺りで。紅茶を淹れましたので休憩でもしては如何ですか?」
「……そうします」
「……そうだね」
ちょっと変な空気になってるけど、紅茶でも飲めばたぶん元通りになるだろう。
カストールが部屋の隅にあった椅子を持ってきてくれて、お礼を言ってからそこに座る。
椅子は丁度、執務机を挟んでカストールと向かい合う形になっていた。
それからケイローンさんがわたし達の分の紅茶と、お茶請けとして焼いたらしいクッキーの乗った皿を机の上に置く。
カップに口を付け、紅茶を啜る。やっぱりケイローンさんが淹れる紅茶は美味しい。
良い茶葉を使ってもこんな味は簡単には出せないから、きっとケイローンさんの紅茶の淹れ方にコツがあるに違いない。
そんなことを思いつつ、クッキーにも手をつける。
サクッとした食感と仄かな甘味で、何枚でも食べられそうだった。
後紅茶との相性も抜群で、もしかしたら紅茶の味に合わせてクッキーの味も決めたのかもしれない。
「ん……今日も美味しいね」
「恐縮です」
「クッキーも美味しいです。何枚でも食べられそう」
「……確かに。でも食べ過ぎると夕飯が食べられなくなるよ?」
「うっ……確かに」
カストールの言うことももっともだから、わたしは食べるペースを落とす。
それからカストールと雑談をしながら紅茶を飲んで、休憩後は彼の邪魔をしない範囲で彼の仕事を見守りながらのんびりと過ごしていく。
……こんな日常がずっと続けば良いのになぁ……。
この時のわたしは、そう思っていた―――。
最後不穏なフラグが……。
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