第4話 夫婦の時間
前回のあらすじ
ジェミニの街に着いた
それから雇用条件などの話し合いをして、わたし達は屋敷へと戻ってきた。
それとケイローンさんの厚意で、彼の知り合いも使用人として雇うことも決めた。
夕食も済ませ、今日の汚れと汗も洗い流して、夫婦の部屋で寝る準備をする。
この部屋もまだ殺風景で、ベッドとクローゼット、それとわたしが使うドレッサーしかなかった。後で色々と買い足さないと。
ドレッサーの前で髪をブラッシングしながら、ベッドの上でくつろいでいるカストールと話す。
「良い人そうで良かったね、カストール」
「だね。ケイローンさんの経験から来る知識はきっと僕の助けになってくれるよ。領主に任命されたとはいえ、領主としての仕事はまだ右も左も分からないからね」
「そこはゆっくりと学んでいけばいいんじゃない? わたしだって、その……領主夫人としての振る舞い方とか学ばなきゃいけないし」
自分で言っておいてなんだけど、領主夫人って言うのは自分でもまだ慣れない。
いつかは慣れるんだろうけど……本当に慣れるのかなぁ?
そう思っていると、カストールはニヤニヤとした笑みをわたしに向けていることに気付いた。
「……何?」
「いや? 領主夫人っていう肩書きにまだ慣れてない様子のポルクスって可愛いなぁ……って思って」
「それ、からかってる?」
「うん」
「素直なのは良いことだと思うけど、そこは嘘でもからかってないって言うんじゃないの?」
「だって面白いし。それにポルクスが可愛いのは事実でしょ?」
「…………もう」
カストールはこっちが恥ずかしくなるようなことを平然と言ってくるから、心臓に悪い。嬉しいけど。
結婚してからこんな調子だから、たぶん長年の恋心が成就した反動でそんなことを言うのかもしれない。
わたしだってカストール以外に人がいない時は、これでもかと言うくらいに彼に甘えるし。
ブラッシングも終わり、ブラシをドレッサーの上に置いてベッドへと向かう。
そして横になってすぐにカストールに抱き着く。
カストールもわたしの身体に腕を回して、抱き締め返してくる。
実家にいた時は寝る時はいつも抱き枕を抱いて寝てたから、それがカストールに代わっただけだった。
それに好きな人の腕の中で眠るのは、至福以外の何物でもない。
「ふふっ」
「何笑ってるの?」
「ううん。こうやって好きな人と一緒にいられるのって幸せなことだなぁ……って思って」
そう言って、わたしはカストールにさらに抱き着く。
「僕もだよ。まさかポルクスと夫婦になれるなんて夢にも思ってなかったからね」
「わたしも」
わたしは顔を上げて、カストールと見つめ合う。
そしてどちらからともなく顔を近付け、唇を重ねる。
「んっ……こういうことをするのもカストールとは出来ないと思ってたし、今すごい幸せ。だからね、カストール? ずっと仲良く幸せな夫婦でいようね?」
「もちろんだよ、ポルクス」
わたし達は離していた唇をもう一度重ね合わせ、今度は情熱的なキスをする。
もっとカストールと触れ合いたい、もっとカストールの体温を肌で感じたい。
そういうスイッチが入っちゃったのか、ここからカストールと濃密な夫婦の時間を過ごすことになった。
そのせい(?)で実際に眠りに就いたのは夜もだいぶ更けてからだし、次の日は寝不足で昼間はすごく眠かった―――。
◇◇◇◇◇
ドシュッと、狼型の魔物の眉間を一本の矢が貫く。
かなり深く突き刺さったようで、魔物はその一撃で絶命した。
「ふぅ……」
その矢を放った張本人は軽く息を吐き、身体の力を抜く。
しかし周囲への警戒を怠らなかった。
その人物は細身の少女で、月明かりのように淡く輝く弓を携え、背中には矢筒を背負っている。
そして彼女の身体には、他の人間と異なる特徴があった。
彼女の身体には――獣耳と尻尾が生えていた―――。
いちゃラブを書くのって意外と難しい……。
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