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なぜかソフィアもやって来た

 ソフィアもアマートも表情が硬い。


 ははん。また口喧嘩でもしたんだな。


 室内にローズティーのいい香りが漂っている。


 クースコスキ伯爵夫妻自慢のバラの花びらで作った紅茶である。


 まるでアリサのようにやさしい香りがする。


 館長がクッキーの皿をローテーブルの上に置いてくれて、空になっているカップにローズティーを注いでまわった。


 その間に、ソフィアが挨拶をしてくれた。


 長椅子に座りきれない。アマートとディーノは立つしかない。


「ソフィア。正式な婚儀が終わったら、図書館で街の子どもたちや常連さんたちを招いて、パーティーというかちょっとした式をしようということになってね。もちろん、きみも来てくれるよね?」

「え、ええ。もちろんですわ、殿下」


 館長とソフィアが腰かけたタイミングで、ソフィアに子どもたちなど図書館の常連を招いて結婚式をするからぜひ来てほしいと誘った。


 すると、彼女は招きに応じてはくれた。が、どうも彼女の様子がおかしい。


「それで、わたしに用事なのかしら?」


 そのとき、アリサがソフィアに用事でもあるのかと尋ねた。が、ソフィアの返答は歯切れが悪い。


 そんな彼女を横目にしつつ、カップを持ち上げローズの香りを楽しんだ。


「ああ、いい香りだ」


 思わず、声に出してしまった。


「えっ?ええ、そうだとよかったんだけど……」


 ソフィアの態度は、ますますおかしく感じられる。



「じゃあ、だれに?まさか、本を借りにきたんじゃないわよね?」


 アリサも彼女の様子がおかしいと気がついている。本でも借りに来たのかと、冗談っぽく尋ねた。


 ソフィアは、本が嫌いというわけではない。だけど、好きでもない。つまり、図書館で借りてまで読むようなことはまずないだろう。


 案の定、ソフィアは「今日は読みきかせの会だから、王太子殿下がいらっしゃるかと」というようなことを言った。


 ということは、わたしに用事なのか?


 だとすれば、どんな用事なのだろうか。


「じゃあ、わたしに用事なのかな?」


 そう尋ねてみた。


 が、「ええ、殿下。そうだといいのですけど」と、やはり彼女は歯切れが悪い。


 その瞬間、彼女の視線がアマートへ向いたのを見逃さなかった。


 なるほど。ソフィアはアマートに用事だったのか。


 ソフィアはそうつぶやきつつ、アリサをはさんで向こう側に座っているサラに視線を向けた。


 プレスティ侯爵家とソフィアのティーカネン侯爵家は、家族ぐるみで仲がいい。現在の当主二人は、幼馴染であるから歴代の当主たちよりさらによい。ソフィア自身は、アマート以外のプレスティ侯爵家の人々に懐いている。ユベールを「おじ様」、サラを「おば様」と呼んで慕っている。しかも双子の五人の兄さんたちは、ソフィアをお姫様のように扱っている。それなのに、アマートだけは違う。双子の弟のディーノは彼女を兄さんたち同様お姫様扱いしているのに、アマートは彼女と顔をあわすごとにケンカをしていた。


 ガブリエルも彼女の幼馴染だが、そこまでケンカをしなかったらしい。


「ほんとうにいい香りだ」


 またしても口から出てしまった。

 ほんとうにいい香りだから、ついつい讃辞を送ってしまう。


 この素晴らしい香りの紅茶は、クースコスキ伯爵夫妻、それから伯爵家の執事のラファエル、そしてアリサが丹念に育てたバラの花びらを乾燥させて作ったローズティーである。


 たとえ万人が「ちょっと臭くないか?」というようなにおいでも、わたしにとってはいい香りなのだ。



 十二分に香りを楽しんでから、カップを傾けて紅茶を口に含んでみた。


 やさしい香りが口の中に広がってゆく。


「できちゃったんです」


 そのタイミングで、ソフィアが口を開いた。


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