衝撃の数々
「殿下、そんなクズに気をつかう必要はありません。そんなことより、はやく彼女に告白してください」
そのとき、すぐ側でソフィアが叫んだものだから驚いてしまった。
そのソフィアの叫び声で、王太子殿下の顔が真っ赤になった。
そう認識した瞬間、彼がわたしの肩を抱いて自分の方へ向き直らせた。
ガブリエルにされたことより、よほど衝撃的だわ。言葉や肉体的な暴力には慣れているけれど、こういうことには戸惑ってしまう。
「アリサ、きいてほしい。わたしは、きみのことがずっと好きだ。子どものときにはじめて出会ったあの日、わたしはきみに一目惚れしてしまった。それ以降、わたしはきみのことを想い続けている」
「王太子殿下?」
王太子殿下の言葉の意味はわかる。だけど、信じられない。
こんなわたしを?
何かの間違いだわ。からかわれているに違いない。
「その想いは、日に日に増してゆく。だが、王子という立場が、その想いをかなえることを出来なくさせてしまう。軽々しい行動が出来ないからだ。思いあまって、きみの親友であるソフィアに相談をした。彼女は応援してくれると言ってくれた。実際、彼女はきみにいろいろと働きかけてくれた。遊びに行こうとか、サロンに行こうとかね。偶然を装い、図書館以外できみとつき合えれば、とかんがえていた。が、きみは頑なに誘いにのってくれない。それが火傷の跡のことやきみ自身の性格だということは、いまは理解している。だが、わたしにしてみれば、きみがラムサ公爵子息を愛していて、彼以外には興味がないのだとしかかんがえられなかった。ソフィアは、ちがうと断言してくれていたけどね。だから、何かと理由をつけては図書館に通い、束の間でもきみとすごした」
王太子殿下の言葉は、耳に入ってくるけれども理解出来そうにない。
やはり信じられない。その気持ちが大きすぎて、彼の言葉を素直にうけとめられないのである。
「きみの顔をじっと見つめていたいと、図書館でいつも思っていたんだ。だけど、きみに気を遣わせるだけだと、わざと視線を合わせないようにした。アリサ、顔を隠す必要なんてないんだよ。きみは、美しい。だけど、きみはそれに気がついていない。もっと自分に自信を持つべきだ。いや、持っていいんだ。それと、今回のことはソフィアと計画したことでね。愚かきわまりないラムサ公爵子息を、ぎゃふんと言わせてやろうとしたわけだ。しかし、愚かすぎるこの男が、あんな暴挙に出るとは……。結果的に、きみを傷つけてしまうことになってしまった。ほんとうにすまない」
固まったままでいると、王太子殿下の指先がわたしの火傷の跡をなぞった。
「陛下」
「国王陛下」
そのとき、人々がざわめきはじめた。と思った瞬間には、人々の間に新たな道が出来た。
数名の近衛隊の隊員に先導されて現れたのは、国王陛下である。
国王陛下は、驚いているわたしたちの前で歩を止めた。
そして彼は、王太子殿下をじっと見つめたまま口を開いた。
「マルコ、わが息子ながらじつに不甲斐ない」
王太子殿下とわたしの横で、ソフィアが動いた。ドレスの裾を持ち上げようとしている。
そうだわ。驚いてばかりいられない。国王陛下に挨拶しなくては。
わたしもソフィアに倣おうとした。だけど、陛下にそれをおしとどめられてしまった。
「諸外国のやり手外交官にたいしては、まったく容赦がないのにな。それが一人の女性を口説くのに、どうしてウジウジくどくどと遠まわりをするのだ。『アリサ、きみを愛している。妻になってくれ』この一言ですむはずではないのか」
「父上……」
国王陛下は、王太子殿下を叱った。王太子殿下は、子どもみたいにシュンとしてしまった。
「殿下、陛下のおっしゃる通りです。さあ、殿下。回りくどいことは抜きにして、はやくはやく」
ソフィアが言うと、周囲の人々も「はやくはやく」と叫びはじめた。
すると、王太子殿下は美形をさっと上げ、わたしと視線を合わせた。
思わず、いつものように視線をそらし、顔をそむけそうになってしまった。
だけど、頭の中にいつか読んだ恋愛小説のワンシーンが思い浮かんだ。
「やってはいけない。しっかりしなさい。彼の言葉を待つのよ」
同時に、アドバイスというか注意というか、そんなものがどこからかきこえてきた。
そのときには、王太子殿下が息を思いっきり吸い込んでいるのが、彼の胸のふくらみでわかった。
 




