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ガブリエルの発表

「アリサ、そこにいたのね。やっと見つけたわよ」


 そのタイミングで、よりにもよってソフィアが駆けよってきた。


「こんなところに隠れていたのね。アリサ、お父様に頼んで最高の舞台を準備したわよ。さあっ、来るのよ。いまのこのシーンだけは、あなたが主役なんだから」


 彼女は後退りするわたしの腕をつかむと、ぐいぐいひっぱりはじめた。

 そして、彼女にひきずられるようにして大広間の中央部分に連れてゆかれてしまった。


 いやでも多くの人々に注目されてしまう。


 いっそのこと、消えてしまいたい。


「おや、来ていたんだ。へー、ちょっとは見られるようにして来たんだな」


 ソフィアによって多くの人々の面前に引き摺りだされたわたしに、ガブリエルが冷笑とともに言葉を投げつけてきた。


 ガブリエルの顔は、たしかに美形である。だけど、王太子殿下やアマートやディーノと違い、歪んだ美しさである。


(あなたが来いと言ったのよ)


 思わず、心の中で叫んでしまった。


 もっとも、彼に命じられたから来たわけではない。


 ソフィアに無理矢理連れてこられたようなものではあるけれど、彼女や周囲の人々のアドバイスがあったからである。


 特に図書館長の「けじめをつけなきゃ」が、心に響いた。それから、わたしの為に出席する準備を整えてくれたソフィアやティーカネン侯爵家の使用人たちへの申しわけなさもある。


 だから、恥をしのんで出席した。


『ちょっとは見られるようにして来たんだな』


 ガブリエルはきっと、わたしがいつものみすぼらしい恰好で出席するとでも思っていたのね。


 その点は、ざまぁみろと言ってやりたい。


 それもこれも、ソフィアとティーカネン侯爵家のメイドたちの見立てとスキルのお蔭だわ。


 ドレスの着こなし、髪型、装飾品、靴。どれをとっても完璧ですもの。こんなわたしでも、ガブリエルを驚かせることが出来たみたい。


 何より、白粉を使って火傷の跡がほとんどわからないほどにしてくれた。


 衆目にさらされるのは慣れないし、耐えるのに努力を要している。だけど、ここに立っているということじたいが、すくなくともわたし自身にとってはすごいことである。


 白粉で隠してくれたことが、ここに立っていることを可能にしてくれた。


 協力をしてくれた人たちに、感謝をしてもしきれない。


「まぁいいさ」


 感謝と感動をしている中、ガブリエルの顔にゾッとするほどの冷笑が浮かんだ。


「今宵をもちまして、わたしことガブリエル・ラムサ公爵子息は、アリサ・クースコスキ伯爵令嬢との婚約を破棄いたします」


 それから、彼は高らかに宣言をした。


 唐突すぎる宣言に、人々はそうと認識するまでに時間がかかっている。


 そして、そうと認識すると、多くの人々の顔に驚きや憐みの表情が浮かんだ。


 当然、人々はこちらに視線を向けてくる。


 憐みや同情もあれば、面白がっていたり無関心であったりと、さまざまな意味がこもっている視線が痛いほどである。


 叔母と叔父が、目の端に映った。


 お酒で上気した顔に、驚愕の表情が浮かんでいる。


 それこそ、体に蓄積されている酒精がすべて飛んでしまったに違いない。


「婚約を破棄する理由ですが、これをご覧ください」


 その瞬間、ガブリエルが近づいてきた。


 ハッとする間もなかった。ましてや、身構える暇も。


 彼の指輪だらけの手が伸びてきた。その手が、左半面をおおう髪を乱暴につかんだ。


 突然の暴挙に、頭も体も動かない。固まったまま抗うことが出来ない。


 彼の指輪だらけの手が、さらに乱暴に動いた。その手が、大広間の天井に向けて勢いよく振り上げられたのである。


 つかまれている髪が、つかみ上げられてしまった。


 大広間の天井には、神々の絵が描かれている。大昔の偉大なる画家が描いたその壮大な絵は、修復を重ねていまもなお荘厳さを維持している。


 どれだけ白粉を塗りたくろうと、神々の目はごまかせないぞと啓示されたかのような錯覚に陥ってしまった。




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