化けたわね
メイド長のマリエルをはじめティーカネン侯爵家のメイドたち総出で、舞踏会に出てもみっともなくないレベルにしてくれた。
すべてが終わった後、マリエルとカーラが姿見の前に連れて行ってくれた。
一瞬、だれだかわからないほどかわっていた。思わず、鏡の中の自分の姿を三度見なおしてしまった。
顔の左半面は、わたしのたっての希望で前髪をたらしてもらっている。だけど、白粉を入念にはたいてもらっているので、パッと見たかぎりではわからないかもしれない。
美しいとか素敵とか、そういう形容からは程遠い。だけど、王族主催の舞踏会に出席しても許されるほどには化けている。
そうだわ。化けている、という形容がぴったりね。
内心で笑ってしまった。
せっかくマリエルたちが苦労し、ここまでにしてくれたのである。
ちゃんと出席しなければ……。
「アリサお嬢様、ほんとうにおきれいですよ。ドレス、とてもよくお似合いです。まるでお嬢様の為にあつらえたかのようですわ」
マリエルが気を遣い、そんなことを言ってくれた。他のメイドたちも、気を遣ってウンウンとうなずいくれている。
靴も装飾品もバックもすべて準備してくれている。
感謝してもしきれない。
準備が整うと、エントランスに向かった。
そこで、ソフィアとティーカネン侯爵夫妻、それからアマートとディーノが待ってくれているのである。
「まあああっ!あぁアリサ、なんてことなのかしら。とっても素敵よ」
「アリサ、美しいよ。自慢の娘だと吹聴したいくらいだ」
ティーカネン侯爵夫妻が近づいて来て抱きしめてくれた。
わたしを気遣っての嘘だとしても、子どもの頃からよくしてもらっている夫妻にそう言って抱きしめられると、心からうれしくなってしまう。
「ありがとうございます。これも、ティーカネン侯爵家みなさんのお蔭です」
涙が出そうになって、このときはさすがに我慢をした。
せっかく入念に化粧をしてもらったのに、屋敷を一歩も出ない内に崩れてしまっては申し訳なさすぎる。
「へー、化けたものよね。それに、さすがはわたしだわ。そのドレス、あなたにピッタリだと思ったのよ」
ソフィアは苦笑している。
その彼女のドレスは、目がチカチカしてしまいそうなほど金色に輝いている。しかも、胸元に視線を向けると、こちらが気恥ずかしくなるほど大胆なカットが施されている。
彼女の場合、派手なのはドレスだけではない。高価な宝石が散りばめられているティアラにネックレスも派手である。それから、靴もバックもキラキラしている。
「これで、あなたもすこしは見られるようになったわね。今夜はわたしの引き立て役になってもらうんだから、それなりの容姿じゃなきゃ。さあ、行くわよ」
「ったく、きみはあいかわらず可愛くないよな。それとも、アリサの美しさに嫉妬でもしているのかい?」
「うるさいわね、プレイボーイ。そんなわけはないでしょう」
アマートとディーノは、今夜は近衛隊の隊員としてではなくプレスティ侯爵家子息として出席するらしい。
わたしが準備をしている間に、彼らも持参してきたタキシードに着替えていた。
二人とも美形である。タキシード姿も惚れ惚れするほど恰好がいい。
「というか、きみもいっしょに行くのかい?たしか、きみには婚約者が出来たんだろう?だったら、その婚約者にエスコートしてもらうべきじゃない……。ゲホッ!」
ソフィアがアマートの腹部を思いっきり殴った。
「ソフィア、やめないか」
「ソフィア、殴るのはダメよ」
ティーカネン侯爵夫妻は、なぜか笑いながら注意をしている。
「アマートさん、大丈夫ですか?」
「いいのよ、アリサ。プレスティ侯爵家とうちは仲がいいんだけど、この二人だけは違うの」
抱擁から解放してくれた侯爵夫人は、満面に笑みを浮かべつつおおらかに言った。
いえ、侯爵夫人。そういう問題じゃありませんよね?
思わず、心の中でつぶやいてしまった。
「まだなのよ。婚約のことは、まだ発表されていないの。だから、わたしはいまはまだフリーなわけ。どう、プレイボーイさん?わたしをエスコートするという栄誉を、あなたに授けてあげてもいいんだけど」
「ソフィア、せっかくだけどきみをエスコートするのは遠慮しておくよ。とてもではないが、身も心ももちこたえられそうにないからね。それよりも、アリサ。とっても素敵だよ。きみこそ、おれがエスコートするにふさわしい」
ソフィアに殴られたアマートは、すぐに復活を果たした。
すると、アマートはわたしの手を取ってそこにキスをしてくれた。




