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ディーノ、母に告げる

「わたしは、図書館長の甥のユベール・プレスティと申します。じつは、アリサのクースコスキ伯爵家の屋敷の一部が老朽化で改修が必要になるかもしれません。その調査をする為、彼女は館長の屋敷にしばらく移ることになりました。その間の荷物を運ぶのに男手が必要ということで、甥っ子のわたしとわたしの愚息どもが駆り出されたというわけです。それはともかく、みなさんのことは『素晴らしい司書やスタッフで助かっている』と、叔母からしょっちゅうきかされています。どうかこれからも叔母のことを支えてやって下さい」


 プレスティ侯爵ってすごいわ。わたしが館長にお世話になる理由は違うけれど、うまくごまかしてくれた。


 嘘、なのかもしれない。だけど、この嘘はわたしを守る為についてくれた嘘。


 プレスティ侯爵に嘘をつかせてしまった責任を感じずにはいられない。


 プレスティ侯爵は、とにかくすごい検察官だときいている。


 さすがだとしか言いようがない。


 みんなのそつのない挨拶をきいた後、プレスティ侯爵家の馬車は屋敷に向けて出発をした。



 侯爵夫人とカーラと三人での夕食作りは、控えめに言っても楽しすぎた。


 侯爵夫人ほどではないけれど、お母様も料理は得意だった。だから、ときどき厨房で料理しているのを見たり手伝ったりした。


 それがまた楽しかった。


 お母様が生きていらっしゃったらこんなふうに出来たんだろうな、とふとかんがえてしまった。


 今夜は、サラダ、ミートパイ、シチュー、パン。食後にシナモンティーとロールケーキというメニューである。


 サラダはイモ類をふかして潰し、塩コショウと秘伝のドレッシングを和えて混ぜたものと、生野菜である。ミートパイは、トマト系のソースで煮込んだ挽き肉をパイ生地で包んでいる。シチューは、鳥とタマネギをホワイトソースでじっくり煮込んでいる。パンは、全粒粉の焼き立て。


 すべての下ごしらえは、侯爵夫人がやってくれていた。だから、彼女に教えてもらったりお喋りをしながら、心から料理を楽しむことが出来た。


 作り始めが遅かったのもあるけれど、準備が整ったのは大分と遅くなっていた。


 その間、プレスティ侯爵と双子は、葡萄酒を飲みながらチーズをつまんでいたみたい。


 食卓上に所狭しと並んでいる料理の数々を見て、アマートとディーノは目を輝かせている。


 わたしったらいやだわ……。


 一瞬、二人の姿が可愛らしい仔犬に見えてしまった。食事を前に、瞳をキラキラさせて尻尾をふりふりしている仔犬にしか見えなかったのである。


 小説に出てくる獣人なの?


 それほどリアルに見えてしまった。


 わたしってば本の読みすぎだし、そういう世界にどっぷりつかりすぎているのね。


「やあ、今夜もうまそうだ」


 プレスティ侯爵は、夫人の席にさっとよると椅子を引いてエスコートした。そして、夫人が席につくとさりげなくその頬に口づけをした。


 素敵……。


 そんな夫妻の様子が気恥ずかしく感じる反面、うらやましくなってしまった。


「坊やたち」


 侯爵夫人が鋭く呼ぶと、アマートとディーノがすばやく近寄ってきた。それから、アマートがわたしの椅子を引いてエスコートをしてくれた。


 当然、頬への口づけはない。


 わたしの醜い頬にそんなことをしようものなら、彼は不快感を抱くでしょう。それに、世の多くのご令嬢に大人気の彼である。そんなご令嬢たちにそんなことをさせたことを知られでもしたら、それこそ彼女たちに非難されてしまう。


「アマートさん、ありがとうございます」

「アリサ、誤解しないでくれ。もしもこれが二人っきりだったら、母上に言われなくってもちゃんとエスコートしたんだ。実家にいて親の前だと、どうしても……」

「アマート。お前の言う実家にいて親の目の前で、アリサを口説くのではない」

「ち、父上、口説いてなどいません」


 アマートって、ほんとうに誤解されやすいのね。ということは、いままで相当そういうことをやってきているってことよね。


「ディーノ、どうしたの?はやくしなさい」


 ディーノは、いまだカーラの横で立ったまま椅子を引こうとしない。そのディーノに、侯爵夫人がピシャリと命じた。だけど、彼は真っ赤な顔でうつむいてしまった。


「その、母さん」

「ディーノ、まさかあなたまで何かあるわけなの?」


 侯爵夫人が眉をひそめた。


 どうやらプレスティ侯爵家では、息子たちが「母さん」や「父さん」と子どもの頃の呼び方をしたときは、何か頼み事や問題事を、つまり言いにくいことを告白するときにその呼称を使われるらしい。


 それは双子だけではなく、上のお兄様たちも同様なのだとか。


「え、ええ。その……。カーラは、彼女はおれの婚約者になってくれたんです」

「な、なんですって?」


 侯爵夫人が隣で叫ぶものだから、鼓膜が震えてしまった。





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