ほんとうに、ほんとうにいいの?
「ディーノ、まさかあなたが?乱暴なことしか興味のないあなたが、結婚するの?兄たちに比べたら、女性とは縁遠いあなたが?アマートとは違う意味で諦めかけていたあなたが?ほんとうに、ほんとうに結婚するの?」
「おれとは違う意味でって、おれはいったいどういう意味で諦められている……」
「アマート、おだまり」
可哀そうに。アマートは、侯爵夫人に諦められているみたい。
「というよりかは、どうしてもっと早く報告しなかったの?結婚って、人生の中で大切なことの一つよ」
彼女は椅子を蹴るようにして立ち上がると、まだ立ったまま真っ赤な顔でうつむいているカーラに近づいた。
「カーラ、ほんとうにいいの?ほんとうにほんとうにいいの?」
侯爵夫人は、カーラの腕をつかんで何度も何度も同じことを尋ねている。
「ディーノは、アマートみたいにあなたを泣かせるようなことはぜったいにないわ。それは間違いない。だけど、不器用すぎていろいろな意味で物足りないかもしれない。カーラ、いっときの情熱だけではダメよ。もしもダメになったら、離縁すればいい。婚約を破棄するのだっていい。だけど、傷つくのはたいてい女性なの。だから、しっかりとかんがえてちょうだい」
「ちょっ……、おれみたいに泣かせるようなって……」
「おだまり、アマート」
「は、はい」
可哀そうに。アマートは、侯爵夫人に女泣かせだと思われているみたい。
「もちろん、あなたみたいな素敵な人がディーノと結婚してくれて、うまく尻に敷いてくれれば、これほどうれしいことはないわ。わたしの願いの一つが叶うんだし。だけど、やはり……」
「侯爵夫人。たしかに、彼に告白されてうれしくってポーッとなってしまいました。その状態で、お受けしたのは否めません。ですが、その後ついついお受けしたことをかんがえてしまうのです。わたしは、街でも低下層の家の一人娘です。両親は、わたしが子どものときに流行り病でたて続けに亡くなりました。それ以降、わたしは祖父母に育てられました。ですが、祖父母も病で亡くなってしまいました。身寄りのなくなったわたしは、生き残る為にいろいろなことをしなければなりませんでした。そんなとき、慈善活動でいらっしゃったクースコスキ伯爵夫妻に出会ったのです。伯爵夫妻は、お嬢様の遊び相手にということでわたしを引き取って下さいました。それ以降、わたしは伯爵夫妻に大切に育てていただいたのです」
カーラは、わたしには想像もつかないような子ども時代を送っている。
「そんなわたしが彼にふさわしいのか……。そればかりをかんがえてしまうのです。結局、彼に恥をかかせるようなことになるかもしれない。彼を失望させることになるかもしれない。じつは、いまでもずっと悩んでいます」
カーラ……。
彼女はそう言った。おそらく、わたしが婚約を破棄されたばかりだから、わたしに気を遣っていることもあるに違いない。
「カーラ、そんなわけはない。おれがきみに失望されるようなことがあっても、その反対はぜったいにないから。お願いだ、カーラ。断わるだなんて言わないでくれ。おれは、きみを一生大切にする。きみを守る。もちろん、苦労などさせない。きみがアリサの側にいたいというのなら、それでいい。クースコスキ伯爵家の屋敷と近衛隊の官舎なんて、目と鼻の先だ。たとえ結婚後に離れ離れで暮らそうとも、心と心がつながってさえいたら、まったく問題はないのだから」
ディーノ……。
なんていい人なのかしら。
いまのは、わたしが言われたわけじゃない。だけど、彼の熱い想いにキュンときてしまった。
カーラのことがうらやましくなったのは、これでもう何度目かしら。
カーラが泣きはじめた。うれし泣きね。
プレスティ侯爵もアマートも、目をウルウルさせながらカーラを見守っている。
「ディーノ、本気なのね?生涯、彼女のことを命を賭けて愛せるわね?」
「もちろんです、母さん。神に、いえ、母さんに誓います」
「カーラ。こんな息子だけど、ほんとうにいいのかしら?もしも息子にチャンスをくれるのなら、わたしはいつでもあなたの味方になって、あなたを応援するわ」
「チャンスだなんて……。わたしの方がいただくのです。彼としあわせになりたい」
彼女の本音をきいて、心の底からうれしさがわいてきた。
「カーラ、ありがとう」
侯爵夫人は、カーラの体の骨がバラバラになるんじゃないかというほどギュウッと抱きしめた。




