108時間目〜最終話〜:最後の入学式
(私、ティル。ティル・ラーナー。メビラ学園初等部1年生でテンポーレだよ。今、私の最後の入学式を待ってるんだ)
ティルは、メビラ学園の講堂にて170名程度の新入生の1人として席についていた。他の児童達は皆、保護者席にいる親を探す為、後ろを向きキョロキョロしている。一方、親達も自らの子供の晴れ姿を探し、目が合うと、親子共々手を振り合う。
(やっぱり、私もやろう!)
ティルもそれを真似し、グレゴリオとノエル、そして、ノエルのお腹の中のリノを探し、見つけた。
(いつもの席にいた!お父さん、お母さん、リノ!!)
「お父さん、お母さん」
ティルは呟く。グレゴリオとノエルの柔らかな表情を見てティルは、元気に手を振った。それを見つけたグレゴリオとノエルも手を振り返す。
(最後も見つけてくれたね!お父さん、お母さん!!)
ティルは、ぱっと明るく笑い、講堂の前方にある舞台の方へと向き直った。
(始まるね、入学式)
それと同時に前方左に入学式の式進行を担当する教諭が立った。その男性教諭は小さな声で呪文を唱える。
「アエンメ、ピエレイ、エッフェイ、チア。ヴオ、チイ」
すると、式進行の男性教諭の声が、講堂内に響き渡る大きな声に変わる。
「只今より、エスパランタ1535年度、メビラ学園の入学式を執り行います。はじめに、国歌斉唱。一同ご起立の上、ご斉唱ください」
舞台の左手にあるピアノがひとりでに伴奏をはじめる。教諭や保護者達はそれに合わせ国歌を歌い出す。新入生である児童達は、国歌を歌える者は少なく、あやふやなメロディーを口ずさむ。そんな中、ティルは国歌を完璧に歌う。
(私、テンポーレになったけど、イテラリピティでまた、子供に戻っちゃったから、時間の運行を見る事以外は、テンポーレの力があんまり使えなくなっちゃったみたい。でも、イテラリピティを繰り返した時間は、きっと疲れてるよね。だから、丁度よくお休みをあげられてる)
国歌は終わった。静まり返る講堂内。式進行の男性教諭はそんな中、こう言った。
「ご着席ください。次に、学園長挨拶に移ります。当学園、学園長イヴァン・オーケン」
白銀色のスーツに身を包んだイヴァンは、講堂前部の舞台に登壇した。
(学園長先生)
そのイヴァンは、小声で拡声魔法の呪文を唱える。
「アエンメ、ピエレイ、エッフェイ、チア。ヴオ、チイ」
講堂の後ろまで声が届くようになったイヴァンは、挨拶を始めた。
「春の花が咲き誇り始めたこの良き日に、メビラ学園に入学の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから初等部、中等部、高等部と12年間、魔法をはじめ、この学校で世の中の事を学んでください」
そんな話から学園長挨拶は始まった。
(最後の学園長先生の挨拶、聞き逃したら後悔する)
ティルは、まばたきを忘れるくらい、イヴァンを懸命に見た。挨拶中、イヴァンはティルの視線に気づき、視線が合う。イヴァンはティルと視線を合わせながら一瞬わずかに首を傾げた。そして、気を取り直したように、別の児童達等を見回した。やがて、イヴァンはこう言った。
「メビラ学園学園長、イヴァン・オーケン」
おおよそ5分、挨拶をしたイヴァンは降壇して行った。
(学園長先生、あの約束は知らないと思うけど、きっときっと、私をエルドレッドさんに負けない魔法使いにしてね?)
それから、来賓の紹介と挨拶等を経て新入生の点呼の時間となった。担任となる教諭が代わる代わる講堂の右前方に立ち、拡声魔法を用いながら児童の名前を1人1人呼んでいく。3番目に立ったのは、勿論、モニカである。
(オリーン先生に、入学式で呼ばれるのも最後だね。返事は元気にやろう)
「エスパランタ1535年度、メビラ学園に入学を認められ、1年3組にて学ぶ者」
そして、モニカは、登録番号順に児童の名前を呼んでいく。
「フェリシア・メンデス」
「はい!!」
(フェリシアちゃん、フェリシアちゃんを守ろうって考えたら、私、強くなれるかも)
「ハワード・フリーダー」
「はい!!」
(きっと、また学級委員長やるよね?ハワードくん。しっかり者のハワードくんに、私、ついてくよ!)
「エリン・フレンツェル」
「はい!!」
(エリンちゃん、これからの12年間、メビラ学園で仲良くしようね!勿論、卒業しても、ずっとずっと友達だよ!!)
「ラインハルト・マラブル」
「はい!!」
(かっこいいラインハルトくん、今度は誰を守りたくなるんだろ。私を選んで欲しいな。でも、私じゃなくても人を守ろうと思ってるラインハルトくんはかっこいいよ!好きな人を選んでね!!)
「ティル・ラーナー」
「はい!!」
ティルは、これまでにない元気な声で点呼に返事した。
やがて式は最後となる。式進行の男性教諭がこう言った。
「最後に、児童の全員に魔法の杖を授与し、エスパランタ1535年度、メビラ学園の入学式を閉じます」
そして、再びイヴァンが登壇し、こう唱えた。
「チオエンネ、エッフェエ、エーレイ、エーレエ。新たな学びの者たちに、魔法の杖を与えん!」
すると、舞台全体が光に包まれ、その光はキラキラと拡散されていく。その光一粒一粒が小さな茶色の魔法の杖を形作り、児童一人一人に降ってくる。勿論、ティルの手元にもそれは届く。ティルは右手を高く挙げ、魔法の杖をしっかり受け取った。そして、小さな声で杖に話しかけた。
「これから、よろしくね?」
(絶対に消えない私の魔法の杖、やっと来た)
それに応えたように、魔法の杖はキラッと光り輝いた。他の児童も、魔法の杖に笑顔になったり、興奮する様子を見せたりした。一方、保護者は、無事自らの子供達が魔法の杖を受け取れた事に歓喜し、惜しみない拍手を贈った。
そうして、入学式は終わった。担任の誘導により、講堂を後にするティル含めた児童達。
(私、イテラリピティが辛くて辛くて、これが聞こえている人にいっぱい話しかけてきた。関係ない事も沢山話しちゃったけどね。でも、もうイテラリピティは起きない。起こさない。だから、私が皆に話しかけるのは最後にする)
ティルは、出口付近でちらっと講堂内を振り返った。柔らかく口角を上げ、すぐに他の児童達と共に講堂を後にしたティル。そして、呟いた。
「入学式、終わった」
(最後のね)
一方、保護者も後に続くように講堂を去る。
(いろんな事があって、どうしようもなくて、私、学園長先生のも一緒に世界の人達の記憶を消しちゃった。きっと、幸せな記憶も沢山あっただろうな。悪い事しちゃったと思ってる。その事は、これからずっと心に残しておくんだ)
講堂を背に、ティルは見知った廊下を一歩一歩噛みしめるように歩く。
(だから、私の声が聞こえていた人、皆にお願いがあるの。私が話しかけていた時に私の周りにいた人達の幸せを、ひとつでもいい、覚えていて欲しいの)
ティルの目に、初等部1年3組の教室が入ってくる。
(そしたら、私、エルドレッドさんに会いに歩いて行ける。どうか、お願いね、皆)
ティルは、1年3組の教室の入り口をくぐった。そして、誰にも届かない小声でこう呟いた。
「エッセ、ピエ、エーレオ。チアッカエ。ティウ、ティティイ。エッセイア、エンネオ。エッフェエ、エレイ、チイ」
(完)




