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銀座のパフューマー 香りの記憶  作者: 昼間 ネル
第一章 香りの記憶。

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7/31

第七話:毒苺と、裏切りのホワイトムスク

香水は

纏う人の内面を映し出す鏡のようなものです。

ある人にとっては愛の記憶であり

またある人にとっては、

犯した罪を突きつける鋭いやいば

にもなり得ます。

本作では、親友にすべてを奪われた女性・莉奈が、復讐のために「偽物の香り」を手にします。

甘いストロベリーの裏側に隠された、鉄のような冷ややかな殺意。

そして、その復讐の果てに訪れる

耐え難いほどの自己嫌悪。

調香師・九条が彼女に手渡した

本当の「救い」とは何だったのか。

五感を震わせる

香りと魂の再生物語をどうぞお楽しみください。

その日、蝶々舞う暖かい日のことでした。

調香室の扉を叩くのは、祝福の鐘の音に耳を塞ぎ

逃げるように辿り着いた一人の二十代前半の莉奈。


古びたカウンターに、涙が溢れ出てる莉奈がいた。

「来週、親友の結婚式があるんです。

彼女は……美紀は、私の付き合っていた、彼氏を奪って、私が一番大切にしていた

九条さんのストロベリーの香水も盗まれて

彼女自身の『香り』として使うつもりなんです。

私の思い出を、全部塗りつぶすために。」


九条が取り出したのは

少女のような**「ストロベリー(苺)」と

清潔感の象徴である「ホワイトムスク」。

しかし、そこに莉奈の涙のような

「シベット(霊猫香)」の獣性と神経を逆撫でする 「メタリック・ノート」**を一滴加えます。


「これは、君の香水を模した偽物だ。

だが、体温に触れ、時間が経つ事に

その奥にある『腐った真実』が滲み出すようにしてある。……いいか、この香りは、奪った側が自分たちの罪を自覚した時、初めて完成する」


「これは、ただの美しい香りではない。

他人の庭から花を奪った者にだけ

その『毒』が牙を剥くように設計してある。

……君がその罪を被る覚悟があるなら

持っていくがいい


それは、裏切りの罪の中で窒息しかけた魂を

静かに解き放つための「終わりの香り」である。


翌週の夕暮れ時

カラン、と力なくカウベルが鳴りました。


調香室に流れ込んできたのた、重苦しく

そして鉄の匂いが混じったような

歪んだ**「ストロベリー」**の残香。


式場を去り、九条の店に来た莉奈。


抑えたパーティーコーディネートを身に纏いながら

幽霊のように青ざめた莉奈でした。


「……終わったのか」


九条が調合台から顔を上げずに問うと

莉奈はカウンターに縋り付くようにして崩れ落ちました。


「……はい。渡された香水、付けていきました。

美紀が私を抱きしめた瞬間、彼女の顔が引きつるのが分かりました。……奏太くんも、私の横を通るたびに、ひどく怯えたような目で私を見て……」


莉奈の瞳から、大粒の涙が溢れ出しました。


九条が仕込んだ香水は、体温と混ざり合うことで、かつて三人が共有した「罪の記憶」を呼び覚ます

金属的な異臭を放つ設計でした。


美紀が莉奈から奪い、自分のものとして纏っていたはずの甘い苺の香りは、莉奈が現れたことで

「偽物」としての本性を現したのです。


「……九条さん、私……。復讐したかったはずなのに、すごく苦しいんです。あんなに大好きだった美紀を、心の底から祝ってあげられなかった。

彼女を、汚いものを見るような目で見てしまった

自分が、一番……汚れている気がして……っ!」


莉奈は声を、堪えて静かに泣き出しました。

友情を裏切った親友への怒りよりも

信じていた絆が完全に壊れてしまったことへの

喪失感が、彼女を苛んでいました。


向日葵がたまらず莉奈の肩を優しく抱き、

九条を睨みつけました。


「九条さん! 何か言ってくださいよ!

莉奈さんは

自分を責める必要なんてないのに……!」


九条は無言で立ち上がると、棚の奥から一つ

ラベルのない小さな黄緑の瓶を取り出しました。


彼はそれを莉奈の前に置き、静かに告げました。


「……泣きなさい。その涙が、

君の中に残った『あの女の毒』を洗い流す。

……香水は、他人を呪うための道具ではないと言ったはずだ。」


九条の手によって、新しいムエット(試香紙)

に一滴の雫が落とされました。


莉奈に香りが届いたのは、雨上がりの森に迷い込んだような、深く、どこか温かい

**「サンダルウッド(白檀)」と

精神を安定させる

「クラリセージ」**の香りでした。


「それは、復讐の残り香を消し去るための

『無罪』の香りだ。

…誰かを祝えなかった自分を責める必要はない。

君は今日、自分の人生から、正しく『他人』を切り離しただけだ。」


莉奈はその香りを深く吸い込みました。


サンダルウッドの静な香りが

ささくれ立った彼女の心を優しく包み込み

張り詰めていた糸を解いていきます。


「……あたたかい。……すうっと

霧が晴れていく みたいです。」


「次にここへ来る時は、その洋服ではなく

今の君に相応しい服で来なさい。

その時こそ、君が自分のために纏うべき

本当の光を贈ろう。」


莉奈は涙を拭い

確かな足取りで店を後にしました。


夜風に乗って、重苦しい苺の匂いは消え

微かな白檀の残り香だけが調香室を支配しました。

向日葵が、九条の横顔を覗き込みます。


「……九条さん、今の香水。

代金、もらってないですよね?」


九条は、莉奈が置いていった

「呪いの香水」の空瓶をゴミ箱へ捨てると

自嘲気味に口角を上げました。


「…私はただ、美しいサンダルウッドの純度を

あんな低俗な愛憎で汚されたくなかっただけだ。」


九条は、自分の指先に残った香りを確かめるように背向けました。


「向日葵くん、店を閉めろ。

……今日は、少しだけ

森林の香りの匂いに浸りたい気分だ。」


「しょうがないな〜、 冷徹過ぎると機械伯爵みたいですよ。」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

作品の参考に、ブックマーク、評価お願いします。


今回、莉奈が手にしたのは、相手の罪悪感に反応して「牙を剥く」ように設計された呪いの香水でした。

**「メタリック・ノート」や「シベット」**


生理的な嫌悪感や緊張を呼び起こす香料を

あえて愛らしい苺の香りに潜ませるという

九条の冷徹かつ緻密な技術が物語の鍵となっています。

しかし、この物語の真の主役は、復讐が終わった後に差し出された**「サンダルウッド」と「クラリセージ」**の香りです。

誰かを恨むことで自分を汚してしまったと感じる莉奈に対し、

「それは他人を正しく切り離しただけだ」と告げる九条の言葉は、彼なりの最大の慈悲だったのではないでしょうか。

最後に、向日葵が九条を**「機械伯爵」**と呼ぶシーンで、物語の緊張感がふっと解けるような後味を目指しました。

復讐の苺の匂いが消え、深い森のような白檀の香りが漂う調香室で、莉奈の新しい人生がここから始まることを願って!

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