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銀座のパフューマー 香りの記憶  作者: 昼間 ネル
第ニ章 九条失踪 編

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19/31

第19話:パフューマー銀座に戻る

激動のイタリアを経て、物語の舞台は再び、静謐な銀座の調香室へ。

かつて復讐の香りに囚われていた少女・莉奈が、自らの手で「新しい香り」を携えて現れます。

「記憶」は、人を縛る鎖にもなれば、明日を照らす光にもなる。

九条が莉奈に手渡した「自分を愛するための香り」は、今、彼女の人生の中でどう花開いているのでしょうか。

ここは銀座の調香室、薄光の部屋に戻ってきた九条は、相変わらず黙々と瓶を並べ替え、向日葵は窓辺でうたた寝をしています。


そこへ、カラン、と優しくカウベルが鳴りました。

「こんにちは。……あ、向日葵さん、寝てる」


現れたのは莉奈(7話登場)でした。前回の事件の影など微塵も感じさせない、春の陽だまりのような明るい笑顔。その手には、可愛らしくラッピングされた小さな箱が握られていました。


「九条さん、お久しぶりです!これ……。あの時のお礼です。私、新しくお菓子教室に通い始めたんです。

「これは、そこで焼いたハーブクッキーで……」


九条は手を止めず、冷淡に答えます。

「……私は甘いものは食べない、向日葵くんにでも与えてくれたまえ。」


しかし、莉奈はクッキーの箱を開けると

、ふわりと**「ローズマリー」と「レモン」**の爽やかな香りが広がりました。


「ただのクッキーじゃないんです。

九条さんに教えてもらったみたいに、試作です! 香りを大事に選んでみました。ローズマリーは

『記憶』

レモンは『心のリフレッシュ』……。

海外帰りで、お疲れみたいだったから」


「記憶」という言葉に

九条の指がわずかにピクリと動きました。


莉奈は、九条の隣にちょこんと座り

自分で淹れた紅茶を差し出します。


「九条さん、お茶くらいはいいでしょう?

私、九条さんに救われてから、自分の鼻がすごく敏感になった気がするんです。 街を歩いていても、『あ、これは優しい雨の匂いだ』とか、

『あのお婆さん、お日様の匂いがする』見たいな。」


九条は、渋々といった様子で紅茶を口に含みました。そして、莉奈が作ったクッキーを一枚、

指先でつまみます。


「……ローズマリーの分量が、 コンマ数グラム多い。 これでは茶葉の香りを殺している」


文句を言いながらも

九条はそのクッキーを完食しました。


それを見て、莉奈と、いつの間にか起きていた向日葵が顔を見合わせてクスクスと笑い出します。


「九条さん

やっぱりお顔が少し柔らかくなりましたね!」


莉奈の言葉に

九条はフイッと天井を見上げました。


「……くだらん。私はただ、低俗な味覚で私の舌を汚されたくなかっただけだ」

クッキーの粉が、口周りに少し残ってる。


「はいはい、そうですね」と笑う莉奈。


彼女の首筋からは、あの日、九条が贈った**「サンダルウッド(白檀)」と「クラリセージが、彼女自身の体温と混ざり合い、世界にたった一つの「莉奈の香り」となって穏やかに漂っていました。


それは、復讐でも呪いでもない

ただ自分自身を慈しむために纏う

本当の光の香り。


莉奈が「また来ますね!」と元気に店を後にした


その後、調香室にはハーブクッキーの残り香と

午後の柔らかな光が満ちていました。


「九条さん、莉奈さん

本当に見違えりましたね。

……九条さんの魔法、大成功ですね?」


向日葵の冷やかしに、九条は棚の奥から「ミント」の精油を取り出し、シュッと一吹きしました。


「……くだらん。店を掃除しなさい。

砂糖の匂いが残っている。

今度来る時は、香りのバランスがいい

クッキーを持ってくるように頼んでおきなさい。」


素直になれない九条の言葉に、向日葵は「はいはい」と笑いながら

ほうきを手にするのでした。

第19話では、イタリアで「感情」を受け入れた九条の変化が、莉奈との再会を通して描かれました。

文句を言いながらもクッキーを完食する九条の姿は、以前の彼には考えられなかった光景です。

香りは、贈った人から贈られた人へ、そしてまた別の人へと、形を変えて幸せを繋いでいきます。

さて、平和なひとときも束の間。次はどんな「香りの依頼」が、この銀座のラボに舞い込んでくるのでしょうか。次週新章突入します!よろしくお願いします!

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