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二十八話「プレゼン当日」

眩しいスポットライトがステージの中央に立つ僕と、小寺先輩の二人を白く浮かび上がらせていた。


今日はビジコンプレゼンの当日。

結局、清水がこのチームに戻ってくることは叶わなかった。

あの日以来、何とか修復は試みてきたが、今日この会場の控室にも彼女の姿はなかった。


だが、負け戦をしにこの会場に来たつもりはない。

突貫工事かもしれない、だが、悩みぬいた果てに自分たちで少しは納得できるソリューション案にたどり着いた。


マイクを握りしめ、正面を見据える。

審査員席には値踏みをするような厳しい大人の目線。


だが、これにおびえるわけにはいかない。

思えば少し前の商工会の提案の時も厳しい大人の目はあった。

今は少し存在感の大きい先輩が背中にいない…だけ。


「それでは、秀央学院第二チームの発表を始めてください」


合図とともに、小寺先輩がリモコンのボタンを押し、

スクリーンにプレゼン資料が映し出される。


・・・


僕の思考は、チームがリスタートしてからの日々を一瞬でなぞっていた。


――例えばBtoBで周辺市場を探ってみてはどうか

発端の切り口から当たってみたは良いものの、見えてきたのは甘くない現実だった。


介護サービス事業者は人件費の高騰や、材料費の高騰によりで深刻な資金繰りに追われてた。

また、サービスを受ける側も減り続ける年金受給、その子供も住宅ローンや孫の学費等で高額な介護サービスを継続できる余裕はない。


市場のどこにも余裕がないなら、一体どこに切り込む余地があるのか。


「自治体で支援金を出すところはほとんどないようです。対象となる高齢者が多すぎて負担ができないのだと思います」


「今は支援が必要になる前に予防の方向に動いてるみたいだね」


「介護予防は重要な観点ですが、予防施策が効いてくるまでにはタイムラグがありますよね。今まさに困っている人を助ける手段にはならないと思います」


「うーん…こういうときって会社とかが助けてくれないのかなぁ」


小寺先輩の純粋な疑問を調べてみると、介護のための休暇を申請できる企業がいくつかあるようだ。


「これってどうなんだろう…自分自身もまだまだ働けるって中で、お休みがもらえますよってのは解決策になってるのかな…」


「職場でも重要なポジションにいる方も多いでしょうから、職場としてもやむを得ない選択肢になっている可能性はあります」


「うーん…大学とかだったら奨学金とかで自分のやりたい選択肢が取れるのに、学生から卒業したら世知辛いよねぇ」


「奨学金…ありかもしれないですね…」


介護サービスを受けるための費用は、単なる日々の消費ではない。

子供世代が仕事を続け、将来そして社会を動かすための投資ではないだろうか。


・・・


「私たちが提案するのは、家族介護者のキャリア断絶を防ぐ新たな選択肢『奨護金(ケアシップ)』を運営する金融プラットフォームです」


「『ケアシップ』は、家族介護者に対して介護費用を無利子・無担保で立替融資する仕組みです」


”無利子・無担保”というキーワードに審査員は目を潜める。

そのようなビジネスモデルが果たして慈善事業から脱却できるのか。


「当然、疑問が浮かぶはずです。誰がそのリスクと金利を負担するのか、と」


小寺先輩は力強く続ける。


「答えは二つあります。一つは、社員の介護離職を防ぎたい企業。もう一つは、運転資金の即時回収を望む介護事業者です」


「現在、企業にとって社員一人が介護離職した場合の採用費用は約800万円と言われています。また、採用できる人材が確保できる確証もありません。現在は介護などの時に休暇を得られる制度はありますが、働きたい人がそのまま働き続けられるシステムが最も良いのです」


「また、介護事業者は上がり続ける人件費・材料費の中で投資をしていくことが難しくなっています。そこで私たちが仲介した際には、年間利用料の100%を年初にお支払いします。そのメリットは年間数%の加盟手数料を上回る価値を提供できます」


僕たちがたどり着いたのは介護サービスでも、単なるBtoB向けでもなく、

企業福利厚生とファクタリング(売掛債権)を組み合わせた金融事業だった。


個人からは利息も担保も取らない。

けれど、ビジネスとして堅実に回すことができるソリューションだ。


プレゼン終了を告げるタイマーが鳴り響く。

小寺先輩と顔を見合わせ、僕たちは深く頭を下げた。


一瞬の静寂の後、大きな拍手が沸き起こった。


深々と頭を下げ、荒い息を整えてからゆっくりと顔を上げる。

眩しいスポットライトの光の向こう、会場の後方にある通路の壁際に、見覚えのある人影が立っているのが見えた。


……清水だ。


彼女はそこに立ち、じっとステージ上の僕たちを見つめていた。

あの日、絶望と怒りを抱えて部室を飛び出していった時の目はそこにはない。


言葉はなくても、はっきりと分かった。

清水は僕と目が合うと、申し訳なさそうに静かに深く一度だけ頭を下げ、そのまま人混みの向こうへと姿を消していった。


僕と小寺先輩が顔を見合わせ、小さく頷き合ったその時、

マイクを通じて司会のアナウンスが響き渡った。

「素晴らしい発表をありがとうございました。それでは、審査員の方々からの質疑応答に移ります」


拍手が落ち着き、会場の照明が少し明るくなる。

審査員席でマイクを手にする大人たちの真剣な視線が僕たちに向けられた。


僕たちの本当の勝負は、ここからだった。

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