表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/25

二十四話「真夜中の作戦会議」

部室のホワイトボードは、数時間前まで真っ白だった。

今では、青と赤のマジックで書かれた「家庭内の課題」から広がっていく文字が、

無秩序な蜘蛛の巣のように広がっている。


「……ダメだ。やっぱり、どれも決定打に欠ける」


小寺先輩はペンを置き、椅子の背もたれに深く沈み込んだ。

ホワイトボードに並んでいるのは、僕たちが絞り出した案の残骸だ。


小寺案:『近助きんじょの輪・シェアリング』

地域の学生が家庭のケアを代行するギグワーク。

【黒木の意見】信頼性の担保が不可能。他人が家に入る心理的ハードルが高すぎる。


黒木案:『スマートホーム・ライフログ・マネタイズ』

家庭内にセンサーを配置し、ケアデータをメーカーに売って収益化。

【清水の意見】家がセンサやカメラだらけになるなんて、休まる場所じゃなくなる。


清水案:『ケア・フード・サブスク』

調理の手間を省く栄養価の高い配食サービス。

【小寺の意見】既存の宅食サービスとの差別化ができず、価格競争で即死する。


「家庭の中って絞ったはいいものの……まだまだ幅が広いし、どれもパッとしないね」

小寺先輩が、消えかかったホワイトボードの文字を指でなぞる。


「……お客さんがお金を払ってくれそうなビジョンが見えないですよね」

清水が、自分のノートをぎゅっと握りしめた。


「本当に困ってる家庭はサービスに払うお金がないからね……そこをターゲットにするって決めたけど、慈善事業じゃビジネスにはならないから…難しいなあ……」


沈黙が部室を支配する。

「…ごめん、今日は一度解散しよう。……頭がスッキリしないや」

小寺先輩の力ない声に、僕と清水は黙って頷くしかなかった。


・・・


帰宅した僕を待っていたのは、暗い廊下とリビングのテーブルに置かれたコンビニ弁当の空き殻だった。

母親はまだ仕事から戻っていないか、あるいは疲れ果てて自室で寝ているのだろう。


僕の家には小寺先輩の家のような重苦しさも、清水のような必死さもない。

ただ、空虚な静寂があるだけだ。


自分の部屋に籠り、ベッドに倒れ込んで一息をつく。

ふと、手元でスマートフォンの画面が震えた。清水からのコール画面だった。


「……もしもし」


「……黒木、起きてた?」

受話器越しの清水の声は、部室の時よりもさらに小さく、そして近く感じた。


「……ああ。起きてるよ」


「ごめんね、こんな時間に。……あの、さっきの部室でのことなんだけど……」


「……うん」


「実は三人の共通点が見えただけでも一歩前進できたかなって、少し安心したの」

自信のない声とは裏腹に、清水の言葉には、確かな安堵の色が混じっていた。


「そっか……。僕はやっぱり、次の方向性が見えないことが……正直、辛いかな」


「うん……その気持ちもわかるよ。でも、今の一歩を喜んだ方がいいのかなって」

清水は冷静に今の状況を見つめつつも、ポジティブに捉えたいのだと感じた。


「黒木。……私たち、まだ何も見つけられてないけど。でも、今日黒木がぶつけてくれた思いを、私は忘れないよ。……いつか、黒木の話も聞かせてほしいな」


「……」


「じゃあ、おやすみなさい。……明日も、部室でね」


「うん…おやすみ…」


通話が切れた後の静寂は、さっきまでよりも少しだけ、冷たさが和らいでいる気がした。


(何か突破口が見えればいいのだけれど…)


ビジネスコンテストまであと一か月。

安心したという清水とは裏腹に、刻一刻と時間は迫られていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ