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二十三話「縋るもの」

教頭先生に「共通項を見つけなさい」と言われた翌日。

小寺先輩が僕たちを連れてきたのは、商店街から少し離れた、静かな住宅街だった。


「小寺先輩、ここは…?」

僕が尋ねると、先輩は少しだけ寂しそうに笑って、一軒の古びた一軒家の前で足を止めた。

「ここ、私の実家なの。今はもう、祖母しか住んでいないんだけどね」


居間に通されると、そこには介護用ベッドと所狭しと並んだ薬の袋、その中に一人のおばあさんが横になっていた。


「おばあちゃん、来たよ」

少し控えめに声を掛ける小寺先輩。


おばあさんはふっと気が付いたようで、ゆっくりと腰を上げようと踏ん張る。

「ああっいいよ寝たまんまで。今日はちょっとお世話しに来ただけだから」

「…ありがとねえ」


小寺先輩は、簡単に嚥下食を作りおばあさんにふるまうと、

片づけ、洗濯などの周囲のお世話を始めた。

おばあさんは半分くらい手を付けてから、もう入らないと合図を示す。

僕と清水はただその様子をじっと眺めているだけだった。


・・・


帰りながら、小寺先輩は僕たちに語ってくれた。


「私の両親は共働きで、私が中学生のころから祖父母のお世話をしていたの」


「高校に上がった時くらいに、祖父は亡くなってしまって、そこから祖母は私のこともわからなくなってしまったの。さっきのもお世話のヘルパーさんが来たと思ってるんじゃないかな」


「私はおじいちゃん・おばあちゃんっ子だったから、最後の最後までお手伝いしてあげたいの」


「でも、私だって大学が近いところに行けるとも限らない。仕事を始めたら余裕もなくなるかもしれない」


「ウチは高い介護施設費を払うだけの余裕もない、だからそうなったら週に数回来る訪問介護だけになってしまう」


「そんな状況にあったから、私は『地域のおせっかい』を使って何とか祖母の最後を悲しい時間にならないようにできないかって思ったの」


一通り話を聞いた僕たち、清水はカラカラの口から言葉を紡ぎだした

「私の祖父母はまだそこまでの年齢にはいっていないですけれど…話を聞くとどんどん不安になってきました」


「……」


僕は、二人の歩幅から少し遅れて歩いた。

正直に言えば、小寺先輩の献身も、清水さんの不安も、僕には「遠い国の言語」のように聞こえていた。


僕の家には、あんな関係はない。

母との会話はいつしか無くなってしまった。

祖父母がどこで何をしているのか、あるいは生きているのかさえ、僕は知らない。


(でも――)


僕が居なくなったら、あの母はどうなってしまうのだろうか。

家族とは切れない縁で繋がっているけれども、

時間的に、物理的に引き裂かれないことを確約できるわけでもない。


そんな時に、せめて少しでも幸せにいて欲しいと思うのは間違いなのだろうか。

それは、お金がなければ叶わない幸せなんだろうか。


小寺先輩のような、強くて優しい人間が擦り減り、

清水のような不器用だけれども温かい人間がおびえている。

そして僕のような親不孝者は、気が付かぬ間に詰んでいる。


「……小寺先輩」


僕は、前を歩く二人の背中に声をかけた。

声は、自分でも驚くほど冷たく、けれど鋭い確信に満ちていた。


「僕は、あなたたちのビジョンは理解はできません」


二人が足を止めて、僕を振り返る。


「ただ、僕もこのままではいけないと思ってしまった」

「僕がいつか取り返しのつかなくなる前に、『家族』という関係に縋りたい」


小寺先輩が、驚いたように目を見開いた後、ふっと柔らかく、けれど力強く微笑んだ。

清水も、僕の言葉の中に意思を感じ取ったようだった。


「……そうね。黒木くん」

小寺先輩は、一歩後ろに踏み出す。

「あなたがどんな課題を抱えているのか、今は分からない」

「でも、今は黒木君のその気持ちが一番心強いわ」


僕たちは今日、それぞれが見る世界が少しだけ重なった。

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