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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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夜明け

目覚めるとハクタカは懐かしい自分の部屋の天井を見た。

布団の中にいた。

昨日は頭が混乱して慣れないことをあれこれ考えていたはずだったが、長旅のせいもあって体も疲れており、すぐ眠ったようだった。

けれども、昨日の出来事は鮮明に覚えている。

信じられない出来事だった。

ハクタカは布団の中で、昨日のことを反芻しては顔が熱くなるばかりであった。




そろりと部屋を出た。

まだ夜明け前で、辺りはまだ暗かった。

庭の廊下にさしかかると、その人が庭に足を置いて、外を眺め座っていた。


「……っ」


ハクタカは思わず立ち止まった。

後ろの人の気配に気づいたハグムは振り返った。


「……おはよう、早いな」


「せ、先生こそ」


少しの沈黙の後、ハクタカはぎくしゃくしながらハグムから離れた廊下に正座した。

その様子を見たハグムが、顔を横に背けて、ぶっと笑った。


「な、なんですか」


ハクタカがすかさずハグムに問うと、ハグムが答えた。


「いや。私を養父ではなく、男として見ていてくれているのだなと思うと嬉しくて、つい」


横目で、ハグムがハクタカを見やる。


「そ、それは忘れてください」


ハクタカが頬を染めて俯いた。


「ふふ、すまない」


ハグムがそう言って隣においでと言ったが、ハクタカは左手をぐっと握りしめ、その場にとどまった。


「……?」


ハグムがハクタカを見つめる。


「……私は自分のことを男だと偽り、先生を騙してきました」


ハクタカが真剣な表情で語り出したので、ハグムも黙った。


「……でも先生の優しさに触れるたびに、その罪の意識も強くなって、自分を戒めてきました」


ハクタカが続ける。


「自分が抱く感情など、嘘をつく自分が言えるものではないと、必死に自分の中で殺してきたのです」


必死に言葉を紡ぐハクタカを、ハグムは見守っていた。


「でもそれは、一年経ってもまったく消えませんでした」


ハクタカはハグムをまっすぐ見据えた。


「貴方をお慕いしています。私のしてきたことが……もし、許されるのであれば、私は貴方と、貴方の隣で、一緒に生きていきたい」


ハクタカの目に涙が浮かんだ。

最後の言葉は口が震えて、うまく言えなかったかもしれない。

しかしハグムは微笑んでくれた。


「光栄だ」


そう言って、ハグムはハクタカに隣にくるよう再度手で合図した。

ハクタカがそうっとハグムの隣に座ると、ハグムは懐からそれを取り出した。

ハクタカの長い黒髪をくるりとひとつにまとめると、それを髪に留め、言った。


「やはり君に似合う」


一部始終を見ていたハクタカが、この簪はと言いかけると、ハグムが答えてくれた。


「私が君への想いをのせてチボに託したものだ」


懐かしむようにハグムはハクタカの髪に挿された紅い簪を眺めた。


その視線が、見上げる別の視線とぶつかった。


ハグムはふ、と微笑むと、上体を屈め、目を閉じ、ハクタカの唇に口づけをした。


目を開いたままであったハクタカは、ぼっと顔に火がついたように熱くなったのを感じた。


ハグムが離れると、彼は悪戯に笑って、顔が赤いよ、と言った。


「せ、先生のせいです」


ハクタカは左手で顔を隠すように覆った。


「困ったな。これでは何もできない」


ハグムが膝に片肘を置き、頬に手をついて、にこにことハクタカを下から眺めた。


「何もって……何をするのですか」


ハグムの視線を一気に浴びながら、ハクタカがいっぱいいっぱいの顔をしてハグムに問う。


「いいや?何でもない」


そう言うと、ハグムは続けて言った。


「さっきの貴方と言う言葉は、胸に響いたな。もう一度、言ってくれないか」


「!!」


ハグムの言葉に、ハクタカはまた赤面した。


「せ、先生。勘弁してください」


「先生ではなく、名前で呼んでくれないか。ほら」


ぐっとハグムに顔を近づけられて、ハクタカの心臓は限界であった。


目の前の真っ赤な顔と、潤んだ目を見て、ハグムは離れ、また笑った。

ハクタカの前でしか見せない、あの笑顔だった。


「……おかえり」


ハグムがハクタカの左手をゆっくりと優しく包んで言った。


ハクタカは喉元に熱いものが込み上げて、少しの間声を出すことができなかったが、笑顔で、答えた。


「ただいま」


夜明けの太陽が、見つめ合う二人の横顔を明るく照らしていた。


最後まで読んでくれた読者の皆様、ありがとうございました。

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