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隻腕のハクタカ  作者: チョヴィスキー
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標的

「あら、ハクタカじゃないの!」


街を歩いていたハクタカに声をかけたのは、久しぶりに見るユノであった。


「ユノ!」


ハクタカは嬉しく思い、ユノに近づいた。


「久しぶりね、元気してた?」


「うん」


明るいユノの声を聞いて、ハクタカはにっこり笑った。

ユノはチボの頭を撫でて、チボも元気?と聞くと、チボは元気よく吠えた。


「ユノは何しているの?」


「お父様のお使いで、絹織物の買い付けよ。これでも一応商人の娘だから」


ユノは得意げに言った。


「へえ、すごい」


ユノの後ろに控えた侍女二人が、光沢のある布を手に抱え無言でハクタカに礼をしたので、つられてハクタカも礼をした。


「ねえ、もうこれでお終いよね?悪いけど、家に持って帰ってくれるかしら?私、ハクタカと少し話をしてから帰りたいわ」


ユノは侍女たちに慣れたように言いつけた。


「でも、お嬢様。お帰りは私どももお供させていただかないと…」


「平気よ。ハクタカがいるもの」


ユノが目配せしたのでハクタカが遠慮がちにユノは俺が送りますから、と言うと、侍女たちはそれでは、と頷いてその場から立ち去った。

二人は並んでゆっくり街中を歩いた。


「ハクタカはどこへいくつもり?」


「アニクのとこだよ」


「ああ、前言ってたチャトランガの子ね。あなたも物好きよね」


「ふふ、そうかな」


二人は顔を合わせて笑った。


「ねえ、そういえば、ハクタカ」


ユノが問うた。


「ん?」


「……ハグム様と、何かあった?」


「え?何かって?」


ハクタカはきょとん、とした。


「あ、いや、別に」


ユノはすぐ頭を振った。


「あ、そうそう。先生といえば仕事でまた全然家に帰れなくてね。ユノもいないから、少し寂しいかな」


へら、と笑うハクタカを見て、思わず胸がきゅんとなったユノは、ハクタカを抱きしめた。


「ゆ、ユノ!ここ、街中!お、俺、男だから!!ね!ユノ!?」


(ハグム様ったら、案外奥手なのかしら……)


ハクタカの首の横で考え込むユノを、ハクタカは小声で叫びながら必死に引き剥がそうとしていた。


「よお。お二人さん。仲の良いことで」


じゃれあう二人の顔に、突然、複数の影が落ちた。







ハグムは役所の自室で、椅子に深く腰掛け、脱力してだらりと両手を組み、上を向いて目を閉じていた。

しばらくして顔をおろし、目を開けると、目の前にはあの巻物があった。


最終的な決定は、『王命』を受けた本人の直筆で、了承したと王宮に返事をすることになっている。


(国の意向など、左大臣の命令など、私は知るものか)


ハグムは巻物を睨みつけた。




「ハグム殿、失礼します!」


聞き慣れた、緊張で上ずった声が、扉の向こうから聞こえた。


「……入ってくれ」


ハグムがそう答えると、ドムが、恭しく部屋に入ってきた。


「すみません、またいつものやつです」


「ああ、ドム、ありがとう」


ハグムは風呂敷包みを受け取り、机に置いた。


(ハクタカも、毎回わざわざこのようなことをしなくてもよいのに…)


普段は嬉しかった弁当の差し入れだったが、今日は気分が全く上がらなかった。

ハグムが小さくため息をついていると、机の前でドムがしりごみしているのに気づいた。


「……まだ何か?」


ハグムがドムに顔を上げて聞いた。


「あ、あのう。ハクタカに言われたんです、なるべく早く開けてくれって」


「なぜ?」


「すみません、それを言わずに、あいつ、すぐ去っていってしまって」


「?」


不思議に思ったハグムは、風呂敷包みを開いた。

そこには、着替えと、弁当と、いつもは見ない文が置いてあった。


(……文?)


簡易的に綴られた文であった。

文字を読もうと、ハグムは文に顔を近づけた。


『先生 いつもお仕事お疲れ様です。先程、少し奇妙なことがあったのでお知らせします。家の庭に、袋に入れられた土で固められた鼠が放り込まれていました。誰かのいたずらかと思いましたが気持ちが悪かったので、一応先生にご報告しなければと思い、突然の文、申し訳ありません。袋と鼠は後で庭で焼くつもりです。それでは ハクタカ』


(……袋と、土に固められた、鼠…?)


ハグムは顎に手をやり、しばらく考え込んでいた。

ドムは、ハクタカからの伝言を伝えた後、この部屋から出て行ってよいのかどうかわからず、逡巡していた。


「ハグム殿、すみません。本日夕刻よりひどい雨が降ると空界殿<空界師の仕事場>からお触れが出ており、役所で雨漏り対策の準備を任されております。私はこれで失礼します」


「ああ」


ハグムは文を見たままドムに返事をした。


(雨……)


ドムの言葉を半分聞きながら、文の文字を読み返していたハグムは、青ざめてすぐさま椅子から立ち上がった。


「ドム……ハクタカは、これをいつ役所に持ってきた…?」


「へ?半リン<=約三十分>前くらいかと。え!?ハグム殿!?」


ハグムは部屋から駆け出していった。


(まさか、…まさか……!)


治安警察部入り口の扉が一気に開かれ、ハグムが叫んだ。


「シバを出してくれ!今すぐだ!!」








ユノは、はっとして叫んだ。


「あなたたち!いつぞやの!」


ユノの隣で、ウ“――ッと、チボは低く唸った。


「よぉ、久しぶりだなあ」


男たちはにやにやとハクタカを見下ろしていた。

ハクタカとユノの前に立ちはだかったのは、彼らが初めて出会ったあの日、絡んできたならず者の三人の男たちであった。

ハクタカは、ユノの方に左手を広げ、ユノを後ろに庇った。


「何か用か?」


真ん中の大男の方をじっと見上げて、ハクタカが言った。

挿絵(By みてみん)


「なんだよ、冷てぇな。俺たちと遊ぼうぜ」


男たちが、無言でじりじりとこちらに近寄ってきた。

ハクタカ達は、街の大通りから一本入った細道へ、そして人気のない、簡素な家裏に自然と案内される形になった。

ハクタカは危険な予感を察知し、大男に向かって拳を構えると、大男は言った。


「おっと。暴力はなしな。姉ちゃんがどうなってもしらねぇぞ」


タカがすかさず後ろを振り向くと、手首を後ろに締め上げられ、首に小刀を突きつけられた、ユノの姿があった。


「ユノ!」


ハクタカは目を見開いた。


(しまった、この三人以外に仲間がいたのか!)


「…っ」


ユノは顔を歪めていた。

ハクタカの前に三人、そしてユノの周りに小刀を突きつける男とその周りの男たちは三人いた。

ユノを人質にされては、ハクタカも動きがとれなかった。

ハクタカはちらり、とチボに目をやった。

チボは、ユノに小刃を向ける男に、唸っていた。


「チボ、ユノを助けろ!」


ハクタカは構わず叫んだ。

ハクタカの声で、チボは飛び上がり、小刀を持っていた男の手首に噛みついた。


「っ!いってぇ!!」


男の小刀が地に落ちた。


(しめた!)


ハクタカは男の隙を狙って、ユノの手をぐいっと、引っ張った。


「ユノ、逃げて!」


「うん!!」


ハクタカは大通りへ足を向け、真正面の大男の間をするり、と通り抜け、ユノだけでも大通りに逃すため、思い切りユノの背中を押した。


「逃すかよ!」


「っつ!」


男のうちの一人が、逃げようとしたユノの髪をぐっと引っ張った。


「ははっ、必死だね」


もがき、転んだユノを見て、男たちは笑っていた。


「このくそ犬!!」


さらにチボに噛まれた男は、チボのお腹を下から上へ蹴り上げていた。

チボはキャン、と鳴いてよろめいて横ばいになった。

ハクタカは、立ち止まり、青ざめて男たちに叫んだ。


「やめろ!!おまえたちの目的はなんだ」


「この姉ちゃんの身代金、と言いたいところだが…俺たちのカモはおめえだ」


「……俺?」


「おめえの方が、儲かる仕事だったんでね」


(?何を言っているんだこいつは)


ハクタカは、男たちから一歩下がった。


「おめえには借りもあるしよ。たっぷり可愛がってやる」


そういうと、男はハクタカの顔を思いっきり殴った。


「きゃあ!」


その瞬間、ユノが叫んだ。

ハクタカは後ろに吹っ飛ばされ、家の壁に激突した。

ハクタカは、左手をつき、すぐ上半身を起こした。

口の中に広がった鉄臭いぬめりを、ハクタカは地面に吐いた。


「俺を痛めつけるのが目的か?そうしたら、ユノは関係ない。離して」


「嫌だね。おめえの格好悪い様を、姉ちゃんにみせつけてやるさ」


「ユノを逃しても、俺は逃げないし、動かない。そう約束する。だから」


「はっ、信じられるかよそんなもん」


ユノは、跪かされ、背を男に蹴られ、髪の毛を引っ張られたままだ。


「動くなよ。でないとこの姉ちゃんも一緒に痛めつけてやるからな」


「……っ」


ハクタカは観念して、左手をだらり、と垂らした。

それと同時に、一人、また一人、と無抵抗のハクタカに、男たちが殴りかかった。

ユノは見ていられず、思わず目をそらした。

横たわっていたチボが起き上がり、男たちに飛びかかろうとする。


「チボ!」


男たちに組み敷かれ、地面に伏せるハクタカが叫んだ。


「手を、出しちゃ、いけない。待て、だ」


くぅ、とチボは一歩下がった。


ハクタカは、ユノとチボが無事であるようにと、それだけを思いながら、必死に歯をくいしばった。


【チョヴィスキーからのお願い】

小説を読んでいただいて本当にありがとうございます

この小説を読み、少しでも応援していただけたら幸いです…!


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みなさんの応援のおかげで、なんとか作品を続けています

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