威圧感子息の愛
「なあ、連れてこいよアスター」
「嫌だ。」
即答を返すとレオもユーリもくすくすと笑い出す。それに不快感を抱くが、何も言わずに書類を処理する。
「なんだよ、無理だと思ったけどお前でも女性を口説けるんだな」
「口説いてない」
今も昔も女性を口説いた覚えもない。
俺はあまり口数が多い方ではないが、それに輪をかけてティエラは喋らない。
それでも隠せない表情から何を考えているかわかるが。
「で、そろそろ求婚は受けて貰えそうなのか?」
「どうせ密偵をつけてるんだろ」
「つけてるけどな。でもお前たちの会話を聞き取ることは難しいらしくて行動報告しかないんだよ」
「お邪魔はいけませんわレオ」
「とか言ってユーリも気になるだろ」
「それは否定しませんけど」
くだらない。人のあれこれに口を出さないで欲しい。
本当、その点。
言葉が少ないティエラの傍はとても心地よかった。
誰の視線も気にせずに済むのは幼い頃から衆目に晒され続けてきた俺の心を確かにいやした。初めは不快感を覚えないから彼女なら抱くことは可能だろう。
その程度の認識であったが、今は居ないと落ち着けないほど彼女を大切に思いだしていた。
恋と言うにはとても静かな熱情。
じわじわと身に拡がるそれ。
俺はティエラを愛していた。
ティエラも最近は俺がそばにいても嫌がらなくなって来ているので、希望を持って根回しは進めている。
親戚への養子縁組とか。
グリーリーフ男爵家と交流をしたりとか。
「でも本当に不思議ねえ。貴方が一人の女性に固執しても周りが騒がないなんて」
「そこに居るのが当たり前に感じるから、だそうだ。とはいえ逢ったことも無い人物にはさすがにスキルの効果が出ないから親世代はギャーギャー言ってるけどな」
「ああ…父様も母様も容赦なく黙らせているあれね。全く部外者はうるさいわよねえ」
と、そんな雑談をしているともう夕暮れだった。書類を片付けて、持ち帰るものは鞄に入れる。
「ん?アスターお前もう帰るのか?」
「ああ、夕食の約束がある」
「……まさか…!」
何故か目を輝かせたレオにふっと笑って、部屋を出る。
今夜はティエラとデートだ。少し早めに準備せねばいけない。
「またせたか」
「いえ」
とは言え、学園の中だ。
グリーリーフ家は裕福ではない。ティエラも食事の量を減らしていることが多々見受けられる
それこそ初めて会った時、必死に貯めたお金で買ったクッキーを食べたからこそあれほど涙したのだろう。
かと言って俺やカーシュが金を出す度に辛そうな顔をするから迂闊に物も買ってやれない。恐らく彼女のプライドが傷つくのだろう。
「悪いな付き合わせて。見てみたかったんだ」
「……私も興味はあったので」
今日のデートは学園の時計台の展望台から城下を見下ろすと言ったものだった。
彼女の言葉は嬉しいが、本当に興味があったら彼女は一人で行ける。
バスケットを片手にティエラの手を引き夜道をエスコートする。
「暗いから足元に気をつけて」
「ありがとうございます」
静かな校舎を歩いて展望台を登る。
展望台から見える夜の風景はとても綺麗だった。
「ほら、食え」
「え、はい」
ベンチにシートを敷いてそこにバスケットの中身を広げる。
「文句あるのか?」
「あ、いえ」
パンからはみ出た具材。
そもそも少し形の歪なサンドイッチ。
具材は用意させたからあとはパンを切って挟むだけだから簡単ですよと笑っていたカーシュが憎らしい。
「俺の手作りだ。文句あるなら食うな」
「……いえ。ありがとうございます?」
なんで疑問形なんだ。恐らくなんで俺が作ったのか疑問なんだろう。
ほかの女たちのようにガッカリしたから、では無いと言うのはわかる。
「美味しいです」
「………」
味は外注だとは言えなかった。
嬉しそうに笑う彼女同様、俺も嬉しかったから。俺も不格好なサンドイッチを手に取って頬張る。味は、悪くない。味は。
「………」
「………」
夜景を堪能しつつ、どうしても彼女が疑問を思っているのが表情から伺い見れた。
俺の手作りがとても気になるらしい。
外食をしたらお前気にするだろ、なんて言ったら確実に彼女の表情は陰る。
それでは気にさせないようにと作った意味が無い。
「……お前が喜ぶと思ったんだ」
ふと思い浮かんで言ってみたものの、だいぶ似合わないセリフだった。
顔が赤くなったのでそっぽを向けばくすくすと堪えきれなかったのか笑い声がこぼれ落ちた。
「……ありがとうございますアスター様」
嬉しそうな笑顔と、綺麗な夜景と。
愛しい女。
気づけば、その手を引いて抱きしめていた。
とてもとても居心地の良い彼女。
「…俺と結婚して欲しい」
咄嗟にでたプロポーズだった。
だが、それでも彼女はーーーーーーーーー。




