第8話 ゴブリン討伐
遅くなってすみません。
今回も読み難いです。
「はぁはぁ……」
フィリアは流れる汗を手の甲で払っていた。
先程からボブ・ゴブリンに全く攻撃が当たらない。いや、当たらないのではなく、ボブ・ゴブリンがフィリアの行動を読んでいる。
何度もフィリアは渾身の剣撃を放つ。
しかし、どれもボブ・ゴブリンに当たる事はない。全て軽々しく避けられてしまうのだ。
「なんで……当たらないの……」
もう……何回剣を振ったのか分からない。
それ程に攻撃を繰り出しているのにも関わらず、ボブ・ゴブリンには当たらない。
フィリアは薄々感じていた。
このボブ・ゴブリンは普通の個体と違う。
出会った時から感じていたが、このボブ・ゴブリンは余りにも殺気を放ち、まるで操られているかのように行動しているのだ。
フィリアはボブ・ゴブリンを睨む。
すると、やっと気づいたのかと言うように、不気味な笑みを浮かべて駆け出した。
「……っ!」
ボブ・ゴブリンの剣がフィリアを襲う。
滑らかに煌めく刀身がフィリアの白い肌を少しだけ切り裂いた。
血潮が空中に吹き出す。
フィアナは血が流れる腕を抑えながら、ボブ・ゴブリンから距離を離した。
少し切られただけなのに、フィアナの腕はプルプルと不自然に震えていた。
「……毒ね」
フィアナは直ぐに止血をする。
しかし、既に毒は回っていたのか、震えが止まることはない。これでは、剣を力強く握りしめることが出来ない。何度も腕を押さえつけるが、震えが止まる事はなかった。
不意にボブ・ゴブリンが笑みを浮かべる。
あたかもフィアナが苦しむ姿を待っていたかのように……。
フィアナは怪我をしていない左手で剣を握りしめる。だが、利き手ではない腕は右手に比べて思うように力が入らなかった。
「……はっきり言ってヤバイかな」
フィアナは遠くを見据えて囁いた。
未だに右手は小刻みに震えている。
そして、フィアナがボブ・ゴブリンに視線を送った瞬間、ボブ・ゴブリンは笑みを浮かべたまま剣を構え、地面を力強く蹴り出した。
***
その頃。
レクスは10体目のゴブリンを倒していた。
最後はあっけなく、レクスが剣を振った衝撃波により数メートル吹き飛んで、倒れこんだゴブリンはレクスの斬撃で血を流した。
ゴブリンの耳を素早く剥ぎ取るレクス。
しかし、レクスには何か嫌な気配を先程から感じ取っていた。
「この感覚……似てるな」
レクスは懐かしむように集中する。
気づいてないのか、レクスの目は魔族の特徴である赤色に変化していた。それを忘れる程にレクスは気配を察知する事に集中した。
レクスの周りに精霊が微かに輝く。
どうやら精霊達もレクスが感じた気配を感じ取り、慌てた様子で会話をしていた。
「レクスこの感じ……」
「あぁ……間違いない……」
レクスは確信したように、
「……魔族だ」
殺気だった声を発していた。
***
フィアナは身体中が小刻みに震えていた。
その身体には切り傷ほどの傷が無数に刻み込められている。ボブ・ゴブリンの剣を受け、毒が身体中に回っているのだろう。
「はぁはぁ……」
フィアナは震える身体を無理やり動かして、ボブ・ゴブリンの攻撃を避けている。気を少しでも抜くと、ボブ・ゴブリンの剣を受けてしまう。ボブ・ゴブリンの攻撃をあと一度でも受けたら、フィアナは動けなくなる。
身体が限界な事はフィアナも理解していた。
ボブ・ゴブリンは容赦なく攻撃を繰り出す。
限界な身体でもフィアナは剣を交わし、体制を整えて反撃を伺った。だが、フィアナが反撃を加える隙さえボブ・ゴブリンは見せなかった。まるで考えていることを読まれているような気持ちにフィアナは襲われる。
そんなフィアナに剣が振り下ろされた。
空中を裂き、フィアナをギリギリで通過する。それでもフィアナは攻撃を避けるが、バランスを崩して、その場に倒れこんだ。
「……は、早く立ち上がらないと」
フィアナは足を動かした。
しかし、足は先程よりも震えを増し、自分自身の命令さえも聞かなくなっていた。
何度もフィリアは足を叩いた。
しかし、震えは止まらず、足が動く事はなく、フィアナは未だに地面と倒れている。
その瞬間……。
フィアナは空中を見上げた。
すると、そこには太陽の光を反射させる金属が、ゆっくりとフィアナに近づいていた。
「………………ごめんレクス」
フィアナは弱々しく囁き目を閉じる。
その時が来るまで目を瞑った。
だが、フィアナは痛みを感じる事はなかった。寧ろ、不穏なほどに先程から音がない。
急に耳を閉じたように静寂だった。
「あれ……私……?」
フィアナはゆっくりと目を開いた。
その表情は何が起きたのと言いたげだ。
慌てた様子で辺りを見渡す。
しかし、自分自身の真上に剣が二本浮かんでいるのが、視界に入ってきたのだ。
「え? …………えぇッ!?」
慌ててフィアナは息を飲み込む。
すると、先程まで聞こえなかったはずの、聞き覚えのある優しい声が聞こえてくる。
フィアナは静かに耳を傾けた。
「大丈夫か……フィアナ?」
「れ、レクスっ!? な、なんで!?」
「もしかしてと思ってな……」
レクスはそう言ってボブ・ゴブリンの剣を力強く弾き飛ばした。ボブ・ゴブリンは反動により、体制を崩して後ろに後退りする。
それを見てレクスはフィアナに魔法を使う。
中級魔法【エクスヒール】
毒などを完全に回復させ、身体の傷も少量であれば回復する治癒魔法だった。
「それより何があった?」
「アイツにやられたのよ……」
「あのボブ・ゴブリンにか?」
訳もわからんっと言った表情のレクス。
「バカにしない方がいいわよ……あのボブ・ゴブリン……普通のと違うから」
「……確かに気配が異様だ」
静かにレクスは考える。
そして、一つの答えに辿り着いた。
「アイツ……魔族の血が混ざってるな」
「え? レクスなんて言ったの?」
「アイツには魔族の血が混ざっている。恐らく、どこかの魔族に入れられたんだろう」
レクスは真剣にそう答えを述べた。
魔族の血を混ぜられた魔獣は、身体の自由を奪われ眷属となってしまう。それが、魔獣に課せられた運命であり、定めでもある。
魔族の血に反発する魔獣もいるが、それは一握り程度しかいない。レクス達の前にいるボブ・ゴブリンは運悪く操られているのだ。
レクスは殺気だった様子で剣を構えた。
このボブ・ゴブリンを眷属にした魔族に対してと、フィアナをここまで追い詰めたボブ・ゴブリンに対しての殺気だった。
「さぁ……次は俺が相手だ」
レクスは挑発するように指を上に挙げた。
それを見たボブ・ゴブリンは先ほどと同じ笑みを浮かべてレクスに剣を振り下ろす。
「……そんなもんか?」
レクスは、ボブ・ゴブリンの剣を簡単に交わし、素早く後ろに回っていた。慌てた様子でボブ・ゴブリンがレクスの方を振り向く。
しかし、既にそこにはレクスはいなかった。
代わりにボブ・ゴブリンの腕が宙を飛ぶ。
ボブ・ゴブリンは「分からない」表情で切れた腕を抑えてレクスから距離を離した。
「フィアナ……見ておけ……」
レクスは剣を構え地面を強く蹴った。
「これが剣の使い方だ!」
渾身の剣撃がボブ・ゴブリンに放たれる。
ボブ・ゴブリンは、その斬撃を剣で防ぐが、強大過ぎる力に耐え切れず、ボブ・ゴブリンの持っていた剣は軽々しく粉砕した。
一瞬だけボブ・ゴブリンは表情を変える。
だが、すでに遅かった。
剣を壊したレクスの斬撃が再びボブ・ゴブリンに襲いかかっていた。ボブ・ゴブリンは、レクスの剣を死ぬ気で避け切った。
「ほう……避けるのか……」
レクスは何度も剣を振るう。
それを見ていたフィアナは戦慄していた。
レクスの振っている剣は、フィアナには振っている様子すら目に見えなかったのだ。
レクスはただ立ち尽くしている。
それなのに剣を振った爆音がなり、死ぬ気で避けているボブ・ゴブリンが見えていた。
「だが……これで終わりだ」
次の瞬間。
レクスの瞳が一瞬だけ赤く煌めいた。
そうフィアナが考えた時には、ボブ・ゴブリンの体は半分に切り裂かれ、無様に血潮を撒き散らして、地面に倒れ込んでいた。
「フィアナ。終わったぞ」
「あ、うん……凄かったね」
フィアナは、その言葉しか思い浮かばなかった。自分よりも遥かに高みの存在を見た時、人はどう言う反応をすればいいか困るのだ。
全くフィアナの頭は回転をしていない。
先程の戦いが夢と思えてしまうほどに……。
気づけばフィアナはレクスを目で追っていた。レクスが剣を鞘に収めるところ、レクスが不思議そうに首を傾げる所まで。
「ねぇ……レクス……」
フィアナは何故かレクスを読んでいた。
声に出して始めてフィアナは驚く。
「なんだ?」
「あの……その……ね」
フィアナには考えが浮かんでいた。
何を言うかはすでに決まっているのだ。
しかし、それを再度考えてしまうと、恥ずかし過ぎて言葉が思うように出なかった。
「わ、私に! 剣を教えて欲しいの!」
「……剣?」
レクスは驚いたように首を傾げていた……。
次回は日曜日か月曜日の更新になります。




