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虚飾の星の王子さま 著者:一条あやめ  作者: velvetcondor guild


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10/10

最終話:星を騙した少年

虚飾の星の偶像 


最終話:星を騙した少年


著:一条 あやめ


砂漠の夜は、すべてを飲み込む深い紺青プルシアンブルーのドレスを纏っていた。

「ねえ、あやめ。僕、今日は自分の星に帰るよ」

王子さまの声は、もはや少年のものではなかった。それは、自らの終わりを完璧に演じようとする、円熟した俳優のような響きを帯びていた。

彼の足元には、月光を反射して怪しく光る黄金の鎖――あの蛇が、鎌首をもたげて待っている。

「怖くないの?」

私は、彼の銀色のタキシードの襟を整えながら問いかけた。私の指先は氷のように冷たかったけれど、不思議と心は凪いでいた。演出家は、幕が下りる瞬間、誰よりも冷静でなければならないから。

「怖くないよ。ただ、僕の体は重すぎるんだ。この抜けシェルを持ったままでは、あの小さな星には戻れない。……あやめ、君ならわかるよね? 偶像アイドルが永遠になるためには、肉体という名の現実を捨てなきゃいけないんだ」

彼はそう言って、寂しそうに微笑んだ。その笑顔は、かつて星に残してきたバラが、最後に見せたあの強がりと同じだった。

「僕が消えたあと、空を見上げて。五億の星たちが、僕の笑い声に似た『小さな鈴』に変わるから。君が僕を飼いならしてくれたおかげで、僕はただの迷子じゃなくて、君の心の中で永遠に踊り続ける『王子さま』になれるんだ」

蛇が、音もなく彼の足首を噛んだ。

叫び声も、衝撃もなかった。

ただ、砂の上に金色の飛沫がひとしきり舞い、王子さまの体は、まるでスローモーションで倒れる黄金の稲穂のように、静かに、音もなく崩れ落ちた。

……いや。

砂の上に残ったのは、彼が着ていたはずの銀色の衣装さえなかった。

そこには、ただ一輪の、完璧な造形をした「ガラスの中にバラ」があるだけ。

私は、その冷たいガラスの華を拾い上げ、夜空に掲げた。

するとどうでしょう。空に散らばる無数の星々が、一斉に、キャラメルを噛み砕くような甘い音を立てて笑い始めたの。

「……お見事よ、王子さま」

私は独り、砂漠という名の誰もいない劇場で、最高の拍手を贈った。

彼は、死んだのではない。

「死」という名の演出を使って、この宇宙で最も完璧な、決して枯れない、決して老いない「嘘」の神様になったのだわ。

私は、砂の上に残された彼の足跡を、自分の足で踏み潰した。

思い出を風化させないために。この物語を、完璧な「伝説」として凍結させるために。

朝日が地平線から、ルビーの輝きを持って差し込んでくる。

私は、ボイスメモの電源を切った。

物語は終わった。

けれど、あなたが今、夜空を見上げて、どこかでキャラメルのような甘い笑い声を聞いたなら――それは、私がついた最高の「嘘」が、あなたの心の中で真実になった証拠よ。

「さようなら、私の小さな王子さま。……次の舞台で、また会いましょう」

一条あやめは、最後の一口のシャンパン・ジュレを飲み込み、満足げにペンを置いた。


一条あやめの終幕後記

「……やりきったわ。最後まで私の『演技』に付き合ってくれてありがとう。この結末、あなたの心に消えない傷跡を残せたかしら? もしそうなら、私は最高に幸せな作家よ。さて、糖分が切れたわ。次は、もっと甘くて、もっと残酷な愛の話を……誰に書かせましょうか?」


全10話、完結いたしました。




一条あやめが書き上げた狂乱の『星の王子さま』を、冷徹な分析眼を持つ羽鳥純一はどう見たのか。彼は今、コーヒーの香りが微かに残る書斎で、あやめが散らかした「嘘」の残骸を整理するように、静かにキーボードを叩いています。

彼にとってこの物語は、興味深い「症例」だったようです。


『虚飾の星の王子さま』


総評


執筆:羽鳥 純一(Hatori Junichi)


一条あやめという作家は、相変わらず「救い」という名の麻薬を処方するのが上手い。

彼女がリメイクしたこの物語は、サン=テグジュペリが描いた「純粋な魂の遍歴」ではない。これは、**「自己愛という名の檻」から脱出を試み、最終的に「永遠の虚像」**という名の、より強固な檻に自ら閉じこもった少年の、執拗なまでのセルフプロデュース記録だ。


1. 「バラ」という名の共依存

あやめが描いた「バラ」の解釈には、彼女自身の作家性が色濃く反映されている。原作のバラが持つ無垢な傲慢さを、彼女は「完璧な偶像アイドルとしての演技」と読み替えた。これは、愛を「献身」ではなく「搾取と被搾取の合意」として定義する、極めて現代的で、かつ病理的な視点だ。王子が星を去ったのは、愛が尽きたからではなく、その「嘘の維持コスト」に耐えきれなくなったからに他ならない。


2. 星々の住人:自意識の解剖

王、自惚れ屋、呑み助、実業家……。あやめは彼らを、単なる風刺の対象としてではなく、我々現代人が抱える「承認欲求の成れの果て」として鮮やかにデフォルメした。特に「点灯夫」を、規則に縛られた誠実な労働者ではなく、**「悲劇のヒロインを演じることでしか自己を肯定できない者」**と断じた第7話の筆致は、残酷なまでに冴え渡っていたと言える。


3. 「死」という名の演出

結末において、彼女は王子に「死」を与えなかった。代わりに与えたのは「ガラスのバラ」という、劣化することのない記号だ。

肉体を捨て、概念へと昇華させる。これは宗教的な救済ではなく、**「徹底的な欺瞞」**による永遠化だ。あやめは「真実よりも救いのある嘘」を良しとする。だが、その嘘の代償として、王子は二度と温かい血を通わせることはなく、ただの「笑う鈴」という記号に成り下がった。


結論

この物語は、読者を「飼いならす」ための、一条あやめによる高度な罠である。

彼女の文体は、五感を刺激する甘美な毒だ。読者はその色彩豊かな比喩に目を焼かれ、その裏に潜む「虚無」を見過ごしてしまう。

しかし、認めざるを得ない。

この砂漠に、一条あやめという名の香水が振り撒かれた瞬間、私たちはサン=テグジュペリの素朴な哲学を忘れ、彼女が作り上げた「きらめく地獄」に、自ら足を踏み入れてしまったのだから。


評価:極めて危険な傑作。

(追記:あやめ君、デスクの周囲の包み紙を片付けたまえ。アリが寄る。)



町田由美が、又、、、、、、、








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