第57話 はじまりのおわり
体育館倉庫に閉じ込められて何分くらいが経過したのだろうか。
埃臭い匂いにも鼻が慣れてしまったのだが、俺の膝の上で寝ている美少女の匂いには慣れないでいる。ずっと甘酸っぱい匂いを醸し出してくるもんだからドキドキは一向に収まらない。永久機関だよ、この子。
ガチャ!!
突如として開いた体育館の倉庫の扉。
「「自由くん!! 彩芽!!」」
同時に佳純と彩芽の声が倉庫内に響き渡る。
二人はすぐに俺達の存在に気が付くと、すぐに駆け寄ってくれる。
「大丈夫だった? 熱中症とかになってない?」
佳純は心配そうに俺と彩芽の様子を見比べてくれる。
「あ、ああ。大丈夫」
言われてみれば俺は、夏の密室に閉じ込められたんだよな。熱中症のリスクも高かったこの場所で、それを感じないってどんだけ彩芽に意識してたんだよ。
「自由くんは大丈夫そうだけど、彩芽は? 体調悪い?」
有紗が俺の膝で寝ている彩芽に問いかける。
「自由くんの膝枕が気持ち良すぎて寝ていただけだからなんの問題もない」
ピキッと空気が割れる音が聞こえた気がする。
なんで心配して駆け付けてくれた二人に、わざわざそんな発言をするのだろうか。彩芽は察しが良い子だってのに……あ、いや、その顔を見たらわかったわ。察しが良いからこその発言なのね。
「ほぅ。心配して探しまくっていたってのに、その間、二人はイチャついていたと」
佳純の圧のある言い方に彩芽は臆することなく言い返した。
「あながち間違いではない」
有紗がジトーっとこちらを見てくる。
「自由くん。あーしと佳純が告ったってのに、彩芽とイチャついてたのかよ」
有紗の言葉にどう返答して良いかわからず、苦笑いしかでなかった。
「それも問題ない。私もさっき告白したから。だからこうやって罪悪感なしで膝枕してもらっている」
「「はあ!?」」
「だから二人は、体育館倉庫で降井と月影がイチャついていたと学校内で噂を流すべき」
「そうはいくかっ!!」
有紗が俺の背後に回ると、後ろから抱き着いてくる。
俺の両肩におっぱいが乗っている、おっぱい枕状態。この密室でそんなことやるもんだから体温が一気に上昇してしまう。
「彩芽が膝枕なら、あーしは自由くんの枕になるし。ね? 自由くん。あーしの枕気持ちい?」
こちらへの問に、すかさず佳純が口を開いた。
「そんな肉ダルマの枕なんて臭いだけよ」
「臭くねーし!! めっちゃ良い匂いだし!! ね? 自由くん」
正直、良い匂いがして頭がくらくらする。
「そもそも、私に対抗しておっぱい枕とかあさはか。成績良いのにアホ」
「うっさいぞ、雌豚。彩芽はぶーぶー鳴いとけよ」
「ぶーぶー。自由くん。好き好きー」
「あ、きったねぇぞ!! 自由くん。わたしの方が自由くんのこと好きだからね」
一度告白をしてくれてタガが外れた二人は、俺へと好意の言葉を放ちまくってくる。いや、あまり好きを連発すると効力が薄れると思うんだけど、二人の感触を受けながらの好きは俺には効く。めっちゃ効く。
「やれやれ。ほんと、見た目だけの恋愛経験0なド変態共はなにもわかったない」
「「佳純もだろ」」
「私もそうよ。だけど、この雪村佳純はあんた達とは決定的な違いがある」
自信満々に言い放つ佳純は、俺の隣に腰かけると俺の腕にしがみついてくる。
その仕草がまるで恋人みたいで、なんだかまた違ったドキドキがやってくる。
「自由くん……」
「佳純……」
優しく俺の名前を呼んでくるもんだから、佳純の顔をまじまじと見る。
美少女というのに相応しい整っている顔立ちが、段々ととろけていく。
「うはぁ♡ 体育館に閉じ込められていた濃厚自由くんスメルが青春18切符を使って私の鼻の中を旅行してきたん♡ このスメルの中に住める♡♡」
ギュッ♡ と強く俺の腕に抱き着てくる。
「いや、ギュッ♡ じゃねーよ。一番ふざけてんだよ、お前が」
「ふざけて、ない♡ 自由くんが大好きっていう偽りのない私の気持ちだよ♡」
「ちょ!?」
だから、もう、簡単に好きとか言ってくんなよ。ドキドキしちゃうだろうが。なんて声に出して言えない俺のチキンハート。
「ああん♡ チョロい自由くんの、おいにーは更に格別なハーモニーを醸し出していりゅゅゅ♡」
佳純が隣で果てやがった。
「ちょっと、佳純。勝手に果てんなし。そんなん見てたら──」
耳元で、「はぁ♡ はぁ♡」と息遣いが荒くなっていっている有紗。こりゃあれだわ。
「自由きゅん♡ ありさお姉ちゃんの身体にもっとくっ付いて良いんだよ♡」
有紗もスイッチ入りやがった。なんだよ、変態は連鎖すんの?
「いや、有紗。女の子にもたれるなんてできねぇよ」
「ありさお姉ちゃんの身体を心配してくれりゅのやさし過ぎりゅゅゅゅ♡♡♡」
そのまま有紗は俺の身体に身を預けてくれる。
なんで今ので果ててんだよ。意味わかんねぇよ。
「……罵って」
「そう言うと思ったわ」
この流れなら彩芽も果てたいだろうと思ったが、そうはいくか。絶対になにもしてやらない。そう思っていると、「ぶふぃ♡」とセルフでブヒりだした。
「他の女の子には優しいのに、私だけ放置とか……たぎる♡」
「今のやり取りを見て優しさを感じ取ったのなら、お前の頭はイカれているぞ」
「イカれていましゅ♡ だから、あやめを、はやく、ののしって♡」
そうはいくかよ。
「彩芽は綺麗で美人でクールな女の子だから罵るなんて俺にはできないよ」
「……ぶっ♡ 好きな人からそんなん言われたら……果てる♡」
そのまま彩芽は鼻血を出して逝ってしまわれた。
あ、この子ったらいつの間にか、なんでもドMスイッチが発動してたのね。
ぜぇ♡ はぁ♡ と果てている三人娘。そんな状況下で聞こえてくる足音。
「雪村、水瀬。降井と月影は、見つかった、か……?」
体育の先生が慌てて入って来た。それに続いて、何人かのクラスメイト達の姿も見えた。
今の俺の状況を見て固まってしまった。
「いや、こんな展開になる生徒は初めてだよ、まじで」
あははー。先生、俺も初めてです。
♢
体育の後に行方不明になった降井と月影。もしかしたら降井と月影はデキてしまって駆け落ちしたのではないだろうか。
学園の三大美女がひとりとそんな展開は許さん。という男子達の思いが多々あったらしいが、素直にクラスメイトが消えたのを心配する人達もいたみたいで、みんなで俺と彩芽を探してくれていたらしい。
そんな中で、降井が学園の三大美女達をたぶらかしている状況を目にしてしまい、俺は完全に学園の敵という認知になってしまった。
それはまぁ冗談半分の世界であるのだが、俺達を閉じ込めた連中は冗談では済まない。
彼等は罰として夏休みの間、反省文を書かされることになってしまった。ただ、彼等にとってはそんなことよりも、もっと辛い状況が待ち構えていた。
今回の件は流石に流石にやりすぎだというクラスメイトの認識で、クラスから浮いた存在になってしまったようだ。
人気者だったが故に、今回の行動はクラスの人達もドン引きだったとか。人気者の陽キャ様達が一変、クラスの嫌われ者と化してしまった。これは夏休みが解決してくれる話題でもないが、俺にはなんの関係もない話だ。
そんなことよりも──。
「「「自由くん」」」
今日から夏休み。そんな帰り道に学園の三大美女が声をかけてくれる。
「「「一緒にバイト行こっ」」」
三人仲良く重ねる声に対し、俺は「ああ」と頷き、四人でバイト先に向かう。
コスプレカフェを始めたら学園の三大美女が性癖を曝け出してやって来たんだけども、まさかその三大美女様から告白されるなんて夢にも思わなかったな。
告白されたのは正直に嬉しい。だけど、全員を選ぶだなんてことは決してできない。誰かひとりを選ばないといけない。それはこの三人の内の一人なのか。それとも他の誰かなのか。それはわからないが、今はこうやってバイト仲間として一緒にいられる時間を大切にできたらと思う。
第一章 完




