表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の愛し子は創られた恋に悩まされる  作者: 夜高叶夜
第一部 すでに死にそうな幼少編
16/180

第四章 04 魔人から戻った少女

 ――トントン。

 ノックの音に振り返る。イーサンが「どうぞ」と応じ、ゆっくりドアがひらかれた。入って来たのは琥珀色の金髪にグレーの瞳をした女性。


「レジーナ先生⁉」

「ラティエルお嬢様⁉ どうしてこちらに?」


 それはこっちの台詞せりふだと、ラティエルは頬をふくらませた。裏切り者にくるりと背中を向けて黙り込む。足音が近づいて、しおらしい声が背中にかけられた。


「お嬢様……、怒っておいでですか?」

「…………」

「申し訳ございません。ですが……」

「あ~、あ~!! 言い訳なんか聞いてあげない! 先生はわたしを裏切ったのよ! ほかの大人たちとおんなじ!」


 椅子の上に三角座りをして耳をふさぐ。本当はちゃんとわかっている。のけ者にしたんじゃない。みんな優しいだけ。愛情深い人たちに囲まれ、ラティエルは幸せ者だ。

 でももう少しだけ、わからないフリをしたい。星乃だったときには、聞きわけよく手放してしまった大人たちのぬくもりから、まだ離れたくなかった。

 言葉に詰まったレジーナに、ふくれっ面で言い放つ。


「先生が答えて! どうしてここにいるの?」

「わたくしは……」


 レジーナは助けを求めるようにセレーネを見る。それを受けてセレーネが頷き、イーサンが隣のカーテンをあけた。そこには身じろぎもせず横たわる、若い女性の姿があった。

「あ……」と気まずい思いで視線をそむけたラティエルだったが、あることに気がつく。


「もしかしてこの人、あのときの?」


 琥珀色の金髪に、レジーナと似た面立おもだち。目をあければグレーの瞳があるのだろう。


「わたくしの妹です。お嬢様、教えてくださり、本当にありがとうございます」


 ラティエルの手を取り、レジーナはうれしそうに微笑んだ。


「よかった。先生の妹君も生きてらしたのね!」

「……はい、奥様のおかげです。今もずっと治療を続けていただき、深く感謝しております」


 セレーネの説明によれば――魔人に対して唱えていた詩のような呪文は、体に流れる黒い血液を浄化し、筋肉組織を元の状態に戻すもの。手記にしるされていた『血の浄化』の部分を『命の浄化』とラティエルが読み間違えたために、勘違いが起こったのだ。

 さらには、人間の生命力でもある魔力を注ぎ込んだことで、セレーネの魔力が尽きてしまった――というのが、一連の結末である。


 ――誰も死んでいない。


 この成果をもたらしたのが、自分の母親だということが誇らしかった。



 肩の力が抜けると同時に、大きなあくびも一緒に飛び出す。早く寝たとはいえ、まだ夜中。それに夢見も最悪だった。


「あらあら、ここで寝てはだめよ。ラティエル」

「ふぁい、おかあさま」

「ラティ、よく聞いて。あなたには今すぐ屋敷へ戻ってほしいの」

「ふぅん……、ん?」

「それからジェームスに、この手紙を渡してちょうだい」


 そうそう、あれもこれもと、たくさんの注意事項を聞かされて、本格的に眠くなってきた。でもこれだけは聞いておかねばならない。


「お母様とお父様は?」

「しばらくどこかへ身を隠すわ。連絡方法は追って知らせます」

変書鳩へんしょばとじゃだめなの? わたしも一緒にいたい」

「敵が魔法を感知する能力を持っていたら、わたくしが生きていることに気づくわ。こういうときは物理的なやり取りが一番なの」

「そっか……」


 ぐりぐりと目をこするラティエルの手を取って、セレーネは目線を合わせた。


「毒を盛った犯人が屋敷にいるの。どうか気をつけて。――ラティエル、愛しているわ」


 ぎゅうぎゅうに抱きしめられて涙をこらえる。痛かったわけじゃない。久しぶりの感触と母の優しい匂いを吸い込んで、自室にきざんだ魔法陣へと転移した。魔法陣を使えば、そんなに魔力は減らなかった。


 一時的に覚醒し、戻ったら一番目にやるべきことを思い出す。家令かれいのジェームスに手紙を渡すことだ。

 そうっとジェームスの私室へ忍び寄り、ドアの下から手紙を入れようとかがんだときだった。目の前でドアがスッとひらき、切れ味のよさそうな切っ先がラティエルの鼻先を捕らえた。


「ヒッ⁉」

「なっ、お嬢様? ここで何を……、お嬢様⁉」


 そのあとの記憶はない。目が覚めたらいつもの寝室にいた。手紙はちゃんとジェームスに渡った……と思いたい。


 それにしても、いつもなら起こしに来る時間なのに、乳母のアンナがやって来ない。ベッドから下りて寝室のドアをあけると、ちょうどやって来たアンナが沈痛な面持ちで口をひらく。


「お嬢様……、気をしっかりとお持ちになって、聞いてくださいませ」

「な、なに? どうしたの?」

「今朝早く、旦那様はグレアムを連れて領内の視察へ向かわれたのですが……、先ほど馬だけが戻って参りまして、今は領兵団総出で捜索を行っております」


 ああ、なるほど。とラティエルは内心で手を打った。セレーネを探しに出て谷へ落ちたことにするには、侍従のグレアムはうってつけの人選だ。ジェームスがうまくやったのだろう。もちろん、そんな態度はおくびにも出さない。ラティエルは渾身こんしんの演技で迎え撃つ。


「そそ、そんな……、おとうさま! あ~れ~……」

「お嬢様⁉ 頭でも打ちましたか?」

「…………」


 ――おかしい。そこは父を思って取り乱したと考えるものでは?

 自分はそんなに大根だったのか。はたまた迫真が過ぎたのか。床にいつくばったまま、ラティエルは長考ちょうこうに入った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ