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時代がかった服に身を包んだ男がのっそりと玄関に入り込んだ。
誰か来た気配を感じてこの組織の若い者が対応に現れ、途端に怪訝な顔になる。
「・・失礼ですが 何方様で?」
当然 警戒心全開である、この入り口には一見が勝手に入ってはこれない、来るなら玄関口にいる若い者から連絡が入るか,最低誰かが同行してここへ来るはずだ。
それが誰も案内もつけず、まして連絡なく一見さんが立ち寄れる場所ではない。
不審者として警戒しながらの確認作業に入っていると考えられる。
「表に4名倒れている、早く回収しろ」
とんでもない事をさらりと伝えた男であった。
対応している男の後ろからさらに数人の男たちが何やら不審な空気を感じて出てくる。
なんだと?! 彼等は互いに目配せをし合いその内の一人が表へと飛び出す。
「た 大変だ4名が倒されている!」
表に出た男が慌てて駆け込んで戻ってきて報告をしている。
その報告を受けて周りの雰囲気が険悪になりざわついた空気が流れる。
「・・もしかして あんたの仕業か?」
対応に出た男が そろりと最終確認する口調で尋ねる、周りの男たちはいつでも動ける戦闘体制モードに入っている。
「そうだ 邪魔だから排除した、早く回収しろ目立つだろう? それと誰か話の分かる上の人間を連れてきてくれ」
何の緊張感もなく、まして気負いもない声でその男は語る。
そんな男の様子に対応に出た男たちは一瞬どうするべきか迷っていた。
回らぬ頭で最善の策の一つとして、言われた通り上の人間に連絡しながらも更に奥から数名の人間が現れるまでこの男の監視体制に入る。
「騒がしい 何の騒ぎだ?」
それなりの恰幅の男が現れ、事の次第を尋ねる。
「若頭、、専務 実は・・・」
少し焦っていたのか自が一瞬出たが、直ぐに訂正して事の次第を話し始める。
・・・ほう
若い者の説明から何か感じたらしく、かなりその男を警戒していたが、何かを納得したのか険しい目はそのままに皆に対応を始める。
「どんな理由でここに来られたのか知りませんが、お話があるなら奥で聞きましょう。おい お前らは外の若いもんを運び込め」
その男は前後に殺気立つ者達に挟まれて、奥の応接間へと案内される。
その間 外で倒れている者達が次々に室内へ運び込まれていた。
その男は周りに何かあればただではおかん と何人もの者が血走った目でソファーに座る男を見ていた。
「・・少し変わった服を着ている様だが、同業者とも思えない。あんた何者だい?」
その男の前に対座して座った専務 と呼ばれた男は依然警戒心を解かずに尋ねる。
「俺か? 俺は元貴族様だ、これでいいか?」
貴族? それにはこの専務もどう返事を返して良いのか質問に詰まってしまう。
戦前にはそれに近いシステムが確かに存在していた、華族と呼ばれた階級だが戦後ほぼ70年が経過してそんな事実も時代の中に埋もれていた。
「元華族なのか?」
再度そろりと言い回しを変えて確認する専務である。
「少し違うがまぁいい、つい最近貴族から脱落した次第だ」
この男は何を言っている? この日本で正味の貴族など存在しない、言葉として独身貴族等の言い回しがあるが、本来の貴族身分を指している訳ではない。
それともこの場において尚もふざけた態度をとっているのか?
事によるとそんな態度はかなり後悔する羽目になる。
「・・冗談ですよね」
専務は本来はふざけるなと怒鳴りたい気分なのだが、この男から何か得体の知れない高圧的な雰囲気が流れており、場合によっては本当の貴族かと半信半疑の思いに駆られていた。
「元貴族は嘘ではない、ほんの数日前までの話だがな」
益々訳のわからぬ言い方をする、もしかして キ印 かと一瞬疑うが、そんな様子には見えない。
そんな専務にドアをノックして一人の男が専務に近づき、何やら耳打ちして頷いていた。
「倒れていた4名が意識を取り戻しました、気を失っただけで何も怪我もないとの報告です・・」
専務は前に座る男に静かに今あった報告を語る。
「そうか それは良かった・・」
その男はつまらなさそうに短く答える。
何なんだ こいつは? 今自分が置かれている立場を理解しているのか?
あまりに平然と受け答えする前に座る男に、どう対応するのが正解か理解に少し悩む。
「あんた・・ご自分の立場を理解しているのかい?」
専務は深いため息をついて 男を鋭い目で顔を男に少し近づけ覗き込む。
「おい そんなに不用心に俺に近づいていいのか?」
男は薄ら笑いを浮かべて、またしても意味深な言葉を吐いた 専務の頬が僅かに引きつった。
同時に男を取り囲むこの事務所の人間達が殺気だった。
この分らぬおっさんを分かるように教えてやろうと手が動き出す。
「待て!」 男の背後で動き出した者達を止めた専務だ。
「ふぅ 困った人だ、一応要件を先に聞こうか?」
その返答次第では一斉に男たちがその男に飛びかかるだろう。
「本題か? そうだな、、臨時職員希望とでも言っておこう、あくまである目的が済むまでは其方の希望する荒事にも対処するぞ」
専務の顔がかなり引きつっていた、、こんな騒ぎを起こしておいて臨時職員希望だと?!
おまけに荒事にも対応するだと?こいつはやはり キ印 か? 専務の我慢が切れかかっていた。
「おい 何やら楽しそうな男だな?」
ドアの外でこの騒ぎを聞いていたのか、一人の初老に近いかなりの貫禄がある男が部屋に入って来た。
その男が入室した途端に全員がきりっと姿勢を正していた。
「おやっさん・・いや社長 ここは私に任せて頂ければ、、」
専務が慌てて立ち上がり、社長に進言をした。
「まぁまぁ 近頃ない面白い出来事だ、俺も話を聞かせろ」
にこやかに笑いながら一人用ソファーに座り込む。
数名が新たに入室して社長の後ろに控えていた。
「さて 君の名から聞かせてもらえないか?」
その男はようやく本命が来たと微笑んだ。
「なぁ 老師、あんな事を言って良かったのかい?かなりこの道場が来客で煩くなりそうだが・・」
道場に着いてがらんとしている室内で4名は再度今後の事を語りだしていた。
少し前までは特殊班から派遣されていた者達がこの道場にて秘密の特訓を受けていたが、今現在は留守を守る派遣された自衛官が数名配置されているだけだ。
「ああ 米国の目先を一般人に変えれば相手も勝手が違い、少し混乱するだろう?つまり時間が稼げる事になると言うわけだ」
「それは承知していますが・・老師の身に何かあれば一大事です」
小田切が困惑した顔で今後の対応と成り行きを心配していた。
「はは こんな老体をそうは虐めないだろう?あの大国が?」
「・・分かりませんよ、あの国は裏と表がかなりはっきりしていますから」
大宮も心配そうに太蔵の今後に憂いを思っていた。
「まぁ この爺さんは只者じゃないし、そう心配しなくとも・・・」
軽い欠伸をして久保田はあっけらと語りだすと、他の者から厳しい視線が集まり慌てて口を閉じる。
「ははは まったくだ、久保田の言う通りだと思うぞ。一応用心はしておくがな」
太蔵も左程気にせずに時間稼ぎを行うべき作戦を練り始めていた。
「ねぇ 何だかこの頃 米国の様子が可笑しいと報告が上がっているのだけど、何かあったの?」
翌週に道場に尋ねてきたアナーシャが久保田を捕まえて問いただしていた。
「えっ? さ さぁ 俺は良く知らんなぁ・・・」
「あんた かなり演技が下手なのね・・それじゃ 何かあったと直ぐに分かるわ」
久保田には情報機関は絶対向かないとアナーシャは胸を張って断言する。
その豊かな胸に横目で凝視する久保田であった。
「う うるさいな、俺は何も知らん。知ってても教えん!」
「・・あんた 本当に馬鹿ね」
アナーシャから駄目だしされてさらに凹む久保田であった。
太蔵の道場周りが次第に不穏な空気が流れ始めている。




